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新太平洋大陸  作者: 双理
一章 無謀な依頼
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探索者?1

 ピピピ……ピピピ……

 スマホのアラームが狭いワンルームに鳴り響く。


「あ“あーー、うるせーーーーっ!」


 思わずスマホを手に取ってぶん投げそうになったが、修理代の事を考えて何とかそれは踏み止まった。

 前に一回マジでぶん投げてしまい、修理代で酷い目にあっている。

 朝飯と昼飯を抜いてスマホ台を捻出した地獄の日々を思い出しながら、アラームを止めた。

 あれから俺は、物を大切にするように心がけている。


 何とか起き上がり、まだボーとする頭をかきながら洗面台に向かう。

 顔を洗い歯磨きを済ませると、目の前にある鏡には黒髪黒目の冴えない男が写っていた。

 顔立ちはそんなに悪くないと自分では思っている。

 だが、自分で適当に切った髪と何日も剃ってない無精髭が全てを台無しにしていた。

 そんな自己評価を終わらせると、ソファーに投げ捨てられている服を適当選び、そのしわくちゃの服に着替える。

 そして俺は、今日も労働に勤しむため部屋を出た。


 昨日は、朝から晩まで旅行客のガイドをしていた。

 こんな場所に旅行に来るなんて頭が沸いてるのかと思ってしまうが、客は客だ。

 金さえ貰えれば文句はない。

 この新大陸に渡るには、それなりに金が掛かるため旅行客は金持ちが多い。

 そんな理由もあって、昨日の仕事もそれなりに良い報酬だった。

 帰り際に、男子高生が女子高生に告白して玉砕するといったハプニングはあったが、それ以外はトラブルもなく、実にウマイ仕事だったと言える。


 昨日の事を思い出しながら歩いていると、どこからかいい匂いが漂ってくる。

 

「あー、腹減ったな……」


 周囲を見渡せばいろんな屋台が並んでいて、うまそうな食べ物達が俺を呼び込んでいるかのように思えた。

 俺は、財布を取り出し中身を確認する。


「……」


 言葉が出なかった。

 昨日の仕事は実入りが良かったが、報酬が振り込まれるのはまだ先だ。

 俺は財布の中から数枚硬貨を取り出すと、それを肉まんと交換する事にした。

 貴重な俺の硬貨が肉まんに姿を変えると、我慢できずにその場でかぶりつく。

 肉まんは旨かった……だが、決して少食ではない俺の胃袋を満たしてはくれなかった。


 こんなに金がないのは、全てが俺のせいという訳ではない。

 俺だってそれなりに働いて、それなりの収入もある。

 実際、昨日も働いていたしな。

 では、なぜ金が無いかというと、この街の物価が高すぎるせいだ。

 こんなモンスターがいるところで、農業なんかは出来る訳もなく、食料は輸送に頼るしかない。

 当然、輸送費が上乗せされ、どうしても値段が上がってしまう。

 食料品以外も輸送に頼らざるを得ないものが多く、殆どの品物は俺の祖国である日本の倍の値はついている。



 それでも、この新大陸に住もうとする奴は決して少なくない。

 かなりの収入が見込めるからだ。

 その収入源になるのが主に魔石だった。

 昨日、女の子に渡したような小さな物ではたいした金額にならないが、物によっては爆発的に値段が跳ね上がる。

 魔石は、大きくて色が鮮やかな物ほどその価値が高い。

 過去には、ひとつ1千万を超える値で取引された事もある。

 まあ、その時は何十人もの人が帰らなかったらしいので、そんなに良い話でも無いんだが……


 モンスターは、強くなればなるほど良質な魔石を落と言われている。

 その時のモンスターの強さはかなりやばかったらしい。

 命あっての物種ともいうし、俺としては安全に金を稼ぎたい。

 そんな訳で、俺は昨日のような、できるだけ安全な仕事を主に請け負っている。

 まあ、観光案内以外にも色々とやっているので、何でも屋みたいなもんだ


 そういう訳で、今日も俺は堅実な仕事を求め集会所を目指していた。

 集会所とは、まあ、言ってしまえば仕事の斡旋所だ。

 昔は強いモンスターを倒す為に、人手を募集するだけの場所だったらしい。

 今では街も大きくなり、モンスターを倒す以外の仕事も増えたので、そういった仕事の斡旋もしてくれる。

 


 屋台が出ている通りを抜けると、3階建てのビルが見えてくる。

 それが集会所の建物だ。

 さっさと中に入ると、朝早くにも関わらず中々に混みあっていた。

 俺は人混みの合間を縫うようにして、仕事の依頼書が貼り出してある掲示板を目指す。


「さて、楽な仕事はあるかな」


 俺は早速、仕事を探す事にする。

 早くしないと、他のやつに奪われ兼ねない。


「お早うございます、先輩!」


 俺が仕事を吟味していると、後ろから元気の良い女の声が聞こえた。

 だが、俺はその声を無視してそのまま仕事を探し続ける。

 即日払いの、楽な仕事ねーかな?


「ちょっと、先輩。無視しないでくださいよー!」


 俺と掲示板の間に、小さい人影が割って入ってくる。

 更に無視を続けて張り紙を見る。

 少し邪魔だが、小さいので掲示板は見える。

 するとそいつは、両手を高く上げて俺の視線を遮ってきやがる。


「先輩、聞いてますかー?」


「だあー、うぜー!!」


「無視するからですよ!!」


「悪いな、小さすぎて目に入んなかったんだ」


 キッーとわざわざ口に出しポカポカと叩いてくる。

 うぜー。

 この小さい女は須藤真夏、今年で確か23になったと思ったが、その身長の低さから中学生ぐらいに見える。

 ライトブラウンに染めた髪を肩口で切りそろえ、その童顔をより一層幼く見せている。

 顔立ちは良いのだが、その幼さから女としては見れなかった。

 まあ、俺の後輩って感じの奴だ。


「どうしたんですか?今日は珍しく早くないですか?」


「金がねーんだよ……仕事を探さないと昼飯も食えねーんだ。働くしかないだろ」


 真夏を横にずらし、仕事探しを続行する。


「何でも良いから、日払いの仕事はないのか?」


「昔ならともかく、今時そんなのある訳ないじゃないですか……」


 真夏が呆れた表情で俺を見てくる。

 最近は新大陸にも近代化の波が押し寄せ、ATMも使える。

 そのせいか、報酬は振込というのが多くなってきて、現金即日払いの仕事はほとんど無くなっていた。


「だったら、私と狩りに行きませんか?魔石ならすぐ買い取って貰えますし」


 確かに、魔石ならば窓口で振り込みと現金を選べるので、俺の出した条件にに沿っていると言えるが……


「ヤダ、めんどい」


「そんなこと言わずに、一緒にいきましょうよ」


 こいつはすぐに俺を死地に追い遣ろうとしやがる。

 だから苦手なんだよ。

 何故そんなに簡単に命を懸けられるのか、俺には正直理解できない。

 とはいえ今夜の晩飯代すらあやしい現状がある……


「……まあ、行くしかねーか」


 全く気乗りしないが、俺の懐事情がそれを許してくれない。


「はい、決まりですね。では早速いきましょう!」


 真夏は俺の手を取ると、強引に引っ張っていく。

 なんで、そんなノリノリなんだよ。

 

「先輩と一緒に狩に出るのは久しぶりですね」


「そうだな、2年ぶりぐらいか」


 真夏と出会ったのは、4年ぐらい前の事だ。

 真夏は新たに新大陸に進出してきた企業の社員をしていて、出向という形で新大陸に来ていた。

 その時、案内人として雇われていたのが俺だった。

 そこで少しだけ面倒見ているうちに、いつの間にか懐いてきやがった。


 色々あってその会社は辞めてしまったようだが、何が気に入ったのかそのままこの街に居着いてしまった。

 何があったのか知らんが、とても正気とは思えん。


「さて、どうします?せっかく先輩もいる事ですし……ガッツリとシャドウウルフでもいきますか?」


「あいつ、早いから面倒なんだよなー。てか、そもそもあんなもん二人で狩るもんじゃねーだろ」


 シャドーウルフは、昨日見た子犬みたいなモンスターの成体と言われているやつだ。

 群でいることが多く、4〜5人で狩るのが普通だった。

 間違っても二人で狩るもんではない。


「ホントにそう思ってます。先輩?」


 真夏はそう言って、ニヤリと不敵な笑みを浮かべる。

 俺は、真夏の言葉に何も言い返せない。

 何故なら全くそう思わないからだ。

 嘘をつこうにも、真夏はその事を既に知っている。


「何人分働かせる気だよお前……」


「まあまあ、その分報酬も増えますから」


 真夏はそう言って、無理やり俺を街から連れ出した。

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