ヘッドフォン
「青年、恋は上手く行ってますかな?」
食堂で一人お昼を食べていると同期の皆川杏奈が話しかけてきた。皆川は、唯一せとなの高校時代を知っている人物でせとなとは友達ではないが、付かず離れずの関係で、色んな事を知っている。俺はせとなの事を皆川から教えてもらっていた。皆川に事情を話すと
「それは残念でした。暫くせとなには近づかない方が良いかもね」
「…」
「諦めたら?脈ナシだよ。せとなは雅也さん一筋だからね」
皆川は少し意地悪で俺にせとなの事を教えてはくれてはいるが、どこかで楽しんでいるような気がしていた。今日も落ち込んでいる俺を見つけてかからいに来たのだろう。
「諦めるとか、諦めないとかじゃないんだよ… せとなと一緒に居たいんだ。いつか他の誰かを好きになるかもしれなし、ずっとせとなが好きかもしれない、けど今は一緒にクレープ食べたり、話したり傍に居てせとなの事が好きって気持ち大事にしたい」
「ふーん まぁ、見た感じ嫌われてはいないと思うけど。近づいてくる男は徹底的に排除してたから、辻元は他の男とは違うのかもね」
「本当か!」
俺は皆川の言葉に嬉しくなり思わず立ち上がった。
「調子に乗らない。『かも』の話だから」
皆川は調子に乗りそうな俺に釘を刺し
「これでせとな誘いな。 ま、頑張れ」
そう言って皆川は去っていった。先日の事もあり、暫く俺はせとなに話しかけずにいた。久しぶりにせとなの旧校舎の階段で見つけたので 話しかける事にした。
「せとな」
「…話しかけて来ないから静かでよかったのに」
相変わらす話しかけられて迷惑そうにその場を離れようとしているせとなを引き留めて少しでも一緒に居たかった俺は、有り触れた質問をした。
「いつもヘッドフォンしてるけど、どんな音楽聞いてるの?」
「…」
少しの沈黙の後、せとなから思いもよらない答えが返ってくる。
「聞いてない 壊れてるから
「え?」
「私は、音楽聞くためにヘッドフォンしてるわけじゃじゃいから。雑音を排除してるだけ」
「『言葉』って残酷 その人にとって何気ない一言でも、言われた人は死にたくなるくらい傷つく事もある。でも、泣きたくなるくらい救われる事も…」
「せとなは雅也さんに救われたの?」
せとなは小さく頷いた。
「センパイは私の全てだった… センパイさえ居てくれたら幸せだった、あの人が現れるまで、あの人はあっと言う間にセンパイの心を奪っていった なのに… センパイが可哀想…」
俺はせとなの言った『センパイが可哀想』の意味が分からなかった。せとなは俺の知らない雅也さんの事を知っているようで、でも、今の俺にはその事を聞く勇気はなかった…