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新太平洋大陸  作者: 双理
二章 人形の村
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人形の村5

 翌日、俺はダンジョンを目指して歩いていた。


「なあ、今向かっているダンジョンってどんな感じなんだ?」


 考えてみれば昨日は色々とごたついて、肝心のダンジョンの情報は一切手に入れて無い。

 今更だったが、堤にダンジョンの事を聞いてみる。


「そうですね、まず見た目から言うと廃墟のような形をしています」


「廃墟ですか?そんな形のダンジョンもあるんですね」


 結局、真夏は昨日の宣言通りついて来る事になった。

 既に風間さんと冴羽には話を通したらしく、何も問題は無いと言う。

 俺はかなり渋ったのだが、最後には結局押し切られる形になった。


「ダンジョンに決まった形はないな。洞窟型のダンジョンが多いが、塔や城みたいな建物だったり、後は森がダンジョンだったなんて話も聞いたことがある」


 その為うっかり侵入した場所がダンジョンだった、なんて話は五万とあったりする。

 ダンジョンだと判別できるのは『ダンジョンに侵入しました』とアナウンスが流れるからだ。


「現在攻略中のダンジョンですが、ここ最近発生したものでは無いかと思われます。実はこのダンジョンは、カルミナ村で得た情報で見つかった物なんです。その調査も兼ねて、今回このダンジョンを攻略する事になりました」


「どういうことだ?」


「ひと月程前の事ですが、カルミナ村で今までと違う話をする住人が確認されました」


 ひと月前となるとワールドクエストが発生したあたりだ、何か関係があるように思える。


「住人の話を簡単にまとめると、廃墟にいる野党によって娘を攫われた為、助けてほしいと言うものでした。その話を受けて村の住人の人数を確認したのですが、総数12名欠ける事なく村の中にいる事を確認しています。正直、何を言っているのか理解し兼ねたのですが、村人に聞いた廃墟の場所に行くと……」


「そこにダンジョンがあったって訳か」


「ええ、仰る通りです。ここに駐屯地を築くに当たり周辺の地形は調査していました。その時は廃墟などは発見されていません。あんなに目立つものを見つけられなかったとも思えませんし、それで新しく発生した物ではないかと推察されています」


 堤の言っていることは当たっているように思えた。

 おそらく、ワールドクエストが発生したタイミングでダンジョンが生成されたのだろう。

 かなり作為的なものを感じるが、このタイミングでダンジョンの場所を知らせてきたのだ、これを起こしたやつはどうしてもダンジョンを攻略して貰いたいらしい。


「まるでゲームみたいな話だな……」


「ええ、おかげでカルミナ村の事を、『始まりの村』なんて言い出す者まで現れる始末でして……」


「始まりの村ですか?」


 真夏はあまりゲームはしないのか首を傾げている。


「ゲームなんかで最初に見つける村や街のことだろ。大概何かしらの問題を抱えていてそれを解決する事になる」


「はあ?」


 真夏はいまいち理解出来ていないようで首を傾げる。


「差し詰め、村の住人はN P Cといったところか」


「ええ、そう言う者もいるのは確かです」


 だとするとこの事態を引き起こした奴は、他人のするゲームを覗き見て楽しんでいる事になる。

 命懸けのゲームをだ。

 悪趣味としか言えない。


「ダンジョンが見えてきましたよ」


 徐々に見えてきた建築物は、遠目にも廃墟とわかるボロさだった。

 もう何十年も人の手が入っていないような荒れ具合で、今にも崩れ落ちそうだ。

 周囲にはまばらに草木が生えているが、視界は良好で、調査でこの廃墟を見落とすとは思えなかった。


「上層の廃墟部分は既に制圧済みです」


「上層はって事は、下に続いてるのか?」


「はい。上層を制圧した結果ダンジョンコアが確認されなかった為、捜索を継続したところ地下に続く隠し通路が見つかりました。現在はそちらの攻略を行なっているところです」


 この前のダンジョンに引き続き、また地下か……

 ダンジョンには人を地下に潜らせる目的みたいなもんでもあんのか?

 また薄暗い中を歩かされるのかと思うと、憂鬱になる。


 廃墟に近づくと、そこには幾つかのテントが貼ってあった。

 堤が言うには、24時間体制で見張りをしているらしく、休憩のために作ったそうだ。

 駐屯地からそう離れている訳でなく、寝る時は戻るそうなので、本当に一時的に休憩する為だけの場所らしい。


 テントの周辺では数十名の自衛官達が忙しなく動いていた。

 堤に案内されてテントの中に入ると、ひとりの男が声を掛けてくる。


「あなたが新庄守さんですか?初めまして、このダンジョンの攻略を指揮している市原雅人(いちはらまさと)です」


 市原は自己紹介をすると、右手を差し出し握手を求めてきた。

 俺と同じぐらいの年齢に見えるので、多分二十代後半といった所だろう。

 その体つきは立派なもので、隊服の上からでも鍛えられた筋肉が盛り上がって見える程だった。

 流石は最前線の指揮官といったところか。


「ああ、俺が新庄だ。よろしくな」


 社交辞令を返し、男の手など握りたくは無いが仕方なく握手に応じる。

 

「そちらの女性は?」


 市原はこんな所に女の子がいるのが気になったのか、真夏を見てそう尋ねてきた。


「こいつは、まあ俺の助手みたいなもんだ」


「須藤真夏です。よろしくお願いします」


 市原は少し戸惑った様子を見せながら、真夏とも握手を交わす。


「こちらの方もダンジョンに入られるのですか?」


 予想通りの質問だった。

 真夏はその低い身長もあって、一見すると子供に見えなくもない。

 そんな奴がダンジョンに潜るとは思わないだろう。


「こう見えても高レベルの探索者だ。問題は無い。風間さんの許可も取ってある」


「そうですか、まだお若く見えるのに凄いですね……」


「いえいえ、たいした事はないですよ。ふふっ」


 市原はまだ納得しかねているようだが、事実なので仕方ない。

 俺に紹介された真夏は、何故かいつもより多く愛想を振りまいている。

 市原みたいな男がタイプなんだろうか?


「では、早速ですがこちらへ。ダンジョンに入るメンバーを紹介したいと思います」


 俺たちがそちらに向かおうとすると、堤が話しかけてきた。


「自分はここで失礼します。駐屯地に戻って仕事がありますので。新庄さんダンジョン攻略頑張ってくださいね!」


 堤はそう言って俺に握手を求めてきた。

 目の前で市原と握手をしたのだから断るに断れない。


「ああ、色々案内してもらって助かったよ。ありがとな」


 握手を交わすと堤は駐屯地へと戻っていった。

 素直になかなか良いやつだったと思う。

 最初は名前も覚えれなかったが……何かすまん。


 市原に連れられて行った先には、20名程の自衛官が動き回っていた。

 全員隊服をしっかりと着込み、ダンジョンに入る準備をしているようだ。


「全員紹介しても覚えきれないでしょうから、まずは一緒に行動するも者だけ紹介します。1班、集まれ!」


 8人の自衛官が走ってきて、俺たちの前に集合した。


柄本(えもと)福島(ふくしま)有田(ありた)野口(のぐち)!前に出ろ!」


「「はい!」」



「この4名が新庄さんとご一緒させて頂く者達です」


「「よろしくお願いします!」」


 綺麗に揃った挨拶の中に、ひとつだけ高い声が混ざっていることに気づいた。


「ん?女が混ざっているのか?」


 良く見ると頭ひとつ分小さいやつが混ざっている。


「はっ、野口恵であります!女だからと言ってその辺の男に負けるものでは有りません!」


「野口、失礼だぞ!」


「申し訳ありません!」


 口では謝っているが、その目に反省の色はない。

 随分と元気なお嬢さんのようだ。


「いや、女だからってどうこう言うつもりは無い。こっちいる真夏だってかなりのもんだしな。ただ珍しくて気になっただけだ。悪かったな」


「いえ、失礼しました!」


 俺が素直に謝ると、その女は少し表情を緩めたように見えた。

 どうやら、性別で差別されるのを嫌う質らしい。


「新庄守だよろしく頼む。こっちの小さいのが須藤真夏、俺の助手だと思ってくれ」


「誰が小さいですか、誰が!」


 俺の紹介が気に入らなかったのか、真夏が怒ってツッコミを入れてくる。

 周りを見ると、笑いを堪えている奴がちらほらといた。

 取り敢えず場が和んだので、真夏には許してもらいたい。


「細かい事は彼らに聞いて頂くとして、とりあえずダンジョンに入ってみますか?」


「ああ、そうするか。それが目的だしな」


「では、行きましょうか」


 どうやら、1班のメンバー8名に俺と真夏と市原を加えた11人でダンジョンに入るようだ。

 話を聞くと4人ひと組で行動し、先行する部隊と退路を確保する部隊に分かれ、それを交代しながら先に進むスタイルのようだ。


『ダンジョン[野党の廃墟]侵入しました』


「何だ今のアナウンスは、ダンジョンの名前を言わなかったか?」


「ああ、自分達はもう慣れたんで気にしなくなってましたが、このダンジョンは名前があるようです」


 市原は気楽にそう言ったが、今までダンジョンに入るときに名前を知らされる事など無かった。

 このダンジョンは何か特別って事か?


「なんか変な感じですね?ここに来てから知らない事ばかりです……」


「だな……」


 真夏の言う通り、知らない事ばかり起きている気がする。

 この先はそういうのは遠慮してもらいたいと思いながら、俺たちはダンジョンに入った。

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