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新太平洋大陸  作者: 双理
二章 人形の村
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人形の村7

 俺達は地下に続く階段を、一列に並んで降りる。

 通路の広さを考えれば仕方ないのだが、某ゲームのようで何か間抜けな光景だなと思ってしまう。

 その中の一人が自分だと思うと、何も言えない気分になる。

 階段を降り切ると、そこは広い通路になっていて一方向に伸び、そのまま奥に続いていた。

 通路は土壁で囲まれていて、四角く組んである木材がそれを補強している。

 壁に階段にあった物と同じ松明が設置されているので、明るさは充分。

 足場は平らに均されていて、歩きにくいという事もない。


「下はだいぶ広いな、戦闘に支障はなさそうだ」


「そうですね、そこは助かってます。自分の得物を振り回せないんでは困りますからね」


 市原は手に持ったロングソードを振ってみせる。

 確かに問題はなさそうだ。

 俺が今まで入ったことのあるダンジョンでも、狭くて戦闘ができないという事は無かった。

 降りてきた階段のように一部狭い所もあるが、そういう場所にはモンスターが出てこない。

 多分、戦闘が出来るように意図的にそう設計されている。

 そこに、ダンジョンを作った奴の、どうやってでも探索者を戦わせようとする意思みたいなものを感じていた。


「よし、進むぞ。先行部隊は前へ!」


「「「了解」」」


 市原の号令に従い4人の隊員が先行する。

 大楯を持つ福島を先頭に、槍を持つ有田、ロングソードを持つ田口がその後ろに付き、さらに後ろには杖を持つ柄本が続くという隊列を組んでいた。

 柄本の持つ杖は、恐らくドロップ品から作られた装備だろう。

 杖の形をした装備品には魔力を底上げできる特殊効果があるので、多分、魔法系のスキルを取っているのだろう。


 4人は警戒しながらも、素早く足音を立てずに先に進んでいく。


「良く訓練されんな」


 俺と真夏は、後ろをついて行くだけで良さそうだった。

 市原もそうしているし、俺達に戦えとも言ってこないので問題は無いだろう。

 このまま、出番が無く終わって欲しいもんだ。


「ありがとうございます。新庄さんにそう言って貰えると素直に嬉しいですよ」


 市原が俺に返事を返すと同時に、先行していた4人の足が止まる。

 どうやら、この先にモンスターがいるようだ。

 俺の索敵にも5つの反応があり、前情報通りならそれはゴブリンだろう。


「さて、お手並み拝見だな」


 俺がそう言ったのが聞こえた訳では無いだろうが、先頭の福島が前進のハンドサインを出すと一気にスピードを上げて前に出る。

 奇襲を仕掛けるようだ。


 福島が大盾を構えながら、一番手前にいるモンスターにそのまま突っ込みその態勢を崩す。

 そこに有田が盾の横から差し込むように、ゴブリンに槍を突き刺しとどめを刺す。


「ギャ?」


「ギギャ!?」


 ゴブリンはこちらの襲撃に気付いたようだが、まだ迎え討つ体制が整ってない。

 田口がその隙をついて、一気に2体のゴブリンをロングソードで切り裂く。


「ギャーーーー!!」


 ここでようやくゴブリン達が戦闘態勢を整えたようだ。

 だが、そこに槍の形をした炎が飛び、ゴブリンの体を貫く。

 柄本が使った魔法だろう。

 確かファイアニードルととか言う、貫通力のある殺傷能力が高いスキルだ。

 最後に残ったゴブリンが手に持った棍棒で反撃してくるが、大盾で簡単に防がれ、槍の一撃を受け絶命した。


「クリア、他敵影なし」


「了解、先に進む」


「「「了解!」」」


 4人は、状況を確認し終わるとそのまま前進を続けた。


「見事なもんだ。風間さんには指導するように言われたが、その必要はなさそうだな」


「確かにすごいですね。本当にあっという間って感じです」


 真夏もその練度の高さに驚いている。

 ダンジョン攻略を任されるだけあって戦闘技術も高く、レベル差がなければ俺でも押し切られそうな勢いがある。


「ありがとうございます。ですが、ここのモンスターが弱すぎるんですよ。もし気になる点がある様でしたら、遠慮なく言ってもらえると助かります」


 そう言う市原だが、その自信に満ちた表情は『何も問題はないだろう』と言っているように見える。

 これ程の動きができるなら、今日的にも十分通用するに違いない。


「これは、楽な仕事になりそうだな」


「そうなるように頑張りますよ」


 市原は軽く笑いながら俺の冗談にそう答えた。

 それが嫌みに見えない所が、市原が好青年だと思える要因だろう。


 その後、しばらくモンスターを倒しながら先に進むと、嫌なものが見えてきた。


「先輩、これって……」


「最深部の扉だよな……」


 俺達はあっさりとダンジョン最深部にたどり着いてしまった。

 他の隊員達もこれには戸惑っているように見える。


「やはり、新庄さんもそう思われますか?」


「ああ、間違い無いだろ。今まで見たものと全く同じだ。どうする、このまま中に入るか?」


「いえ、万全の状態で臨みたいので一旦戻りましょう」


 そう言って市原は撤退の指示を出し始めた。

 どうやら、かなり慎重な男のようだ。

 何もしてないこちらとしてはこのまま突っ込んでも構わなかったが、その判断に異論はない。

 慎重な方が、長生きできるだろうしな……


 撤退は、移動距離が短かったのもあって素早いものだった。

 俺達は駐屯地に戻り、そのまま風間さんに報告することにした。


「何っ!この短時間で、ダンジョンの最深部までたどり着いたのか……流石は新庄というところか……」


 俺たちの報告に、風間さんは酷く驚いた様子だった。


「いや、誤解すんな。俺は何もしてない。単にモンスターが弱くてダンジョンが小さ過ぎただけだ」


「そうなのか?」


 風間さんは、市原の方に確認を求める。

 何か、全然信用されてないな……


「はい、こう言うのも何ですが……最深部の扉の前までは隊員のみで攻略しました。ここまで小さいとは思いませんでしたよ」


 俺に気を使っているのか、市原が言い難くそうに答える。

 こちらとしては仕事が楽なだけなので、そんな事を気にしなくていいんだけどな。


「なる程、それで報告に戻ったという訳か」


「ああ、いい判断だ。ボスがどんなモンスターか分からないしな」


 頭の中で前回のダンジョンの記憶が蘇り、死んだ奴らの顔を思い出してしまう。

 出来るだけ万全の状態で臨むべきだろう。


「ボスモンスターと言われる特殊個体か……確かにそうだな」


 どうやら、自衛隊でもボスモンスターと呼んで居るらしい。

 別に構わないが、個人的にはもう少し捻った呼び方でもいい気がする。


「それで、どうする市原?」


「はい、これより戦闘を行う人選を行い、翌日にボスモンスターの討伐を実行したいと思っています」


 まあ妥当な所だ。

 今日突入することも出来なくはないが、戦闘に挑む奴らにも心の準備は必要だろう。


「それでいこう。市原は準備に取り掛かってくれ。新庄には少し意見を聞きたい」


「了解です」


 市原が去り、またも風間さんとふたりになる。


「それで?何が聞きたいんだ」


 また愚痴に付き合わされるのは御免なので、話があるならさっさと終わらせて欲しい。


「お前は、ここのダンジョンの事をどう思う?」


 要領を得ない質問だったので、どう返したらいいか悩んでしまう。

 ただ感想を言えばいいって事なら……


「……楽すぎるな。ワールドクエストの影響かもしれんが、それにしてもモンスターが弱すぎる。今までのダンジョンとは別物だと思った方がいい」


 俺は感じたままの感想を伝えた。

 事実、ワールドクエスト発生前までだったら、あの小さいダンジョンでももっと苦労していたはずだ。

 あれでは、どうぞ攻略して下さいと言ってるようなもんだ。


「ボスも弱体化していると思うか?」


「それは分からないな。でも、今まで攻略したダンジョンではボスは他のモンスターとは一線を画した強さだった。用心はした方がいいだろうな」


「そうだな。なあ、新庄明日も同行してくれるか?」


 風間さんは、申し訳なさそうに俺に確認をしてきた。

 命の危険がある任務なので、その確認だろう。


「元からそのつもりだ。流石にこのままじゃあ報酬を受け取りずらいしな」


「済まない……助かる」


 それで話は終わり、俺は自分に宛てがわれた部屋に戻って休むことにした。

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