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新太平洋大陸  作者: 双理
一章 無謀な依頼
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無謀な依頼7



「新庄さん、このモンスターの情報を下さい!」


「悪いな、俺も初めて見る奴だ」


 獅子のモンスターは俺も初見のやつだった。

 情報があれば、初手であんなミスは犯さなかった。

 ギャルが無口の治療を初めているが、いまだにピクリとも動かない。


「誰か鑑定のスキル持ってる奴いるか?」


「僕たちは誰も持ってません。クッ!」


 イケメンが、なんとか獅子の攻撃を逸らす。

 少しでも敵の情報が欲しかったが、鑑定持ちはいないようだった。

 まあ、鑑定は取得にかかるスキルポイントが多いので仕方ないことだが、情報がまるで無いのはリスクが高過ぎる。


「おいメガネ、スピードダウンのデバフスキル持ってたな、こいつに掛けろ!」


 まずは、この速さをどうにかしないと手の出しようがない。


「すみません!僕のスキルは、敵に一撃当てないと駄目なんです!」


 クソが、近接が苦手の癖にそんなスキルとってんじゃねーよ!


「分かった。俺の真後ろにつけ、なんとか隙を作る!」


「ガアアァァッ!」


 獅子がものすごい速さで迫り、その爪を振り下ろす。


「このっ!」


 なんとかそれを逸らす事に成功するが、こんなのを何発も受けてはナイフが折れかねない。

 それでも、何とか隙を見つけて反撃したが、ダメージが入ってるのかすら分からない有様だ。

 それでもやるしかない。

 こんな速さの奴相手に、逃げ切れるとも思えないからだ。


「フリル!なんかデカイのかましてやれ!!」


「でも、あんな早いのに当たんないよ〜」


「いいからやれ!」


 『えい!』という間抜けな声と共に、フリルが獅子に炎の魔法を放つ。

 でかい火の玉がモンスターに襲いかかるが、それは簡単に躱されてしまう。


「ガッ!」


「かかった!!」


 俺は、モンスターの回避先を予測しスラッジのスキルで足元を泥化していた。


「いけ、メガネ!」


 俺はメガネの襟首を掴み、思いっきり獅子に向けて投げつけた。


「ちょっ、アアアアアーーーーッ!」


 メガネが獅子に向かって飛んでいく。


「どうだ!?」


「イッテテテ……なんとか当たりました!」


 モンスターが泥から抜け出し大きく飛び退るが、その動きが明らかに遅くなっている。


「よし、デバフが入った!よくやった!」


「よかった。でも、こういうのはもう勘弁してください……」


 メガネが、急いで俺の後ろに戻る。


「これならっ!」


 真夏がすかさず獅子にハンマーを振り落とす。


「ガアアアアッーーーー!」


「当たった!」


 獅子が咆哮を上げてよろめく。


「よし、効いてる!このまま押し込むぞ!」


 デバフスキルのお陰で、俺以外にも攻撃を加えるチャンスが出来た。

 これでなんとか、まともな戦いが出来そうだ。




 モンスターとの戦闘は泥試合になっていった。

 なんとか攻撃を当てれるようになって、ダメージを与えてはいるがいまいち決め手に欠ける状況だった。

 獅子はかなり頑強なようで、先が見えない。


「ぐっ、先輩このモンスター硬すぎです!」


 真夏も何度か攻撃を当ているのだが、いまだに獅子は元気に走り回っている。


「ハァハァ……しっ新庄、さん……このままだと……拙くないですか……」


 一方、こちらは体力が徐々に削られていた。

 イケメンは肩で息をしている有様で、真夏の方はまだ保ちそうだがそれも時間の問題だろう。


「真夏、イケメン、ふたりであいつを足止めしてくれ!」


「「了解!」」


 2人に前衛を任せ俺は一旦後ろに下がる。

 俺にはこの状況を打開する切り札があった。

 だが、それを切ってしまって良いのかずっと迷っていた。

 しかし、そうも言ってられない状況になりつつある。

 

 俺はアイテムボックスのスキルを使い、何もない空間から一振りのナイフを取り出した。

 鞘からナイフを引き抜くと、その頭身は黒く塗り潰されていて不気味な雰囲気を醸し出している。


「クソ!こんなもんに頼りたくはねーけど」


 俺には切り札が2つある。

 その1つが、このナイフだった。

 これはドロップ品で作られた装備ではない。

 ダンジョン内で手に入れた特別なものだ。

 入手した経緯に問題がある為、できれば人目には晒したくなかった。


「ぐわあああ!」


 イケメンの悲鳴が聞こえ、俺は前方に視線を戻した。

 そこには、獅子の爪で体を引き裂かれるイケメンの姿が見えた。


「今行く!」


 俺が前衛に戻ろうと走り出した時、獅子は唐突に方向を変え、俺に向かって走り出した。

 不意を突かれたが、何とか迎撃しようと体制を整える。

 だが、獅子は俺横をすり抜け、そのまま俺の後ろにいたメガネにその爪を振るった。

 その爪はメガネの体を易々と切り裂き真っ二つにする。

 俺の視界に体がふたつに分かれ崩れ落ちるメガネの姿が映った。

 獅子はそのまま勢いを落とす事なく、後方にいるギャルに狙いを定め駆け抜けた。

 

「逃げろ!」


「きゃああああ!」


 フリルの悲鳴が鳴り響く中、俺はそれを見ている事しかできなかった。

 獅子がギャルの頭にかぶりつき、そのまま引きちぎる。

 ギャルの体が、無口の体に覆い被さるように倒れる。

 獅子は一旦距離を取り、口の中にある頭を吐き捨てた。


 この瞬間、俺は自分の中で何かがキレるのを感じた。


「テメーーーー!何してくれてんだ!」


 俺は獅子に向け、全力で駆け出した。

 獅子がその身を低くして構える。

 このまま間合いに入れば、反撃を受けるかもしれない。

 だが、俺は気にする事なく走り続け、さらに加速していく。


「おらああーーーー!」


「ガアアアアアッーーーーーー!」


 今までで一番大きな獅子の悲鳴が鳴り響いた。

 恐らくモンスターには俺の姿が消えたように見えただろう。

 『鬼神』一時的に身体能力を3倍まで引き上げるスキル。

 その強力すぎる効果の反動で、スキルが解けた後は全く動けなくなるほど消耗してしまう。

 これが俺の2つ目の切札だった。

 俺のナイフの黒い刀身が易々とモンスターの皮膚を貫き、その眉間に深く突き刺さっていた。


「グアアアアーーーーーー!」


 それでも、モンスターは俺にその牙を向けてくる。

 時間がない。

 スキルがきれる前に、絶対ぶっ殺す!


「うるせーーーーっ!黙ってろ犬っころが!」


 俺は獅子が噛み付くために大きく開けていた口の中に左手をぶち込み、そのまま地面に叩きつける。

 口の中から力ずくで獅子の頭を地面に押し付け、動きを止める。

 その体制のまま胴体にナイフを突き刺す。

 獅子は噛み付く顎に力を入れるが、俺はさらに左手を喉の奥に突っ込み、その動きを抑える。

 ナイフを一旦引き抜くと、再度モンスターの体を突き刺す。

 引き抜き、突き刺す、引き抜き、突き刺す、引き抜き、突き刺す……

 何度も、何度も、何度も、ただナイフで獅子の体を刺し続ける。


『経験値が一定に達しました。レベルが1上昇します』


 俺は、その声でモンスターを倒したのだと気づいた。

 スキルの効果が切れ、極度の疲労感が俺を襲う。

 最早立っている事もできず、倒れてしまう。


「先輩、大丈夫ですか!!」


 真夏が俺に向かって駆け付けるのが見えた。


「ああ……」


 なんとか返事だけはしたが、スキルを使った反動がきつ過ぎてもう動けそうもない。


「他の連中は?」


 負傷した奴らのことが気になり、俺は何とか首だけ動かして辺りを見回した。

 フリルがイケメンの様子を見ていたが、どうやらダメだったようで泣き崩れた。

 無口は何とか無事だったようで、意識を取り戻し、辺りの惨状を見て顔を青ざめていた。

 後のふたりは、確かめるまでもない……


「クソが!」


 俺は無理やり腕を動かして地面を殴りつけていた。

 それだけで全身が激しく痛んだが、そんな事はどうでもよかった。

 結局は3人も犠牲者出した……


 本来なら、ダンジョン攻略で3人の犠牲で済んだというのは被害は少なかったと言える。

 それでも、簡単に納得できるもんじゃ無い。

 俺は、死人が出るとがどういうものかを思い出した。


 このまま全てを投げ出し、ダンジョンから逃げ出したい気分だった。

 しかし、そんな事をしたらコイツらの犠牲が無駄になる。

 全然体が動かないが、仕事はこなさなければならない。


「真夏、肩を貸してくれ」


 真夏は黙って俺を立たせてくれた。

 もう自分の力で、立ち上がる事もできない。

 俺と真夏で部屋の奥に歩いて行くと、そこには入り口とは違い、人が通るのに丁度いいサイズの扉があった。

 俺が軽く手で触れると、ひとりでに開いていく。


「ここが、俺達の目的の場所だ」


 扉の先はそう広くない部屋になっていた。

 中央に台座があり、そこには球形の青く輝く物体があった。

 真夏を促し台座に近づくと、俺はその球体を手に取った。


「先輩それは?」


「ダンジョンコアってやつだ。これが華菱が欲しがってるもんだろうな」


 俺が、前に攻略したダンジョンの奥にも同じものがあった。

 鑑定をした結果、名前だけは分かったのだがその用途は判明していない。

 こんな物を手に入れてどうするかは知らないが、それは華菱が判断する事だろう。


「周りにある箱はおまけみたいなもんだ。おそらく装備品なんかが入ってる。ちょろまかして売れば大儲けできるぞ」


 台座の周りには4つの箱が置いてあり、簡単に言えばそれは宝箱だった。


「そんな事しませんよ」


 真夏はそう言うが、俺は今迷ってるところだ。

 クソみたいな仕事させやがった華菱に、少しぐらい意趣返しをしてやりたかった。

 取り敢えず、俺と真夏は全ての宝箱の中身をアイテムボックスに入れ部屋を出た。


 外に出ると、生き残ったふたりが死んだ奴らの遺品を回収しているところだった。

 遺体までは持ち帰れない事を分かってるんだろう。


「暫く休んで、動けるようになったら出るぞ」


「……はい」


「……分かりました」


 華菱組の2人は、酷く沈んだ表情をしていた。

 死んだ奴らと、ほとんど関わりのない俺ですらやるせない気分なのだ。

 元から付き合いのあった二人の心中は、とても言い表せるものじゃない。


 休んでいる間に、レベルが上がったことを思い出した。

 俺はステータスウインドウを呼び出し確認する事にした。


 レベル63……俺のステータスにはそう表示されている。


 これは民間の探索者としては、あり得ないほど高いものだ。

 俺はこの事を誰かに言うつもりはない。

 それは真夏に対してもだ。

 それはあまりに高レベルだと、今回のように厄介ごとに巻き込まれるからだ。


 いかに俺のレベルが高くても、結局は死人を出してしまった。

 やはり、ダンジョンには手を出すべきじゃないと改めて思う。


 幸いだったのは、帰り道のモンスター少なかった事ぐらいだ。

 俺たちは会話をする事もなく、黙々と出口に向かった。


 出口に着くと、案の定冴羽が待ち構えていた。


「ほらよ、これがおまえの欲しがってたもんだ」


 俺は、アイテムボックスからダンジョンコアをとり出し、冴羽に向けて放り投げた。


「これが……」


 冴羽は、俺が渡した球体をまじまじと見つめる。

 よほど興味がそそられるらしく、球体に視線が釘付けだった。

 そんな冴羽に構わず、宝箱に入っていた他の物もアイテムボックスから取り出し、全てを並べてやった。


「こっちはおまけだが、これの売値分ぐらいは、遺族に補償してやれ。いればだがな……」


 俺の後ろを確認した冴羽は、全員で帰れなかったことを悟ったようだった。

 

「分かりました……」


 流石に、冴羽も鎮痛な表情を見せた。


 宝箱の中身を全部渡すのは勿体無い気もしたが、本当に持ち帰ってしまったら、真夏に何を言われるか分かったもんじゃ無い。

 これでいいと納得する事にした。


「仕事は終わりだ。帰るぞ、真夏」


「はい、帰りましょう」


 歩き出した俺の後に、真夏が付いてくる。

 このまま帰ってしまうのは問題がありそうな気もするが、もうここには居たく無かった。

 冴羽が、俺たちを呼び止める事は無かった。

これにて一章終了となります。

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