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新太平洋大陸  作者: 双理
三章 精霊の王
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ギルド結成2

 ギルドの登録をしに集会所に向かうと、何かトラブルがあったのか、人だかりが出来ていた。

 人混みを掻き分けて中を覗いてみると、余りにも酷い惨状が目に入ってくる。


 椅子やテーブルなどが軒並み倒され、その上にあったと思われる筆記用具や各種用紙がそこら中に散乱していた。

 壁を見れば大きなヒビが入っているし、殆ど全部の窓が割れている。

 俺がいつも世話になっている、依頼が張り出される木製のボードも今は見る影もない有様だった。

 俺と真夏が呆然とその光景を眺めていると、片付けを仕切っていたしおりさんが話掛けてきた。


「やあー、新庄ちゃん。今日も真夏ちゃんと一緒なんだねー、どんな用事で来たのかなー?」


 しおりさんはいつもの調子で話しかけてきたが、どう考えても用事うんぬんよりも先に、優先して聞くべきことがある。


「何があった?いくらなんでも、荒れすぎだろ?」


「確かに……これは酷いですね」


 多分、喧嘩でもあったんだろうが、それにしても酷い惨状だ。


「別に大した事じゃないよー。ちょっと暴れ出した奴がいてねー、少し懲らしめてやっただけだよー」


 そう言うと、何故かしおりさんは集会所の壁際を見た。

 視線を辿ると、その先にはひとりの探索者が座り込んでいて、膝を抱えながら酷く怯えている様子だった。

 そいつはよほど恐ろしい目にあったのか、壁に向かって何度も「ごめんなさい」と呟いている。

 その横には、何箇所も顔を腫らした探索者が仰向けに地面に倒れていた。

 気を失なっているのか、ぴくりとも動かない。


「少しってレベルじゃねーだろ……」


「やりすぎですよ、しおりさん」


「そうかなー?手加減はしたんだけどねー」


 手加減した結果がコレかよ……

 これは後から聞いた話だが、探索者たちは軽く小突き合いをしていた程度で、集会所の被害の殆どは、しおりさんの手によるものだったらしい。


「人があんなぶっ飛び方するのは、初めて見たよ」


 これは、俺が話を聞いた奴の証言だ。

 何でも、人体が真横にスライドするようにぶっ飛び、一切そのスピードを落とすこのなく壁に激突してめり込んだらしい。

 これは後に『人間スライド事件』と命名されて、探索者たちの間で長く語り継がれる事になる。

 ……それはさておき。


「原因は何ですか?」


 俺が持った疑問を、代わりに真夏が聞いてくれた。

 探索者に荒くれ者が多いとはいえ、理由もなく喧嘩にはならない。

 どうせ下らない事だとは思うが……


「何でもー、女の子の取り合いが原因だったみたいだよー」


 何で他人事なんだよ……まさか、理由も知らずに割って入ったんじゃねーだろーな?

 まあ、しおりさんならあり得るか。


 それにしても、どこかで聞いたような話だ……

 真夏の方を見ると、前に絡まれたことを思い出しいたのか、げんなりとしていた。


「また、ですか……」


「そういえばー、真夏ちゃんも似た様なことがあったねー。この街の男の子はー、元気がありすぎて困ったものだよー」


 そう言ってしおりさんが顔を顰めると、真夏はあの時の怒りがぶり返したのか、頬を膨らませて怒り出した。


「本当ですよ!もっと考えて行動して欲しいですよね!」


 男の身の俺としては、なんだか肩身が狭い気分になる。

 居た堪れなくなった俺は、話題を変える事にする。


「あー……そう言えば、しおりさん、俺たちはギルドの登録に来たんだが……まあ、一旦帰った方が良さそうだな」


「そうだねー、今はちょーと無理かなー。片付けもあるしねー」


 だろうな、この状態では集会所も仕事どころじゃないだろ。

 周りにいた探索者たちも少しずつ帰り始めているし、集会所の職員は、黙々と片付けをしていた。


「俺たちも帰るするか」


「ですね。早く登録を済ませたかったんですけど……これでは仕方ないですもんね」


 真夏は残念そうにしているが、ここに長居しても邪魔になるだけだろう。

 しおりさんに別れを告げて帰ろうとすると、何か考え込んでいるように見えた。


「どうしたんだ?」


「いやねー、もしかしたらー、新庄ちゃんならーって思ってさー」


 随分ともったいぶった言い方をしてくる。


「何がだよ?」


「うん、そうしようー。ギルド登録の受付は私がやるからー、ふたり共ちょーっとだけ付き合って貰えるかなー?」


 しおりさんはそう言い残すと、俺達の返事を待たずに、集会所の奥に向かって歩き出してしまう。

 俺と真夏はその様子を見て顔を見合わせたが、受付をしてくれるって言うならついて行くしか無い。

 集会所の惨状をみた後では、逆らうことができなかったとも言える……


 俺たちが連れて行かれたのは、受付カウンターの奥にある個室だった。

 またハゲのいる所長室に通されるのかと思ったが、そうでは無いらしい。

 しおりさんに続き、俺たちも部屋の中に入る。


「待たせてごめんねー、ちょっとあっちの様子が気になっちゃってさー」


「いえ、大丈夫です。でも、そろそろ帰らせて貰ってもいいですか?」


 しおりさんが話し掛けたのは、随分と若く見える女だった。

 高校生ぐらいに見えるので、女の子と言っても良いぐらいだ。

 まだ幼い顔つきで、綺麗に染めた長い金髪を、頭の両脇で結っている。

 どうやらしおりさんに言われて、この部屋で待たされてたようだ。

 座っていてはっきりとは分からないが、身長はそう高くないように見える。

 それでも、真夏よりかは高そうだが……


「ごめんねー、もうちょっとー、お話しても良いかなー?」


「分かりました……」


 女の子は随分長い間待たされたのか、疲れたきった表情をしていた。


「新庄ちゃん、真夏ちゃん、この子が騒ぎの原因になったー、坂本結ちゃんだよー」


「済みません。ご迷惑をおかけして申し訳ないです」


「謝らないでよー、結ちゃんは何も悪くないからねー」


 しおりさんは、結と言うらしい女の子の頭を優しく撫で始めた。

 癖はあるが、基本的には優しい人ではある。

 しかし、結の方を見るとどこか怯えていて、少し震えているように見えた。

 多分、あの惨状を生み出した、しおりさんの修羅のような姿を目撃してしまったのだろう。

 トラウマにならなきゃいいんだが……


「しおりさん……こちらの方々はどちら様です?」


 しおりさんに撫でられ続ける恐怖に耐られなくなったのか、結は脱出をはかるために話題を変える事にしたようだ。

 その目論見は見事に当たって、しおりさんの手が結の頭から離れる。

 その瞬間の結が見せたホッとした表情を、俺は見逃さなかった。


「ああ、そうだねー。こっちが新庄ちゃんでー、こっちが真夏ちゃんだよー。ふたりとも唯ちゃんと同じ探索者だよー。先輩だねー」


 しおりさんの雑すぎる紹介によると、どうやら由依は探索者のようだった。

 年齢的に、成りたてといった感じだろうか。

 後、しおりさんに逆らいたく無いので口には出さなかったが、俺は探索者では無い。


「はあ、どうも……初めましてです」


「ああ……」


「はい……」


 互いに、なんとも言えない挨拶を交わす。

 しおりさん以外は、どうして紹介されたのかすら分かって無いのだから当然だった。

 コミュ力の高い真夏でさえ、言葉が出なかったようだ。


「なあ、しおりさん。何で俺達をここに連れてきたんだ?」


 当然の疑問をぶつける事にした。

 まずそれを聞かない事には、何がどうなっているのか分からないからだ。


「えーとねー、結ちゃんをー、新庄ちゃんと真夏ちゃんのギルドにー、入れてもらえないかなー?」


「はあ?」


 どうしてそんな話になるのか、全く理解ができなかった。

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