表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新太平洋大陸  作者: 双理
二章 人形の村
25/79

人形の村10

「何が起きるか楽しみですね」


 真夏は何故か楽しそうにしていて、その足取りも軽快だった。

 思わず、こいつは遠足でもしてるつもりかと勘繰ってしまう。


「そうだなー、たのしみだなー」


 一方、俺の方はあちこち連れ回される羽目になり、かなりの疲労感を感じていた。

 娘の事に興味がない訳じゃないが、ひと休みぐらいさせて欲しいもんだ。


「先輩、大丈夫ですか?元気ないみたいですけど……」


「少し疲れただけだ。心配すんな」


 このじんわりと染みてくるような疲れが、歳のせいではないと思いたい。

 俺は、まだ20代だ。


「この家です」


 市原が俺たちを案内したのは、木造の平屋だった。

 まず目を引かれたのは、その芸術的な壁面だ。

 適当に板を貼り付けただけのその壁は、使われた木材が違うのか素晴らしいグラデーションになっていて、現代的なお洒落さを感じさせる。

 更には、夏場になれば隙間風が吹き込み、部屋を涼しく保てるという自然のエアコンを完備。

 上を見上げて屋根を見てみれば、おちょこちょいな大工さんが板の長さがを間違えたのか、ちぐはぐに組み合われた木材が芸術的な模様を描きだしている。

 大雨が降れば、きっと水圧の強すぎるシャワーを思う存分堪能できるだろう。

 ドアを開ければ、美しい高音が鳴り、来客があればすぐにそれを知らせてくれる。

 勇気を出して、床板を一歩踏みしめれば、今度は不快な床の軋む音が鳴り響く。

 これで防犯もバッチリだ!

 まあ、要するにボロ屋だ。


 ボロ屋の中には男がひとり立っていて、どこか虚空を見つめていた。

 ボロボロの布切れを身に纏い、なにをする訳でもなくただ突っ立っている男というのは、かなり不気味だった。

 見た目の年齢からすると、恐らく娘の父親といったところか。

 俺が近づくと、男が急に喋り出した。


「どうか娘を助けてください。村のはずれにある廃墟に巣食う野党に攫われてしまったのです」


 ……そうか、そりゃ大変だな。

 まったく感情移入できない棒読みだった。

 演技が酷いにも程があるだろ。

 俺が呆れていると、聞いてもいないのに久保が説明を始めた。


「この住人、初めは『何もない村ですが、ゆっくりして行ってください』と繰り返してたんですけどね、台詞が変わって今はこの通りです」


 如何にもな台詞に、げんなりしてしまう。

 本当に出来の悪いゲームをしているようだ。


「それで、ここからどうしたらしたらいいんだ?」


「娘に対面させるんじゃないですかね」


 久保の指示に従い、市原が娘を父親の前に連れていく。

 すると、急に娘が走り出し、飛びつくように父親に抱きついた。


「父さん!」


「おお、娘よ。無事だったのだね」


 何かが始まったようだ。

 俺たちは、黙ってその様子を見守る。


 娘は父親から離れ、こちらに振り返ると、俺たちに向けて片腕を伸ばしてきた。


「この方たちに、助けていただいたのです」


「おお、あなた達が助けてくれたのですね。ありがとうございます」


 父親は両手を広げ、大袈裟に礼を伝えてくる。


「お礼をせねばなりませんね。少ないですが、こちらをお受け取り下さい」


 俺たちに向かって、何かが入っていると思われる小汚い袋を差し出してきた。


「……なんだ、今の三文芝居は?」


「恐らく、クエストが進行したという事でしょうね」


 久保が気になる事を言ってきた。


「クエストってワールドクエストのことか?」


「いえ、違いますけど。あなたは何を言ってるんですかね?」


 俺と久保は思わず互いを見合ってしまった。

 どうにも話が噛み合ってない。


「あっ、済ません。もしかしたら、クエストの事を説明してなかったですかね?」


 久保は、何かに思い当たったようだ。


「どういう事だ?」


「この住人に娘が攫われた話を聞くと、クエストが発生するみたいなんですよね。それはステータスウインドウで確認する事ができます。新庄さん達は、話を聞かずにダンジョンに行ってしまったので、クエストが発生してなかったんですね。今は確認できると思いますよ」


 俺は、ステータスウインドウを開きその『クエスト』とやらを確認してみる事にする。

 すると、久保の言う通りワールドクエストの他に『クエスト』という新しい項目が出現していた。

 それを開くと、そこには『攫われた村娘を救え!!』と書かれており、更にそれを選択してみる。


 クエスト

 攫われた村娘を救え!!


 成功条件

 攫われた娘をダンジョンから救い出し、父親の元に送り届ける。


 カルミナ村の娘が凶悪な野党に攫われたようだ。

 娘を助け出し村の平和を取り戻すんだ!


 ……もう、なんと言ったらいいのか分からなかった。


「どうですか?」


「ああ、確かに確認できた。それにしても、なんだこのふざけた文面は?」


「そんな事言われても、僕には分かりませんね」


 そりゃそうだろうが、言いたくなるこっちの気持ちも分かって欲しい。

 そもそも、こういう事はもっと早く教えて欲しいもんだ。


「お礼をせねばなりませんね。少ないですが、こちらをお受け取り下さい」


 父親が同じ台詞を繰り返す。

 繰り返すのは最後の台詞だけのようだ。

 もう一度あの三文芝居を見なくて済むのはありがたい。


「これを受け取るとればいいのか?」


「でしょうね。どうぞ、受け取ってみて下さい」


 俺が袋を受け取ると、父親は俺から離れて元いた位置に戻っていく。

 娘の方もその横に立ち、後は全く身動きしなくなった。

 だが久保と冴羽がそれぞれに親子に話し掛けてみると、その台詞が変わっていた。

 父親の方は『何もない村ですが、ゆっくりして行ってください』という元の台詞に戻り、娘は『あの時は、助けて頂き有難うございます』に変化している。


「クエストが終わったようですね」


 ステータスウインドウを開きクエストを確認すると、さっきあったクエストの項目がなくなっていた。

 クエストが終わるとウインドウから消える仕組みらしい。

 久保と冴羽もそれを確認したようだった。


 その様子を見ていると、真夏が俺の服の裾を引っ張てきた。


「それで、その袋何が入ってるんですか?」


 気になって仕方ないのか、真夏が待ちきれない様子で聞いてきたので、俺は袋を開けてみる事にした。

 その中には、数枚の硬貨と思われるものが入っていた。


「硬貨か?どこの国の物かは、分からないな」


 それは、茶色い金属で作られている薄い円形の硬貨で、少し歪んでいて変な模様が描かれている。

 随分と出来の悪い古い銅貨って感じだ。


「何処かでお買い物ができるんですかね?」


 買い物が出来る思って嬉しくなったのか、真夏がご機嫌な様子で俺に聞いてくる。

 これが本当に硬貨ならばそういう事になるだろうが、ここにいる動く人形みたいな村人を相手に、売買が成立するかは疑問だった。

 そう考えれば、これはただの記念品なのかも知れない。

 どっちにしても、これが貴金属ならば集会所に行けば買い取って貰えるだろうから、俺としては嬉しい限りだが……


「それは、もしかしたらここで使える通貨かもしれません」


 気配もなくいつの間にか近づいていた冴羽に驚どろき、思わず硬貨をぶん投げそうにる。

 だが、そんな事はお構い無しに、冴羽は俺の手から効果を取り上げまじまじと観察し始めた。


「なるほど、こうやって手に入れる訳だね」


「うおっ!」


 後ろから聞こえた声に振り向くと、今度は久保が立っていた。

 全く気配を感じなかったんだが……

 久保は俺から袋を取り上げると、冴羽と何やら討論を始めた。

 

「これは、試してみるしかありませんね!」


「ええ、行ってみましょう!みなさん付いて来てください!」


 それだけを言い残すとふたりは、早足でどこかに駆けて行ってしまう。

 取り残された俺達3人は、仕方なくその後を追う事にした。


 久保と冴羽が向かったのは、これまた木造の一軒家だった。

 まあ、この村には木造の建物しかないのだが、さっきの家よりは作りがしっかりしている。


 ふたりはその家のドアを開けると、遠慮なくずけずけと中に入っていく。

 失礼極まりない行為だが、この村でそれを気にする人間はいない。

 それでも、真夏はふたりに対して何か言いたげだったが、住人が文句を言う訳でもないので口を噤むしかなかった。

 仕方なく、俺達もふたりに続いて家の中に入る。


「それで、ここに来た理由は何なんだ?」


「いらっしゃい、なんか買ってくかい?」


 俺の疑問に対して、返ってきた答えはそんな台詞だった。

 家の中を見回すと幾つかの武器や防具か飾られている。

 その景色とこの家にいる住人のセリフからすると、どうやらここは装備品を扱う店らしい。

 入口のすぐ横に店のカウンターだと思われる大きな長方形の机があり、その奥に男が立っていた。


「こちらを頂けますか?」


 冴羽が、店の中から一本の短剣を持ってきてカウンターの上に乗せる。


「これは銅貨10枚だな」


 男はその短剣を一瞥すると、無愛想に一言だけ返してきた。


「久保さん、先程の硬貨を頂けますか?」


 言われるまま、久保は硬貨の入った袋をそのまま冴羽に渡す。

 冴羽は袋の中の硬貨を10枚取り出し、それをカウンターの上に乗せた。

 すると、硬貨が一瞬で消え去ってしまう。


「まいど。また利用してくれよな」


 どうやら取引が成立したようだ。

 冴羽は購入したばかりの短剣を手に、店の外に出て行く。


「どうですか冴羽さん!」


 久保が興奮した様子で店の外に出た冴羽に声を掛ける。

 それを聞いた冴羽が急いで店の中に戻ってきた。


「予想通りです。店の外に持ち出す事に成功しました。やはり、これが銅貨のようです」


「と言うことは、これは通過で間違いないですね!」


 ふたりで何か納得しているみたいだが、こちらはとしては今の行動に何の意味があったのかが分からない。


「盛り上がっているところ悪いんだが、説明してもらえるか?」


 ふたり説明を求めると、何故か自慢げに説明を始めた。

 カウンターに品物を乗せると、対価として銅貨を求められる所までは把握していたが、肝心の銅貨の入手方法が分からず購入できなかったそうだ。

 それならばと、対価を払わずに品物を店の外に持ち出そうとしたが、店の外に出た瞬間にその品物は消滅し、元の位置に戻ってしまう。

 ボロ小屋の親子から硬貨を受け取った時に、これではとないかと思い確認した結果、当たりだったって事らしい。


「これで村の施設を使えるようになりましたが、クエストを攻略してもこれしか銅貨が得られないのでは、あまり多くは利用はできませんね」


 村には他にも銅貨を要求する住人がいるらしいのだが、それを調べようにも元手が足りないらしい。

 ここで、俺にひとつの考えが浮かんだ。


「もしかしたら、何か売ることが出来るんじゃないか?ゲームなんかだとそうだろ」


「なるほど、あり得ますね」


 冴羽は、すぐさま身に付けていた腕時計を外すとカウンターの上に乗せる。


「これを買い取って頂けますか?」


「いらっしゃい、なんか買ってくかい?」


 ……違ったようだ。


「もう少し、新大陸に関連したものではどうですかね?例えばドロップ品とか」


 俺はドロップ品という言葉を聞いて、真夏とモンスターを狩りに行った時に手に入れた棍棒の事を思い出した。

 すぐに集会所で売り払おうとしたが、同じものがかなりの量持ち込まれていたらしく、買取を拒否されて手元に残っていた。

 俺はアイテムボックスから棍棒を取り出すと、それをカウンターの上に置いてみる。


「これを買い取ってくれ」


「これなら銅貨2枚だな。それでいいか?」


 今度は当たりのようだ。

 銅貨2枚がどんな価値かは分からないが、買い取ってはくれそうだ。


「それでいい。買い取ってくれ」


 俺が了承すると、棍棒がカウンターから消えて無くなり、代わりに2枚の銅貨が現れる。


「まいど。また利用してくれよな」


 どうやら、この台詞は毎回言うようだ。


「なるほど、これで銅貨を得られる訳ですね!ドロップ品なら倉庫に山程ありますから、これで銅貨には困りません。早速、試すべきですね!」


 久保はそう言い残すと、急いでどこかに行ってしまった。

 冴羽もその後に続いて走り去っていく。


「行っちゃいましたね?」


 あまりの勢いに、真夏も驚いているようだった。


「ああ、元気のいい奴らだな」


 久保は冴羽を苦手だと言っていた筈だが、今のふたりは息があっているように見える。

 ほんとによく分からん奴らだ。


「なあ、もう帰っても良いよな?」


「そうですね。あのふたりがいないのではここに居ても仕方ないですし、一旦戻りましょう」


 市原の了承を得た俺は、急いで駐屯地に戻る事にした。

 いい加減、休みたかったからだ。

 俺はカウンターの上のある銅貨をアイテムボックスにぶち込み、逃げるように店を出る。

 俺が手に入れた棍棒を売ったんだし、問題ないだろ。

 市原も何も言わなかったしな。


 早足で戻った駐屯地は、まだポータルの問題でごたついているようだった。

 それでも、市原が風間さんに報告を終えると、俺はようやく休息する事を許されたる事になった。

 ダンジョン攻略をした直後に、あちこち連れ回されたおかげで俺は肉体的にも精神的にも疲れ切っていた。

 いかに雇われの身とはいえ、流石に人使いが荒ら粗すぎないか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ