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新太平洋大陸  作者: 双理
二章 人形の村
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人形の村11

「新庄さん、問題が起きました。済みませんがすぐに一緒に来て頂けますか?」


 そんな事を言われて呼び出しを受けたのは、ダンジョンを攻略した翌日の事だった。

 朝食を済ませた俺は、これ以上俺の仕事は無いだろと、街に帰る為に荷造りを始めようかと考えていた時だった。

 そこに市原がやってきて俺を連れ出し、今はダンジョンの入り口に当たる廃墟を目指していた。


「それで、何があったんだ?」


「はい、本日未明のことですが、調査チームの一員がカルミナ村の定時の見回りをしていたところ、住人1名が行方不明になっている事が判明しました。確認したところ、姿が見えないのは昨日の女性だという事が分かっています」


「家出じゃないのか?」


「面白い冗談ですね」


 市原は苦笑しながら俺の冗談に答えてくれた。

 まあ、こちらが何もしなければ、丸一日、ボーッと突っ立っているような奴らだ。

 家出するとは思えない。


「村の周囲を捜索しましたが、未だその行方は不明。念の為に父親に話しかけたところ、昨日と同じクエストが発生している事が判明しました」


「それじゃあ、また娘を助けろって言ってんのか?」


「ええ、ダンジョンのある場所を教えてくれた住人の話も聞きましたが、全く同じ位置を示したようです」


 それはおかしな話だった。

 ダンジョンは、ダンジョンコアを持ち出すと数日の間を置いて消滅してしまう。

 いわゆる、ダンジョン崩壊と言われる現象だ。

 これは攻略されたダンジョン全てで確認されている事で、昨日のダンジョンもそろそろ崩壊し始めるはずだ。


「ダンジョンはまだあるのか?」


「はい、それは確認済みです。ダンジョン崩壊の兆しも全くありません」


 ……何か、この後の流れが分かる気がする。


「それでですが、風間一佐から任務を言い渡されました。もう一度。新庄さんを連れて再度ダンジョンを攻略しろとの事です」


「あー、そうか……事態は飲み込めたよ」


 俺は、まだ家に帰れそうも無かった。


 

 ダンジョンの入り口、廃墟の前には昨日と同じメンツが顔を並べていた。

 当然のように真夏の姿もあったのだが、今の俺には突っ込む気力は無い。


「久保と冴羽はいないのか?あいつらなら興味を持ちそうなもんだが……」


「本国からポータルの調査が認められたようで、朝からそちらに取り掛かってますよ」


「あー、なるほど。納得だ……」


 あのふたりはポータルに異常な関心を示していたので、そちらを優先したんだろう。


「それにしても、調査の許可が下りるのが早すぎないか?昨日、風間さんが伺いを立てたばかりだろ?」


「それがですね……あのポータルですが、どうやら新大陸中至る所にかなりの数が発見されたようで、寧ろ何も分からない方が危険だと判断されたようです」


 だとしたら、今頃は各国の学者様たちが大忙しって訳か。

 ご苦労な事だ。


「まあ、俺達は俺達の仕事をやるとするか」


「そうですね。急いでダンジョンに入りましょう」



 結果だけ言えば、ダンジョンでは昨日と同じ事を繰り返しただけだった。

 モンスターが強化されているなんて事もなく、念のためと連れて行かれたはいいが、俺と真夏は戦闘に参加する事もなかった。

 俺は何の為に来たんだろうな……


 驚いた事と言えば、ダンジョンコアが再び台座にあった事ぐらいだ。

 ダンジョンコアが復活したという事なんだろうが、俺は今までそんなことは聞いた事がない。

 やはりこのダンジョンは特別なもののようだ。

 久保の仕事が増える事になるだろう。


 行方不明だった娘も、再び台座の前に拘束されていたんだが、二度目ともなると助けるか悩むところだった。

 まあ、一応、連れ帰ったがな……

 この時点でステータスウインドウを確認してみたが、ワールドクエストの進行度は変わらず、同じダンジョンは再度攻略してもカウントはされないようだった。



「……って事なんだが、どう思う?」


 俺たちは駐屯地に戻り、久保と冴羽に事情を話した。


「……ネームドダンジョンは他とは違って、ダンジョン崩壊を起こさないという事でしょうか。興味深いですね」


 冴羽は俺の問いに答えこそしたが、何かでかい機械を弄っていてこちらに見向きもしない。


「恐らくダンジョンコアを再生成したのでしょう。それに何の意味があるかは、分かりませんが」


 久保の方も何かの端末の画面を見ていて、こちらには興味を示さなかった。

 まあ、伝えはしたんだから、後はどうなっても俺には関係ないが。


「それで、こっちは何か進展があったのか?」


「ええ、やはりこれは転移装置のようですね!」


「ポータル間がワームホールのようなもので繋がれているようで、一度訪れた事がある場所のポータルに一瞬で移動ができます」


 ふたりは一斉に振り返ると、俺を睨みつけながらそう説明してきた。

 さっきまでとはまるで反応が違う。


「……そっそうか。どうしてそれが分かったんだ?」


「「自分で試しましたから!」」


 そういう事らしい。

 怖くねーのかよ……


「これは凄いことですよ!ポータル間だけとはいえ、一瞬で転移が可能なのですからね!」


「ええ、ぜひこの技術を解明したものです」


 ふたりで手を取り合って、その喜びを分かち合っている。

 ……もう、付き合っちまえよ。


「こちらとしては、あなた方のように喜んでばかりはいられないがね」


 そこに現れたのは、風間さんだった。


「新庄、またダンジョン攻略に付き合わせてしまって悪かったな」


「気にすんな。特に何もしなかったしな」


 俺は風間さんにありのままを伝える。

 そんな事で、報酬の支払いを渋るような人じゃないしな。


「しかし、こいつは困ったものだな」


「そうか?俺には便利なものとしか思えないけどな」


「考えてもみろ。ここは自衛隊の駐屯地だぞ。見ず知らずの者に勝手に入ってこられたら堪ったもんじゃない」


 確かに……

 それが見学目的の民間人ならばまだマシだ。

 だが、もしも敵対組織の人間が潜り込んだらと思うと洒落になってない。


「一度訪れたことかあるという条件があるからまだマシだが、それでも24時間体制で見張りを置かねばならんだろうな。全く、頭が痛くなる話だ」


 風間さんはこの問題に大分頭を悩ませているようだったが、俺には解決してやる事は出来ない。

 こりゃあ、また愚痴に付き合わされそうだな……


「それはそうと、明日には帰る事にするよ。もう俺の仕事はないだろ?」


 実際にここで俺に出来ることはもうないだろうし、いい加減、家に帰りたかった。


「そうか、色々と付き合わせて悪かったな。最後の夜ぐらいはゆっくりして行ってくれ」


「だな、街までは結構遠いし、そうさせて貰うよ」


 来る時に掛かった時間を考えるとうんざりするが、仕事から解放される事に喜びを感じた。

 今日の夜ぐらいは、風間さんの愚痴に付き合うとするか。


「そういう事でしたら、ポータルを使えばすぐに帰れますがね」


「そうなのか?」


「ええ、一度訪れた場所というのは、ポータル出現前でも構わないみたいですね。恐らく脳内の情報を読み取っているのでしょう」


 久保の言葉を信じれば、俺は今日中に帰れるという事になる。

 そうとなれば、急いで荷造りをしなければならない!


「じゃあ、俺は荷造りしてくるよ。後で使い方を教えてくれ」


 喜びのあまり、宿舎に駆け出そうとした時だった。


「冴羽さん、私も一度帰ってもいいですか?」


 帰れるのが嬉しすぎてすっかり忘れていたが、そう言えば真夏は冴羽に雇われてたんだった。


「ええ、構いません。ポータルがあれば帰りの護衛も必要ありませんし、ここで契約を終了しても構いませんが、どうしますか?」


「では、そうさせて貰います。今日も、役に立っているとは思えなかったですしね……」


 確かにそうだったな……

 これで真夏もお役御免となり、結局俺達は一緒に街に帰る事になった。


「真夏さん、ご苦労様でした。また、どこかでご一緒出来ればと思います」


「いえ、こちらこそ、ありがとうございました」


 ふたりが握手を交わす。

 冴羽がそんな事をするとは思ってなかったので意外だった。

 いつの間にか、真夏と冴羽は仲良くなっていたようだ。

 最初の出会いがあんな感じだったので俺にはとても信じられない事だったが、冴羽に気に入られてしまうなんて、まあ、真夏も中々不幸な奴だな。

 変な仕事に巻き込まれなきゃいいが……


「新庄、仕事があるから見送りはできんが、元気でな」


「ああ、あんたもな」


 一方、俺と風間さんはあっさりと別れを済ます。

 まあ生きていればその内会う事もあるだろうし、こんなもんだろう。


「新庄さん、色々ご迷惑をかけてすみませんでした」


 市原は、律儀に俺に対して頭を下げてきた。


「ああ、全くだ。もう俺を呼ぶんじゃねーぞ」


「ははっ、そう言わずまた来て下さい。お待ちしてますよ」


 俺の冗談に軽く笑いながら、冗談で返してくる。

 最後までなんて爽やかなやつだ。


「絶対にこねーよ。じゃあな」


「ええ、ありがとうございました」


 市原が差し出した手を、俺にしては珍しく、嫌な気持ちを持たずに握り返す事ができた。

 それだけ、こいつがいい奴って事だろう。


 別れを済ませると、俺と真夏は急いで荷造りを終わらせた。

 一緒に行動した数人の自衛官に事情を話し、別れを告げると、再びポータルの前に戻る。


「それでこれはどう使えばいいんだ?」


「まずは、ポータルに触れてみて下さい。新大陸を模した立体映像が現れるはずですよ」


 俺は久保に言われるままポータルに触れる。

 すると、確かに新大陸の形をした立体映像が目の前に現れた。


「新庄さんが行ったことのある場所が、光点になって見えるはずです」


「幾つかあるが……確かこの辺だったか?」


 だいたいの地理は把握してるが、正確な位置となると自信が無かった。

 新大陸では、衛星やヘリなどを使って上空から地理を調べる事ができない。

 大陸上空に近づくと何故か精密機械が誤作動を起こして、侵入する自体不可能らしい。

 その為、いまだに完全な地図が存在していなかった。


「第一特区だと、ここですね。それに触れると転移できる仕組みです」


 それでも、久保は街のある場所を正確に記憶していたらしく、光点の一つを指差して教えてくれた。


「あなたが来てから、色々と起きて研究が捗りましたよ。出来ればまた来て頂きたいものですね」


「絶対に来ねーよ……それじゃあな久保。あんまり研究にのめり込みすぎんなよ」


 俺は久保にそれだけ言い残して、光点に触れた。

 一瞬、光に飲み込まれ何も見えなくなる。

 光が収まり目を開けると、目に入ってきたのは集会所の建物だった。

 どうやら、ポータルは集会所の真ん前に出現したようだ。

 

 俺の横に光が現れ、その中から真夏が現れる。

 ポータルの周囲にいる奴らがこちらを見てくるが、特に騒ぎになる事は無かった。

 後から聞いた話では、どうやら既に何人か試した後だったらしい。

 久保や冴羽もそうだが、度胸のある奴ってのは何処にでもいるもんだな。


「やっと帰ってこれましたね。なんか久しぶりな感じです」


「だな」


 そんなに長い間街から離れていた訳では無いが、こんな街でも見慣れた光景を見ると安心することが出来た。


「じゃあ、家に帰るとするか」


「ですね」


 俺たちは自分の家に向けて歩き出した。


「先輩、明日一緒にモンスターを狩りに行きませんか?」


「いや、せめて明日は休ませろよ!」


「ふふっ。冗談ですよ」


 そんな、どうでも良い事を話しながら歩く。

 見慣れた光景が、なぜか貴重なものに思えた。

 明日にはどうなってもおかしくない場所だが、俺は少しだけこの街に愛着が湧いている事に気づいた。

 真夏と一緒にゆっくりと帰り道を歩く。



 ワールドクエストが達成されたのは、この3日後だった……

これにて二章終了となります。

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