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新太平洋大陸  作者: 双理
二章 人形の村
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人形の村4

「事情は分かった……」


 風間さんが眉をひそめ、その強面をより一層恐ろしいものに変える。

 華菱によるダンジョン攻略について全てを話すと、何か深く考え込んだ様子だった。

 民間企業がダンジョン攻略を成功させたという事実を、どう処理したらいいのか分からないのだろう。


「しかし新庄、今回の件は別として、お前がダンジョン攻略に手を貸すとはな……」


 俺の事をよく知る風間さんとしては、当然の反応だった。

 実際、俺はダンジョンに手を出すつもりなんかまるで無かったからな。


「なかば脅されての無理矢理だったからな、仕方なくだ」


「そのような事実はありませんが」


 この女しれっと嘘をつきやがる。

 

「先輩、脅されてたんですか?」


 お前……気づいてなかったのかよ。

 まあ、俺が隠してたんだが、流石に途中から気づかれてたかと思ってた。


「それは置いとくとしてだ、俺達はどうなるんだ?」


 知っている限りでは、ダンジョン攻略をしたからといって罰が与えられる事は無いはずだが、一応確認しておく。


「どうもならんさ。俺には民間企業を裁く権利などないし、ダンジョン攻略を取り締まる法律なんてものは無いからな」


 これで無罪放免だ。

 罰金を支払う、なんて事にならずに済んだのは正直ありがたい。

 風間さんの言葉で真夏も安心したようだったが、冴羽の方はさも当然とばかり表情一つ変えない。


「当然です。ダンジョンを攻略するに当たり、法的な問題が無い事は確認済みです。私達が罰則を受ける謂れはありませんから」


 言っていることは正しいが、言い方ってもんがあるだろ。

 後、俺を脅した事は間違いなく法に触れてるからな。


「だがこの事は口外しない方がいい。今は国際的にダンジョン攻略を成功させた国を探し出す動きがあってな。表向きはその時の情報を公開するように迫るものだが……実際は、それを口実にその国の弱みを握りたいと言う思惑があるようだ」


 ワールドクエストが発生してから、民衆の間でも何故ダンジョン攻略などしたのかと攻めるような気運が高まっている。

 それは、日本だけで無く世界的な動きだ。

 他の国ではデモまで起きたらしい。


「最初からそのつもりだ。他人に言うことでも無いしな」


 俺の言葉に真夏も頷き同意を示す。


「華菱としても、その件で情報を公開するメリットは有りませんので、口外するつもりはありません」


「では、この話は終わりだ。堤もこの事は口外しないように」


「了解です」


 風間さんは、一度大きく頷いてこの話を打ち切った。


「では各自本来の仕事に戻ってくれ。済まんが、新庄は残ってくれ」


 俺以外の他の奴らが部屋を出ていくと、風間さんのふたりだけになる。

 特に気まずいと言う事は無いが、何か小言を聞かされそうで逃げ出したくはある。


「しかしお前は……本当に色々と厄介事を起こしてくれるな」


 俺の頭に在籍していた頃の数々の出来事が浮かぶが、まあ今は関係ないだろう。


「別に、好きでダンジョンを攻略した訳じゃねーよ」


「そうだろうがな……今回ばかりは問題がデカすぎる」


 風間さんが両手で頭を抱えて、机に突っ伏した。


「そんなに問題なのか?」


 この件はあくまで俺や真夏個人の問題で、大きく捉えても華菱と言う一企業の問題のはずだ。

 そこまで大きな問題になるとは思えない。


「ああ、拙いな。日本は世界で初めてダンジョン攻略を成功させた国だ。しかも、それは世界中に知れ渡っている。そのせいで日本は今、国際的な場では弱い立場に立されている。他にもダンジョンを攻略したと公言していた国もあるが、そちらは元々列強と言える軍事力を持つ国だけだ」


 それは俺も知っている。

 その最初にダンジョンを攻略したのは俺だしな。

 因みに、日本が世界にダンジョン攻略において先駆ける事が出来たのは、いち早くレベルの重要性に気づいたからだ。

 アニメやゲームに造詣が深い日本の国民性が功を奏したと言える。


「要するに日本は避難の矢面に立たされているんだ。そこに日本の企業がダンジョンを攻略したと言ってみろ……状況が悪くなるのは目に見えているだろ」


 確かに、ワールドクエストの発生原因となった10のダンジョンの内、二つが日本によって攻略が行われたとあっては立つ背が無くなるだろう。

 という事は……そのふたつに関わった俺は、かなり拙い立場なのでは?


「あー……なんか頭が痛くなってきた」


 風間さんに倣った訳ではないが、俺は思わず頭を抱えてしまった。

 今の所は、ワールドクエスト関連で被害は確認されてないのでまだ良いが、もしなんらかの被害が出てしまえば、俺が非難の的になる。


「それはこっちのセリフだ。こんな事を上にどう話したらいいものか……」


「言わなきゃ良いだろ?」


「そうだな。結局はそれが一番か……」


 俺たちの間に沈黙が落ちる。


「「はあぁーーー」」


 思わず同時に出てしまったため息は、この問題がそう簡単なものでは無いと示していた。

 結局、俺はこの後夜遅くまで風間さんの愚痴に付き合わされる事になり、ダンジョン攻略は翌日に持ち越される事になった。

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