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新太平洋大陸  作者: 双理
二章 人形の村
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人形の村1

 ワールドクエストの失敗から3日が立ち、俺は新大陸にある自衛隊の駐屯地を訪れていた。

 その雰囲気に懐かしさを感じる。

 何故なら、俺は数年前まで自衛隊に所属していたからだ。

 二度と関わる気は無かったのだが、俺は何故かこんな所にくる事に事になってしまった……


「新庄さん、早速ですがこちらへ」


「ああ、分かった。さっさと済ませよう」


 俺は案内役の自衛官に連れられ、駐屯地の中を歩かされた。

 大方、お偉いさんにでも会わされるのだろう。

 できれは勘弁して欲しいものだが、ただの案内役相手ににごねても仕方ない。

 外部の人間が珍しいのか、妙にこちらを見る奴が多いのは勘弁して欲しかった。


 「堤三曹入ります!新庄さんを連れて参りました」


 「入れ」


 わざわざ俺の住む街まで迎えに来て、ここまで俺を連れてきたのがこの堤三曹なのだが、やたらと礼儀正しい奴で一緒にいると気疲れしてしまう。

 その堤が、静かにドアを開け俺に入室をするように促した。


「よく来てくれたな。新庄」


 俺を出迎えたのは、50代ぐらいに見える男だった。

 髪を短く切りそろえ、その顔深く刻まれたしわは積年の苦労を感じさせる。


「何だ風間さんかよ……なるほど、あんたが俺を指名したって訳か」


 突然の顔見知りの登場に少し驚きはしたが、それでだいたいの事態を把握する事ができた。

 この人は、風間正造陸陸軍一佐、俺の元上官だ。

 風間さんは、怖い顔に似合わず世話好きな優しい人柄をしていて、俺が信頼できる数少ない人物だった。

 俺が自衛隊を辞める時に、色々相談に乗ってくれた人でもある。


「久しぶりだな新庄。でもな、今更辞めたお前に言葉遣いで説教はしないが、せめて年上に対する敬意ぐらいは持ったらどうだ?」


 風間さんは俺の態度が気に入らなかったのか、しかめっ面でそう言ってきた。

 結局説教してんじゃねーか……

 それに、さん付けで呼んでるだけ俺にしてはマシな方だ。


「知るかよ。だいたい、礼儀正しい俺なんか気持ち悪いだけだろうが?」


 反省しない俺の態度に、隣にいる堤の表情が強張っていく。

 可哀想だとは思うが、そんな事で態度を変えるつもりはない。


「全く、そういう所は相変わらずだな」


 堤の心配をよそに、風間さんはその強面の表情を崩し笑い始めた。

 その姿をみて安心したのか、堤も肩の力が抜けたようだった。


「なあ新庄、自衛隊に戻る気はないか?現状を鑑みるとお前の力が必要とされている事は分かってるだろう」


「……いくらあんたの頼みでも、それは出来ないな」


 こうして冷静にしているのは、風間さんが言ってるからだ。

 他の奴だったら、即ぶん殴って帰ってる所だ。


「まあ、そうだろうな。お前の力を借りたいのは事実だが、今のは上からそう言うように言われてたんだ……すまなかった」


 風間さんはわざわざ頭を下げてくれたが、それが宮使いの辛い所だとは理解できる。


「別にいいよ。あんたには恩がある、気にすんな。それよりも仕事の話だ。制限時間があるんだ、のんびりしてらんないだろ?」


「そうだな、とは言っても仕事内容は依頼書の通りだ。お前には軍事顧問としてダンジョン攻略に参加してもらいたい。ついでに、若いやつらを指導して貰えれば助かる」


 どさくさに紛れて仕事を増やされた気もするが、最近同じような事をしたばかりだし、まあ良いだろう。


「ああ、了解だ。本当は来たくも無かったが……そんなことも、言ってらんないしな」


「やはり、お前もそう思うか?」


 探るような目つきで風間さんが俺を見てくる。

 この場で嘘をついても意味が無いだろうと思い、俺は今の考えをそのまま話す事にした。


「このままだと、探索者は全滅して、新大陸はモンスターしかいない場所になるだろうな」


 もっとも、それだけならば新大陸から全ての人員を引き上げ、近づかなければ良いだけだが……


「こちらもそう考えている。しかし本当の問題は別にある。それは現在の日本が、電力のほぼ全てを魔石に頼っているという事だ。その為、我々は新大陸の拠点を失う訳にはいかない。もし、我々が新大陸からの撤退すれば、国は電力を失い、震災直後の状態に戻りかねない……非常にまずい状況だ」


 これは日本だけでなく、どの国が同じだと言える。

 昔ながらの化石燃料に頼れば一時的には凌げるかもしれないが、世界人口が激減している現在ではそれを維持できるのかは疑問だった。


「風間さんの頼みだし、出来ることはやるよ。流石に知らない振りも出来ないしな」


「頼むぞ新庄」


 風間の表情に、事態の深刻さが窺えた。


「堤、このまま新庄をダンジョン前の拠点まで案内してくれ。あれを見せるのも忘れるなよ。意見を聞きたい」


「了解いたしました!」


 随分ともったいぶった言い方をしやがる。

 そんな言い方をされたら聞きたくなるじゃねーか。


「あれってなんだよ?」


「実際に見た方が早い……言葉では説明しずらいものだ」


「なんだか分からんが、取り敢えず見れば良いんだな?」


「ああ、そうだ。悪いが早速向かってくれ。お前もここには長居したくはないだろ」


「だな」


 俺は堤と共に部屋を出ると、早速目的地に向かう事にした。

 それは良かったんだが、駐屯地の中を歩くと妙に視線を向けられるのが気になる。


「なあ、なんでここの奴らはこんなに俺を見てくるんだ?」


「今日、新庄さんがいらっしゃるのは全員に通達済みですから、皆あなたに興味があるんですよ」


 なるほど、風見さんの仕業か。

 悪気は無かったのだろうが、これではどうにも落ち着かない。

 俺が居心地の悪さを感じていると、堤が俺の方に振り返り、唐突に語り出した。


「自分にとっては新庄さんに憧れの存在なんです!実は今回の任務の自分から志願したほどでして、その他を寄せ付けない圧倒的な能力で、世界で初めてダンジョン攻略を成功させた自衛隊の英雄だと思ってます!そんなあなたに、興味を持たない奴の方がおかしいですよ!」


「ああ、そうか……」


 俺は自分の気分が沈んでいくのを感じた。

 堤が俺に向けてくる憧れの視線が嫌でしょうがなかった。

 同じ様な視線を向けられた、あの頃を思い出してしまう。


「ひとつ、お願いがあるのですが、その時話を聞かせて頂けないでしょうか?」


 追い討ちをかけるように、堤がそんな提案をしてくる。

 堤が俺を見る視線が怖かった。

 その気持ちを抑え、なんとか言葉をしぼりだす。


「……そんな話を気はないな」


「そうですか、残念です」


 堤は空気を読んでくれたのか、それ以上その話題を口にする事は無かった。

 昔話などする気はないし、たとえ話たとしても決して堤の望むようなものではない。

 堤の言う、英雄なんてものはいない。

 もし仮にいるとするなら、それはあの時、命を落とした奴等の事だ……



 それから俺は、ただ堤の後に付いて歩いた。

 何度か言葉を交わしはしたが、内容など覚えていなかった。


「着きました。ここが風間一佐がおっしゃていた場所になります」


 その堤の言葉で、いつの間にか地面を向いていた視線を上げる。


「おいおい、何だこれは。なんでこんな所に……」


 それは、俺の中のある淀んだ空気が吹き飛ぶような衝撃的な光景だった。


「ようこそ、最果ての村カルミナへ」


 のどかな農村が、俺の目の前に広がっていた。

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