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新太平洋大陸  作者: 双理
一章 無謀な依頼
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プロローグ

 この世界が壊れてしまったのは、いつからだったか……


 始まりは、小さな地鳴りだった。

 その地鳴りは時間が経つにつれて大きくなり、地面が少し揺れ始める。

 それが徐々に強まり、誰もが地震だと認識した瞬間、比喩ではなく地面が波打ち大きな振動が襲ってきた。

 それは、いまだかつて人類が経験した事がないほどの大地震だった。


 徐々に地震が収まり始めると、人々は恐る恐る辺りを見渡し被害の確認を始めた。

 見渡す限り、全ての建物が崩れ去り、瓦礫になって地面を埋め尽くしている。

 負傷者や生き埋めになった者、幼子の鳴き声、様々な声が助け求めていた。

 更に、そこら中に火の手が回り煙が視界を奪う。

 瓦礫が燃える臭いと、人の焼ける臭いが混ざり合い、周囲に漂う。

 まさに地獄のような光景が広がっていた。

 無事に済んだ幸運な者達は、ただ呆然と立ち尽くすことしかできなかった。

 

 立ち尽くす人々には、更なる絶望が近づいてきていた。

 海の方から、大きな壁のようなものが近づいてくる。

 大きな壁は、地震を生き延びた人々を建物の瓦礫ごと飲み込んだ


 ━━巨大な津波が押し寄せ、そこにあった全てが水の中に消える。


 これは、局所的な出来事では無い。

 世界中、いたるところで起きた事実だ。

 津波は高層ビルさえも遥かに超える高さで、多くの命を奪っていった。

 更に、陸地を侵食した大量の海水は全く引く事がなく、多くの都市が水の底に消える事になる。

 後日、世界地図は大きく書き換えられる事になった。

 この日、世界は全人口の半数を失った。

 各国の政府機関は麻痺し、再び機能し始めるまでに生き残った人々のさらに半数が命を失う事になる。


 しばらく経つと、生き残った人々が集まり復興が始まったが、その進捗は芳しく無かった。

 文明が壊滅したと言ってもおかしくない程の災害に見舞われたのだから、それは仕方のないことだった。

 一応のライフラインが整い、何とか安定した生活を送れるようになる頃には、世界人口は10億人を切っていた。

 

 ここで、ようやく各国が地震の調査に乗り出す事になる

 地震の規模が明らかにおかしなものだったからだ。

 震源地は何処なのか、震度はどれ程のものだったのか、引き起こした要因は何だったのか、様々な方面から調べることになった。

 その調査は、意外にもあっさりと実を結ぶ事になる。

 原因となるものを、目に見える形で見つける事が出来たからだ。





 ━━太平洋に巨大大陸が発見される。





 このニュースは、世間をおおいに賑わせた。

 それは、あり得ない事だった。

 その周辺で、大きな火山活動が観測された事などなかったからだ。

 更におかしかったのは、その大陸が様々な植物に覆い包まれていた事だ。

 出来たばかりの陸地が、緑に溢れている等あり得ない事だった。


 そこで各国は専門家を集め、調査団を結成してその大陸に上陸を試みた。

 上陸を果たした調査団は、見た事もない光景を目の当たりにする。

 その分野では有名な植物学者、動物学者がいたのにも関わらず、そこは見た事もない動植物の姿で溢れていたのだ。

 それを見て、調査団は上陸してすぐ間近の場所にベースキャンプを作る事にした。

 学者たちは、新しい発見に賑わっていた。

 

 だが、日が暮れて、全員で焚き火を囲んで夕食を取っていた時にある事件が起きる。

 はじまりは、小さな犬のような生き物が迷い込んできた事だ。

 その生き物は、全身が黒い毛で覆われ、耳が尖っている。

 目を引いたのが、口から覗く大きな牙で、とても鋭いものだった。

 脚の爪も発達しており、四足で歩くのに支障があるのではないかと思える程だった。


 そこで、何を思ったのか、一人の学者が餌をやろうと生肉を手に近づいていった。

 その動物は唸り声をあげ、警戒するように暫く辺りをうろつくと、ゆっくり近づいてきて生肉の匂いを嗅ぎ始めた。

 酒を嗜み、酔っていたのもあったのだろうが、その学者はあまりにも無警戒すぎた。

 次の瞬間、生肉を持っていたその手ごと噛みちぎられてしまう。

 

 その様子を見ていた護衛の軍人が、すぐに銃でその動物の頭を撃ち抜く。

 見事に一発で命中させて、子犬を引き離す事には成功したが、近づいて確認するとまだ息があるようだった。

 とどめを刺そうともう一発打ち込もうとした時、そこにはもう動物の姿は無かった。

 次の瞬間、軍人は足に激痛を覚える。

 そして、自分の足元に黒い物体が張り付いているのを見た。

 軍人は、慌てて二発目、三発目と銃弾を影に打ち込む。

 ようやく足から離れた動物は、それでもまだ息があるようだった。

 その後も何度も発砲を続け、弾が無くなる頃にようやくその影は動きを完全に止めた。


 最初に噛まれた研究者の呻き声が聞こえる中、軍人はその動物の死骸から暫く目が離せなかった。

 すると動物の体が淡く光り始め、光の粒になって跡形もなく消え去った。

 そして、軍人は不思議な声を聞く事になる。





『経験値が一定に達しました。レベルが1上昇します』





「そうして、世界で初めてレベルが上がった人間が誕生したって訳だ」


 6人の男女が焚き火を囲み、俺の話を聞いている。

 その内4人は家族連れだ。

 小学生に見える兄妹を、父親と母親がそれぞれ膝にのせている。

 後の2人は、高校生の男女。

 俺が見たところ、何か関係がある訳ではなく知り合いということもなさそうだ。

 もっとも男の方は、先程から同年代の女の子興味津々といった具合だったが。

 ━━まあ、頑張れ。


「その後、その軍人には様々な検査が行なったそうだが、特には何の異常もなかったらしい」


「でも、レベルが上がったのですから、運動能力が上がっていたのではないですか?」


 黒髪のツインテールの女子高生が質問してきた。

 何故か、熱心にメモを取りながら俺の話を聞いている。

 学校の課題かなんかだろうか?

 そんな事を考えているうちに、小さな兄妹がそうだそうだと騒ぎ出した。

 両親が困った顔でそれをなだめる。

 その対面では、高校生の男が話そっちのけで女子高生を見つめていた……

 少し場が混乱しているが、話を続ける事にする。

 

「そう、その通りだ!肉体的には何の異常もなく、見た目も変わってない。だがそいつの運動能力を計測した結果……」


 ここで溜めを作って、子供たちの注意を惹きつける。


「なんと!100m9秒で走ったらしいぜ」


「嘘だあーそんなに早く走れるはずないよー。オジサンの嘘つきー」

 

「オジサンの嘘つきー」


 俺の狙い通りに、子供達は盛り上がってくれた。

 でもな……俺はオジサンじゃねーよ!

 まだ20代だ……ギリだがな。


「嘘じゃねーよ。お前らも、ここでレベルを上げたら早く走れるようになるぞ」


 その言葉を聞いて嬉しくなったのか、子供達が俺に駆け寄ってレベルを上げたいと言ってくる。

 親の許可もなくそんな事はできないので、適当に誤魔化す事にする。

 

「まあ、それは一旦置いとくとして、ここが調査隊が最初にベースキャンプを作った場所、ファーストキャンプって言われてる場所だ」


「なるほど、それがファーストキャンプの名前の由来なんですね……歴史を感じます」


 旦那さんの方が感心していると、奥さんの方も周辺を見回して感激している様子だった。


「歴史って言っても、まだ20年しか経ってないけどな。それでも、今後歴史に残る場所ってのは間違いない!」


 どうして俺がそんな場所でこんな話をしているか……それは、簡単に言えば仕事だからだ。

 新太平洋大陸観覧ツアー。

 そのガイドをしているのがこの俺、新庄守だ。

 正確に言えば、俺は何でも屋みたいな事を生業にしているのだが、今はこのガイドの仕事を受けていた。

 

「20年経ってある程度安全を確保できたから、こうやってお客さん方を案内できるんだが……危険な場所だって言うのは頭に入れておいてくれ」


 正直、小さな子供を連れてくるのは個人的にはどうかと思うが、相手はお客様、特に説教したりはしない。

 いわゆる、地獄の沙汰もってやつだ。

 そんなどうでもいい事を考えていると、何やら子供達が騒ぎ出す。


「ワンちゃんだー、かわいい!」


 妹の方が小さな生き物に近づいていく。

 俺は慌てて駆け寄り、女の子の手を掴む。


「オイオイ、さっきの話を聞いてなかったのか?どんなに可愛く見えてもそいつはモンスターだぞ、簡単に近づくな」


 ファーストキャンプを襲った生き物は、後にモンスターと名付けられた。

 モンスターは普通の生物とはかけ離れていた能力を持っている。

 子犬程度の大きさのモンスターでも、非武装の人間ならば簡単に殺されてしまうだろう。

 

「ねえー、餌をあげちゃダメなの?」


「腕ごと食われちまうよ。やめとけ」


 母親がやめなさいと嗜めるが、よほどそのモンスターが気に入ったのか少しぐずり始める。

 俺は油断なくモンスターを見ていたが、その様子を見て一瞬だけ気が緩んでしまった。

 その隙を突くように、モンスターが俺に向かって飛びかかってきた。


「ガアアアっーーーー!!」

 

「おっと、アブね!」


 俺はその噛みつきを躱し、飛びかかってきたモンスターの首を空中で掴み、動きを封じる。


「見ての通り、人を見たら襲いかかってきやがる。餌なんかやってもなつかねーよ」


 俺が振り返ると、親子は腰を抜かして地面にへたりこんでいた。

 俺は子供の目に入らないように後ろを向いてから、腰からナイフを抜いてモンスターに突き刺した。

 モンスターが、淡い光の粒になって消え去っていく。


「よし、もう大丈夫だ」


 安心させるように、作り笑顔で親子に近づく。

 すると、止まった時間が唐突に動き出したかのように突然女の子が泣き出した。

 高校生達もようやく事態を把握したのか、恐怖で青ざめている。

 これは拙いな、どうしたもんか……

 俺は足元に小さな石が落ちているのを見つけ、それを拾い上げる。

 

「ほら、いいもんやるから泣きやめって……」


「ふぇ?……なにこれ?」


 俺は女の子の手にその小さな石をのせるやる。

 黒みがかった紫色の小指の先ほどの小さな石だ。

 微かに光を放っていて、よく見ると虹彩のような模様がある。


「うわっ!キレー」


「だろ!これが魔石だ。こんな危ない場所に人が街まで築く事になった要因だな」


「これが、魔石ですか!」


 全員が、女の子の手に乗っている小さな石に視線を注ぐ。


「そうだ、世界のエネルギー問題を一気に解決したとんでもない代物だ。こんな大きさでも、一世帯分ぐらいなら数日分の電気を作り出せる」


 初めて軍人がモンスターを倒した時、その体は完全に消え去った訳ではなかった。

 小さな鉱石らしきものが残っていたのだ。

 もう暗くなっていたのも幸いして、淡い光を放つ鉱石をその時の軍人が発見していた。


 初めは、モンスターから出てきた物だとは思わず、この新大陸特有の鉱石だろうと思われていた。

 だが、モンスターを倒すたびに発見されるこの石は、モンスターの核なのではないかと推測され始める。

 そこで、さまざまな研究が行われることになったが、結局は何も分からなかった。

 

 新大陸を調査する上で、モンスターを駆除する事は回避できない事だ。

 すると当然、魔石が出てきてもそれは溜まる一方になる。

 当初は規制されていた魔石の研究は民間企業に解放される事になり、多くの魔石が民間に流されるようになった。

 その後、ある企業が魔石からエネルギーを取り出す事に成功する。

 その企業は、あっと言う間にその技術を実用化レベルまで確立し、今では世界のエネルギー市場を支配する大企業となっている。


「いいんですか、そんな物を頂いても?」


 母親が遠慮気味に聞いてくる。


「そのサイズじゃ、売ってもたいた金にならないし、記念に持っていってくれ」


 俺がそう言うと、女の子はとても嬉しそう喜んでくれた。

 笑顔で魔石を見つめるその姿を見ると、さっきまで泣いていたのが嘘のようだ。

 さて、これでいろいろと誤魔化せただろ……


「それにしても、オジサンって結構強いんですね」


 女子高生がそんな事を言ってくる。

 お前もオジサン呼びかよ……最初に、名前教えたろーがよ!


「まあな、これくらい出来なきゃ仕事になんねーよ」


「でも、モンスターってすごく強いんですよね?銃で撃ってやっと倒せるぐらいです、それをナイフでなんてすごいです!」


 食い気味に喋ってくる女子高生に、俺の方が若干引いてしまう。

 モンスターは、何故か銃火器が効きにくい特性を持っていた。

 そのせいか、なんならレベルを上げた人間が直接殴った方が効果があったりする。


「そこそこ、レベルは上げてあるからな」


「幾つなんですか?」


「そこはお前、企業秘密ってやつだ」


「えー、教えてほしいですー!」


 しつこく食い下がってくるが、レベルなんておいそれと人に教えるもんじゃない。

 プライバシーってやつだ。


 俺は心の中で『ステータス』と念じる。

 目の前に四角い半透明のウインドウのような物が現れる。

 そこには、俺の能力が記されていた。

 

 年寄り達は、今の世界をまるでゲームのようだという。

 実際、モンスターやレベルアップなんてゲームの世界の話だろ?

 俺はステータスウインドウを見るたびに思う。


 この世界は、いつから壊れてしまったんだろう……

初投稿です。よろしくお願いします。

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