センパイ
「なんでついて来るんだよ」
せとなは鬱陶しそうに俺を睨んでいた。俺の家は、せとなの家と同じ方向で、同じ電車に乗る。せとなには何度も説明したのになぁっと俺は思いながら今日もせとなに説明する。
「いや、俺の家もこっちだし、この話、何度もしたよね?」
「家が、同じ方向でも一緒に帰る必要ないだろ」
そんな話をしていると、せとなが急に走りだす。
「え?ちょ、せとな」
急に走り出したせとなを追いかけて、俺は納得した。(あーそういう事か…) 俺はせとなの目の前の人物をみて納得した。せとなは、『大好きな人』を見つけて駆け寄ったのだ。笑うという感情がないのではないかと思っていた、せとなが笑っている。せとなには、好きな人がいた。高校時代に付き合っていた先輩雅也さんだ。せとなは雅也さんと別れた今でもずっと思い続けている
「センパイ!」
「せとな」
雅也さんはせとなに呼び止められ。振り返る。どうやら仕事帰りの様だ。少し疲れた顔をしていて、手にはスーパーで買い物してきたのか、マイバッグに食材らしき物が見えた。
「センパイ、お仕事の帰り?」
「ああ、今日は少し早く終わったから、夕飯でも作ろうと思って」
雅也さんはそう言うと、せとなにマイバッグを持ち上げて見せた。
「そっか…」
さっきまで笑顔だったせとなが悲しそうな顔になる。俺のリサーチによると、雅也さんは大学時代の同期っだった人と去年結婚したらしい。今日は愛妻に手料理を作ると言う事実を知り、せとなは、悲しくなってしまったようだ。
「珍しいね、せとなが誰かと一緒に居るなんて 彼氏?」
雅也さんはせとなの後を着いてきた俺をみて、少し嬉しそうに言った。
「こんな奴彼氏じゃない!」
せとなは凄まじい勢いで否定した。(こんな奴かぁ…)
「そっか」
「せとなもそろそろ彼氏作らないとな」
「…彼氏なんて要らない」
「センパイがいい!」
「俺は結婚してるかダメだよ」
「じゃあ、愛人にして!」
「せとな…」
雅也さんは困った顔をしている。まるで駄々をこねる子供を見るような目でせとなをみていた。雅也さんはせとなの頭に手を置くと髪の毛を手でクシャクシャにする。
「じゃあ、またな」
そう言うと雅也さんはその場から離れていった。雅也さんが見えなくなると、せとなはいつものように、ヘッドフォンを耳につけると、話しかけるなモードに入って歩きだした。
(遠回りして帰るか…)
今は、せとなに近づくのはやめておいたほうが良いと思った俺は遠回りして帰る事にした。