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新太平洋大陸  作者: 双理
二章 人形の村
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人形の村8

 夜が明け、朝食を済ませると、俺は一息つく間も無く廃墟前のテントに集合させられる事になった。

 既にミーティングを済ませ、後はダンジョンに入るだけとなっている。

 ボス部屋に入るのは俺、真夏、市原、昨日一緒に行動した4人の自衛官と鑑定のスキル持ちが1名、回復スキル持ちが1名の9人に決まった。

 もちろん、ダンジョンに入るのがそれだけという事ではなく、ボス部屋の前まで露払いをするメンバーとバックアップのメンバーが何人か同行する事になる。

 

「さあー、行きますよ先輩!」


 問題があるとすれば、それは真夏が異常にやる気を見せている事だった。

 昨日のテンションそのままに、朝に顔を合わせてからずっとこんな感じで、やる気が完全に空回りしている。

 こいつ寝てないんじゃないか……

 俺の心配をよそに、真夏が先頭に立ちダンジョンに入ろうとする。


「ちょっと待て、ボス部屋までは俺達の仕事はねーよ」


「はっ、確かにそうですね!少し気負い過ぎてたみたいです」


 真夏が俺の言葉でようやく我をとり戻す。

 止めなければ、ひとりでボス部屋まで突っ込み兼ねない勢いだった。


「俺達は後ろだ、そのやる気は最後に取っとけ」


「ですね!」


 全然テンションが高いままだ……これは、ヤバいかもしれん……

 正直、昨日の話で何故こんな状態になっているのか俺には理解出来ない。

 朝一に顔を合わせた時は照れ臭さがあったが、テンションの高い真夏の抑え役をしている内に、そんな気持ちは全然無くなっていた。


 そんな事もあって、ダンジョンに入る前から既に精神的に疲れ切っていたが、ダンジョン攻略自体は順調に進んでいく。

 まあ、このメンツでゴブリン相手に躓く事はありえないので、油断さえなければそれは当然の結果だ。

 途中、何回か戦闘はあったが、先陣を切る露払いのメンバーがあっさり片付けてしまう。

 結局、俺は昨日同様何もする事なくボス部屋の前までたどり着いてしまった。


 さて、ここからは俺が指揮する段取りになっている。

 ダンジョンを最後まで攻略した経験があるのは、俺と真夏だけだからだ。

 真夏に指揮が取れるとも思えなかったし、そもそも、それを口外することを止められている。

 その為、自然と俺が指揮を取る流れになった。


「よし柄本、入る前に全員にバフスキルを掛けてくれ」


 柄本はかなり器用な奴らしく、攻撃魔法のスキル以外にも防御力と素早さを上昇させるスキルを持っていた。

 柄本が全員にバフをかけ終わると、いよいよボス部屋に突入する事になる。

 俺は扉に手をあて、ゆっくり奥へと開いた。


「いくぞ、気を抜くなよ!」


「「「了解!」」」


 その気合の入った返事を背中で受けて、俺は扉の中に入る。


 部屋の中は石造りの大きな空間になっていて、今まで入ったボス部屋に酷似していた。

 もしかしたら、ボス部屋は共通の設計なのかも知れない。


 さらに奥に進み全員が部屋の中に入り終えると、俺の索敵に5つの反応が現れた。

 複数のモンスターがいると思わなかった俺は、焦って少し反応が遅れてしまう。

 ━━いきなりやらかしたか。

 花菱の時のダンジョンを思い出し一瞬後悔し掛けたが、索敵スキルで分かる敵の動きはあの時ほど早くはない。

 気を取り直して、まずは指揮に専念する。


「敵の数は5、複数だ!いつでも外に出れるように出口を確保しろ!」


「「「了解!」」」


 俺は撤退を視野に入れて動く事にする。

 今までのボスが単独だったため、モンスターが複数いる可能性を考えていなかった。

 油断していた訳ではないが、考えが足りなかったようだ。

 撤退するにしても何らかの情報は欲しいので、モンスターを目視できる位置まで進む。

 目に入ったのはゴブリンが4匹と、それをかなりでかくしたようなモンスターだった。

 ゴブリンは俺の腰ぐらいの身長だが、そいつは俺よりもでかく、全身の筋肉が発達していてまるで筋肉の鎧を身に纏っているようだ。

 大きな棍棒を持っていて、その破壊力は高そうに見える。

 

 モンスター達はこちらに気付いている様子だったが、まだ襲い掛かってくる事はなかった。


「敵はゴブリン4に未確認1、鑑定いけるか!」


 今の内にと、敵に鑑定をかけるよう指示を飛ばす。


「はい、未確認の名称はホブゴブリン、ゴブリンの進化形のようです。能力までは鑑定できません」


 返事がすぐに帰ってくる。

 どうやら、既に鑑定をかけていたようだ。

 市原が選んだだけあってかなり優秀なやつだ。

 とは言え、分かったのは名前だけ、連れてきた意味は無かったかも知れない。


「分かった。後はいい、お前は外に出てろ!」


「了解!」


 鑑定持ちの男は戦闘は苦手らしく、初めから鑑定を終えたら撤退する手筈になっていた。


「俺がオブゴブリンとやる!周りの奴は任せるぞ!」


「「「了解!」」」


 各員がそれぞれの獲物に向かって動き出す。

 手前側に左右に分かれるようにゴブリンいて、その後方にホブゴブリンが位置取っている。

 右側に真夏と市原が、左側に自衛官の3人が向かう。

 回復役と柄本は後方に残るようだ。

 前に出た5人が戦闘に入ると、俺はその間をすり抜け、ホブゴブリンの元に駆ける。


「うらっ!」


 まずは様子見で、正面からナイフで一撃を加えてみる。

 フェイントもかけなかったため、その一撃は棍棒で防がれてしまう。

 だが……


「手応えが軽い?」


 ホブゴブリンは俺の攻撃を防ぎはしたが、その一撃で大きく体勢を崩した。

 何か攻撃の予備動作かとも思ったが、ホブゴブリンはゆっくりと体勢を立て直した後、ただこちらを警戒するだけで動きを見せなかった。

 何か様子がおかしい。


 その後しばらく睨み合いが続いたが、痺れを切らしたホブゴブリンが棍棒を振り上げ攻撃を仕掛けてきた。

 流石に正面からは受けたくないので、それを回避する。

 その一撃は、俺からすればかなり遅いものに感じられ、簡単に躱せてしまう。

 追撃があるかと身構えるが、棍棒を再び構えるとまた先程のようにこちらを警戒するだけだった。


「まさか……」


 俺は、ホブゴブリンに注意を向けながら周りを確認した。

 既にゴブリンは片付けてしまったようで、全員で俺の戦いを見学している。


「一旦距離を取る!もしこいつが追撃を仕掛ける様だったら、福島が抑えてくれ!」


「了解!」


 福島が少し前に出るのを確認すると、俺はその後ろまで急いで後退した。

 追撃はなく、福島を殿にて全員が少しずつ後退する。


「新庄さん、どうかしましたか?」


 ホブゴブリンに視線を向けたまま、市原が俺に聞いてくる。

 他の奴らもこちらに耳を傾けているようだ。


「どうもこうもねーよ。アイツ、かなり弱いぞ……」


 そう、ホブゴブリンは弱かった……

 数回攻防を行っただけだが、手応えがまるで無い。

 ゴブリンより弱いという事はなさそうだが、それでもあの棍棒の一撃さえ受けなければ、俺がいなくても問題になるような強さとは思えなかった。

 その棍棒の一撃にしても、よほど油断しなければ喰らいそうも無い遅さだ。


「後は任せた。あんた等の手柄を奪いたく無い」


「了解しました」


 市原はすぐに俺の意図を汲んでくれたようで、他の隊員を従え前に出ていく。

 ホブゴブリンを倒すのは簡単だが、こんなんではただ手柄を横取りした事になるだけだ。

 俺はこれ以上、余計な経歴を作る気は無かった。


「真夏も手を出すなよ。あいつらに任せるんだ」


 隊員達の後ろについて行こうとした真夏を止める。


「えっ、でも私まだ何もしてませんよ?」


「見ては無かったけどゴブリンは倒したんだろ?それで十分だ」


「でも、まだ全然いけますけど……」


 どうやら、まだやる気モード全開のようだ。


「話を聞いてなかったのか?あいつらに手柄を上げさせてやれよ。分かったか?」


 俺は、諭すように真夏の頭に軽く片手を乗せる。

 真夏は両手でその手をどけると、俺を見上げて返事をした。


「分かりましたよ……」


 まだ納得していない様子なのは、単に自分のやる気をどこに持っていったら良いのか分からないだけだろう。

 ホブゴブリンの方を確認すると、市原がロングソードでその首を切り落としたところだった。

 モンスターの体が光の粒になって消えていく。


「終わったみたいだな」


「何か、消化不良な感じですね……」


 真夏が物足りなそうな表情を見せる。


「これぐらいでいいんだよ。死人が出るよりましだろ?」


「それは……確かにそうですね」


 ようやく納得したのか、真夏はいつもの笑顔に戻っていた。

 ボスを倒した事で緊張が解けたようだ。

 周りの連中もボスを倒せたことを喜んでいた。


「さて、まだ終わってないぞ。ダンジョンコアをとりに行こうか」


「ええ、早く終わらせて祝杯でも上げましょう」


 市原はそう言って、ボス部屋の奥にある扉に手をかけた。

 扉が開き、ダンジョンコアが収められている台座が姿を現す。


「まあ……なんだ。祝杯はしばらくお預けだな」


 俺の言葉に全員が頷き、納得したようだった。

 台座の前には布で口を塞がれ、縄で縛られた女が転がっている。

 そういえば、そんな設定だったな……

 今更ながら、俺は村で攫われたという娘の事を思い出した。

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