プロローグ
なろう初投稿です。
暗く狭い石造り塔の階段を泣きながら、何かから逃れるように駆け上がっていく人影。
わずかに差し込む淡い外明かりを辿って、ようやく突き当たった分厚い木の扉を押し開けると、目の高さに夜空が広がりーーそして地面は、あまりに遠かった。
身にまとったスカートのすそが下からの風に煽られて、うつむいた視界一杯に大きくひるがえる。一瞬、体が浮き上がるのが分かった。
――やがて虚空へと足を踏み外しかけたその姿に、とっさにわたしは、「ダメ!」と声をあげた――
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唐突に、不穏なイントロでごめんなさい。こんにちは、中の人です。
説明が足りない?ごもっともです。
いや、着ぐるみとかね、スーツアクターとか果汁がブシャアとかはしてないんですけどね、ただいま、絶賛冷や汗まみれ中ではあります。
だって、今のわたし、どう考えても昨日までの記憶にある自分じゃないんですもん。
目覚めたら、見知らぬ天井、って呟くのがお約束かと思うんですが、あれー、知ってるー、これ、ベッドの天蓋ってやつだよね!知らんけど!というのが正直なところ。どうやら、ふかふかのベッドに寝かされている様子。
それから、なんとなく天蓋に向けて手を伸ばして、ぎょっとした。そのあまりの細さと、肌の白さに。
目の前に両手をかざしてまじまじと確かめてみる。
ーー違いますね、どう見ても夏の外出に確率5割で日焼け止め忘れる、平均的成人日本人女子の体じゃないわ。ってか、細っ。
傷も手荒れもなく、爪先まで手入れの行き届いた様子に、これ、手タレになれるわ、とほれぼれする一方、いよいよ違和感が高じてきて、頭がくらくらしてきた。
ーーでも、間違いなく、これはわたしの体なのに、と頭の隅で囁く声がする。
ぐるぐると混乱する感覚に、どうにもくたびれはてたわたしは、とりあえず、眠ることにした。
だってせっかくベッドだし?
もし、これが夢の中なら、目覚めて昨日までの現実なら無問題。万が一、起きても状況が変わってなかったらーー
その時は、肚、くくったろーじゃん。なんて。(いや、夢だといいなー。夢であってください、ナムナム)
というわけで、オヤスミナサイ。ぐぅ。
ーーってしてから、目が覚めて。おそるおそる見渡せば。
メイドな感じの洋風美人と目があった。
「お目覚めですか、お嬢様」
Not日本語。なのに、すんなり理解してる、わが頭脳。わお。
で、確信。わたし、「お嬢様」の中の人みたいです。
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二度目の覚醒から、前言通り、冷や汗にまみれております、中の人です。って、それはいいか。
メイドさん(仮)は、わたしが何かを答えるよりも先に、部屋の外に声をかけて、誰かを呼んでいた。
それからベッドの側によってきて、わたしの額に手を当てたり、そこににじんでいた汗(冷や汗だね!)をタオルで拭ったりと、手際よくお世話をしてくれた。
見てると気持ちいいぐらい、てきぱきてきぱきしてるのに、触れてくる手はあくまで優しくて、彼女がどれだけ優秀な人材か、すぐにわかった。さては、この道のプロだね!
メイドさん(仮)に身をまかせながら、どうリアクションをしたものか、と現実逃避ぎみにぼーっとしてると、ふいに、わたしの口が勝手に喋りだした。
「ジョアナ……みずを」
かすれて、しかし澄んだ響きの声が耳に届く。え、と思った瞬間、この感覚を知っている、という直感が走った。ビビッと。
うーん、と少し悩んで、すぐに思い当たった。――RPGゲームのオートプレイだ。
アバターが、シナリオ通りに動くのを眺めるだけのあれだ。プレイヤーのコントロールの効かない状態。
――正直言うと、わたしは、それほどゲームをやりこんだことがない。友人がプレイしているのを横から眺めていることのほうが多かった。
一緒にやろうと誘われはするのだが、いつも途中で脱落してしまっていた。思い通りに反応しないコントローラーにイラついて。
(え、イラつかない?あれ。絶対、コントローラーバグってるんだよ!という訴えを誰もまともに聞いてくれなかったけどね!
友人曰く「コントローラー本体じゃなくて、スティックを動かすんだよ……」)
そんなわたしだが、オートプレイは好きだった。だって、楽だし。ゲーム全編、オートでいいのに、と言ったら、それは普通のアニメビデオだよね、と指摘されたけど。むむむ。
ともかくも、そんなことを考えている間も、あれよあれよと、わたしの体は”ジョアナ”さんの手を借りて、重ねた枕の上に上半身をよりかからせて、水を飲ませてもらっていた。
あー、冷たくて渇いた喉にしみわたるわー……って感覚はあるのか。
どうなってるの、これ。
手探りで試行錯誤中です。
見苦しい点はご容赦ください。