ワールドクエスト2
事態がうまく飲み込めない中、ただ時間だけが過ぎて行き、ワールドクエストの期限が迫ろうとしていた。
クエストを攻略するために動いた国もあったが、殆どの国は様子見を決め込んだ。
ワールドクエストをこなしたとしても、どんなメリットが有るか不明だったのでそれは当然の事だった。
その為、今の所はワールドクエストは達成できない見込みだった。
今、ステータスウインドウに表示されてい期限が0を指し示す。
ゴーン ゴーン ゴーン
鳴り響く鐘の音。
そして、再び謎の声のアナウンスが流れ始めた。
『ワールドクエストが失敗しました。
ワールドクエスト失敗によりワールド難易度が上昇しワールドレベルが2に再設定されます。
これによりモンスター全体のレベルが5引き上げられます』
頭の中で声が鳴り響く。
これは予想の範囲内であり、驚きはしなかったが……
「モンスターにレベルってあるんですか?」
「初耳だな」
俺は今、真夏の部屋に来ていた。
何が起きても、直ぐに対応出来るように一緒にいる事にしたのだ。
真夏が飯を作ってくれるらしいので、タダめしにありつけるという思惑もあったが。
『ワールドクエストは持ち越しとなります。
クエスト内容は今より一月以内に5ヶ所のダンジョン攻略となります。
なお、クエストが達成できなかった場合、ワールド難易度が上昇します』
これでアナウンスは終わりだった。
「今の感じだと、モンスターが強くなったって事ですよね?」
「多分な……」
実際に確認をしないと分からないが、恐らくモンスターは強化されている。
前回は現実になっているからだから、今回は何も起きないということは無いだろう。
モンスターがどれ程の強化されたか判明するまでは、またこの街が封鎖される事になりそうだ。
「まあ俺たちにはどうしようもないし、取り敢えず飯にしよーぜ。腹減った」
「先輩、少し呑気すぎませんか?」
「ちょっとモンスターが強くなるってだけだろ。今気にしてもしょうがねーよ」
「それは、そうですけど……」
真夏は納得してはいないようだったが、夕飯の準備を始める。
もう既に調理は済んでいたのか、後は食卓に並べるだけのようだ。
並べられた食事の見た目は、取り敢えず美味そうには見える。
まさか、これで不味いって事はないよな?
結果を言えば、真夏の作った料理はかなり美味かった。
誰かの手料理なんて食べたのは、何年振りだろうか。
「ご馳走さん。しかしお前、料理上手かったんだな?」
こんな状況でもなければ、真夏の手料理を食べる機会なんか無かったので、新しい発見だった。
「一人暮らしですからね。これぐらいは出来ますよ」
「俺も一人暮らしだが、料理なんか出来ないぞ。外で食えば住むしな」
いつもは、出来合いの物を買うか外食で食事は済ませる。
作るのは面倒だし、それなりに栄養が取れれば後はどうでもいいと思っていた。
「そんな事言わないで下さいよ……外食ばかりだと体に悪いですよ」
「今まで体を壊した事なんてないから、大丈夫だろ?」
「もー、ダメですよ。また今度作って上げますから、ちゃんと栄養ある物を食べて下さい!」
怒られはしたが、また旨いものに有り付けるとあって反論はしなかった。
食事が終わる頃に、またも緊急放送が流され、案の定街の外に出るのは禁止される事になった。
俺はしばらく真夏の部屋に留まったが、特に問題が起きる気配は無かったので帰宅する事にした。
このまま、真夏の部屋に泊まる訳にもいかないしな。
「じゃあ帰るなー」
「はい、またいつでも来て下さいね」
俺は軽く手を振って真夏に応え、帰路についた。
一人で暗い夜道を歩いていると、どうしてもアナウンスのことを考えてしまう。
真夏には大丈夫と言ったが、実際はかなり拙い状況だと俺は思っている。
今はまだいい。
だが、モンスターのレベルが、人間のものと同程度の強化を引き起こすものだとしたら、いずれはかなり拙い事になる。
仮に、このままワールド難易度とやらが一つ上がる事にモンスターのレベルが5上がり続けるのなら、今レベル1のモンスターが僅か1年でレベル60に達してしまう。
それでは俺と同じレベル帯に達してしまい、その辺の探索者が対処出来るとはとても思え無い。
「とはいえ、俺にできる事なんかないしな……どうしたもんか」
まあ、俺が考える事ではないか。
こう言う事は、国の偉い人が考えるべきだろう。
そう自分に言い聞かせ、帰り道を進んだ。
見慣れた街の風景が、少し不気味に見えるのは気のせいだろうか。
翌日、俺は集会所を訪れていた。
何かいい仕事があれば受けようと思って来てみたが、どうやらそれ所じゃなさそうだ。
集会所の中に探索者達が押し掛けて、何やら所長と揉めている様だった。
「なあ所長!俺たちもダンジョン攻略をするべきなんじゃないか!」
「まあ待て、今はモンスターがどれぐらい強くなっているのか調査してるところだ」
「だがよー。このまま国に任せていていいのか?なんかじっとしてられなくてよ」
探索者たちがダンジョン攻略に乗り出すべきじゃないかと、所長に詰め寄っているようだ。
それを横目に、俺は依頼が張り出される掲示板を目指して進む。
すると、進む先でしおりさんが退屈そうにその光景を眺めていて、俺と目が合うなり話しかけくる。
「久しぶりだねー新庄ちゃん。今日はどうしたのかなー?」
相変わらず、気の抜ける話し方をするなと思いながら、しおりさんに返事を返す。
「なんか、仕事があればと思って来たんだが……こりゃ酷いもんだな」
「なるほどねー。まあー、今は依頼の受付はやってないけどねー」
「なんでだよ?」
「今はー街の周辺の調査で手一杯でねー。依頼の受注まではー、人出が避けないのさー」
頭が痛くなる話だった。
俺にとっては死活問題だ。
「仕方ねーな、出直すか」
「ちょっと待ってよー新庄ちゃん。所長が話があるって言ってたよー」
話し?何だ、説教でもされんのか?
最近は何も悪い事はしてねーぞ……
「って言っても……あれじゃ話どころじゃないだろ?」
所長は、いまだに冒険達に囲まれていて、どう見ても話どころではなさそうだ。
「待ってもらっていいかなー?まあー、お茶ぐらいは出すからさー」
特にやる事も無かった俺は、しおりさんに従ってしばらく待つ事にした。
後で、また来るのもめんどいしな。
しおりさんが、お茶を淹れてきて俺に手渡す。
「新庄ちゃんは偉いねー。こんな時まで仕事探しに来るなんてさー」
しおりさんは、ちゃっかり自分の分のお茶まで用意していて、おまけに茶菓子まで持ってきている。
どうやら隣に居座るつもりらしい。
忙しいんじゃなかったのかよ……
「金を稼がないと、生活できないからなー」
「ハハハハハハ。確かにー、それはそうだねー」
しばらくの間、しおりさんとそんな取り留めのない会話をして待ったいると、集まっていた探索者共が散り始めた。
どうやら、話し合いは終わったようだ。
俺はしおりさんにお茶の礼を言うと、気乗りはしなかったが所長の話を聞きにいく事にした。
「よう、何か話があるって?」
「新庄か、ちょうど良かった」
いや、待ってたんだよ!
思わずそう言いそうになったが、所長が疲れた表情をしてたのでやめておいた。
「ここじゃなんだから、付いてこい」
ここでは話せない内容のようだ。
もう既に嫌な予感しかしない。
面倒事は御免なので辞退したいところだが、そうもいかないんだろーな。
仕方なくついていった先は、先日も訪れた所長室だった。
「まあ、掛けろ」
俺が言われるままソファに腰を下ろすと、所長が1枚の紙を差し出してくる。
「何だコレは?」
「仕事の依頼書だ。お前を名指しで指名してきた物だ」
その紙を見て内容を確認する。
「おい!何だこれ、ふざけんな!」
「落ち着け。お前が怒るのも無理はないが……」
その依頼内容は俺を怒らせるのに充分なものだった。
この場にいるのが所長で無ければ、ぶん殴って帰ってるところだ。
所長は俺が落ち着くのを待ち、言葉を続けた。
「依頼は受けなくても構わん。お前にそんな義理もないだろうからな。だが……今の状況を考えれば、引き受けてもらいたいと思っている」
俺を指名してきたその依頼の内容は、自衛隊と一緒にダンジョン攻略を行うというものだった。




