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新太平洋大陸  作者: 双理
二章 人形の村
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人形の村3

「何で、お前がこんな所にいんだよ?」


「それはこちらのセリフだと思いますが?私は政府の依頼を受けて、調査に来ただけです」


 どうやら、日本政府は華菱に依頼を出したらしい。

 現状では手の打ちようが無く、花菱に泣き付いたんだろう。


「おふたりは、お知り合いなんですか?」


「ああ、少し前に一緒に仕事をしただけだが……」


 冴羽とはもう会うことは無いと思ってたんだが、まさかこんな所でまた会う羽目になるとは……何か気まずい気がする。


「それで、あなたはどうしてここに居るのですか?」


「俺も似た様なもんだ。依頼でダンジョンに潜る事になった」


 俺がそう言うと、冴羽は複雑な表情を見せた。


「あなたが、またダンジョンに入る気になるとは思いませんでした……」


「……」


 俺自身もそう思っていたので、冴羽がそう思うのも無理はない。

 前回の件もあり、冴羽には余りいい印象を持ってないのもあって、どう返したらいいか分からなくなり何も言えなくなる。


「そういえば新庄さん。先程の仮説を立てたのがこちらの冴羽さんですよ」


 微妙な空気を感じ気を使ったのか、堤が話題を変えてくれた。

 その気遣いが有り難かったのもあるが、気になる事でもあったのでその話題に乗る事にした。


「なるほどな、あれはお前が考えたのか。あの村の奴らがモンスターだなんてどうしてそう思ったんだ?」


 冴羽がなんの理由も無しにそんな事を言い出すとは思えないので、理由があるなら聞いておきたかった。


「いいかげん、お前と呼ぶのはやめてもらえませんか?」


 意外なことに、冴羽が言い返してきたのはそんな事だった。

 呼び方を気にするタイプには見えないが、少し苛立っているように見える。


「じゃあ、冴羽さんって呼べばいいのか?」


「呼び捨てで結構です。私の方が年下ですし、あなたにそこまでの礼儀は求めていませんから」


 今更、この女をさん付けで呼びたくはなかったのでありがたい。


「じゃあ冴羽、俺の質問に答えてくれんのか?」


「まだ調査中の事ですし、うちにも社外秘というものがありますので、答えるつもりはありません」


 どうやら何かは掴んでいる様だが、部外者の俺には言えない事らしい。


「あなたがうちの社員になってくれる、というのであれば別ですが?」


「そんな気はないな」


 まだ諦めてなかったのか……

 俺にその気は全くないし、仮に華菱に入ったとしても馴染めるとは到底思えなかった。

 

「そうですか」


 冴羽もあっさりと引き下がる。

 言った本人も、この話を俺が受けるとは思って無かったんだろう。

 話すことが無くなりこの場を去ろうとした時、思わぬ珍客が現れる。


「冴羽さ……って先輩!どっ、どうしてここにいるんですか!」


 ここにいないはずの真夏が、大きく目を見開いて驚いている。

 その姿を見て、俺は思わず大きなため息をついてしまった。


「それはこっちのセリフだ!ここは自衛隊の駐屯地だぞ。何でお前がここにいんだよ?」


「それは、私が護衛に真夏さんを雇ったからですが」


 冴羽から返ってきた答えでその経緯は分かったが、納得がいかない。

 俺は今回の依頼のことは、真夏には言わずにここに来ていた。

 付いてくると言いかねないと思ったからだ。

 それが結局はこの有様だ……ため息も出るってもんだ。

 

「お前なー、仕事は選べよな……」


「先輩にだけは言われたくないですよ!」


 真夏にしては珍しく強い口調で反論してきた。


「私だって、魔石で稼ぐのが大変になって仕事を選べないんですよ!だいたい、この仕事も本当は先輩に依頼されるはずだったんですからね!」


「どういう事だ?」


 真夏に聞いた所、冴羽はまた集会所を通して俺に護衛の仕事を依頼したそうだ。

 だが俺には自衛隊からの依頼があった為、集会所の方でそれを拒否し、その代わりにと真夏の方に依頼を出したらしい。


「それにまだ怪我が治ったばかりなのに……依頼で外に出たって聞いて心配したんですからね。いくら仕事だって言っても、ひと言ぐらい言ってくれてもいいじゃないですか……」


 最後の方は、何故か泣きそうになっていた。


「いや、なんだ……悪かったよ」


 なぜ俺が説教されているのか分からないが、泣かれては困るので咄嗟に謝ってしまった。


「痴話喧嘩は終わりましたか?」


「痴話喧嘩って……だいたいだな、お前が変な依頼出さなきゃこんな事になってねーんだよ!自前の冒険者がいるだろ。なんで護衛の依頼なんて出したんだよ?」


 折角、俺が鍛えてやったのに何故アイツらを使わないんだ?

 それならわざわざ人を雇わなくても済むだろうに……


「彼らなら、もう辞めましたよ」


 冴羽があまりにもあっさりとそう言ったので、俺は戸惑ってしまった。

 あんな事があったんだから、辞めても仕方がないと思うし、それが正解だとも思うが……何かやるせない思いが残る。


「そうか……でもな、何も真夏でなくて良かっただろ?」


「よく知らない人物に頼むぐらいなら、真夏さんが適切だと判断しただけですが?」


 冴羽は何故か真夏を信用しているらしかった。

 いつの間にか名前で呼んでるし、意外と気が合うのかも知れない。


「だがな……」


 さらに冴羽に文句を言おうとすると、今度は真夏が怒りながら俺の言葉を遮った。


「私だって一人前の探索者なんですから、仕事くらい自分で選びますよ!いつまでも子供扱いしないで下さい!」


 新人の頃から知っているのでつい心配してしまうが、真夏が一流の探索者なのも確かだ。

 そう言われては言い返す言葉が無い。


「分かった……けどな、くれぐれもダンジョンには入るなよ」


「えっ、先輩はダンジョンに入る気なんですか?」


 ……やっちまった。

 よく考えたら、真夏は俺の依頼内容を知らないのだからダンジョンに入る事は知らなかったはずだ。


「へー、先輩は人の事はとやかく言うくせに、私を置いていって自分だけダンジョンに入るっていうんですか?」


 何か、真夏が怖いんですけど……


「先輩が行くって言うなら私もついていきます!先輩だって、まだ怪我が治ったばかりなんですよ……」


 俺を心配する真夏に何も言い返せなくなる。

 何とか安心させようと真夏に近寄るが、掛ける言葉が浮かばない。

 更に、ここで思いもしない方向から爆弾が投下される事になる。


「あのー……ひとつ宜しいですか?もしかしたら、そちらのお嬢さんもダンジョンに入った事があるのですか?」


「「あっ!」」


 この堤の質問によって、自分達の犯した失態に気付かされる。

 今まで、俺たちがダンジョンを攻略したことは秘密にしていた。

 何故なら、ワールドクエストが発生した原因がダンジョン攻略にあるからだ。

 そんな事を知られたら、周りに何を言われるか分かったもんじゃない。

 冴羽が呆れた表情でこちらを見てくる。


「すみませんが、少しお話を聞かせていただいても宜しいですか?」


 そう言った堤の口調はさっきまでとは違い、堅苦しく事務的に聞こえた。

 この後、結局俺は風間さんの元へ戻る事になった。

 真夏と冴羽と言うお土産付きだったが……

 俺は最初行った時とは違う気の重さを感じていた。

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