五話 自己紹介
話し合いの結果、表向きは通常通り(なのかな)仲が悪い振りをすることになった。
フロードはさておき、デニスとメリッサが厄介なのだ。
フローラという存在に崇拝、依存している中、それを切り離すとおそらく暴動を起こすだろうと予測できたから。
「(前途多難とはこのことか)」
この国での成人は、前世のときと変わらずニ十歳。
今は十六歳だから、四年の猶予がある。
「(チャンスは、見張りの目が緩んでいるこの学生生活しかない)」
メル家に四六時中見張られていた幼少期、だがこの学園は良くも悪くも中立を掲げている。
大っぴらの監視や過保護を阻止し、自立心を学ばせるために。
中には、お家同士が対立して、暗殺し合う騒動が過去にあったかららしいけど、昔の話だから信憑性は微妙。
「(この学校での三年間が終われば、彼は花嫁修業でお城に軟禁状態になる)」
それだけは阻止しなきゃ。
「ごきげんよう。フォールさん」
「ごきげんよう。メルさん」
「貴様、様を付けろ!! このお方は高貴な」
「デニス、うるさいわよ。フローラさんが何も言わないなら、それでいい。許しているということ」
「ふんっ、それぐらい分かっている! 庶民、寛大なフローラ様に感謝するんだな!!」
「(本当に分かってるのかな?)はい。わかりました」
メリッサ、デニスは平気なんだな。
『メリッサはデニスを男として見てないから』
男は駄目だけど、うるさい大型犬のオスは平気と同じ雰囲気といわれた。
大型犬。わかる。フローラにめっちゃ尻尾振ってる。
そういうとメリッサは猫っぽいんだよな。うん。
考えてるとジッと、フロードに見られた。
ごめん、なんでもない。
「三年間変わらないクラスだが、楽しくやろう。オレは担任のニルコス! 担当教科は魔法実技だ!」
明るく爽やかなのは担任のニルコスだ。
攻略対象ではない。名前は出てきたけど、モブに近かったはず。
「(でもカッコいいな。この学園イケメンしかいないのか?)」
ちらりとフロードを見ると、同じ顔してた。
あっ、あわてて戻してる。
元が乙女ゲームだからか、イケメン率が高い。
その辺のモブ生徒だって、極端に変な顔のやついないんだもん。
「(眩しくて、目がつぶれそうだな)」
別の意味でもやっていけるか不安になってきた。
ゲームでは三年間だけど、小説だと一年で全部終わってるんだよな。
そのあたりもどうなんだろう。
小説の内容も半端にしか覚えてないからなぁ。
「デニス・バルクだ。趣味はチェス」
あっ、自己紹介か。
しばらくすると、私の番になった。
「リーザ・フォールです。趣味は読書です。よろしくお願いします」
無難な自己紹介だろう。
「可憐だ」「かわいい」「美しさならメル様だが、フォール様も」
私は普通だと思うし、美しいのはフローラなのは認めるけど、本人いる前で話す必要はないだろう。
男子会議は後でやれ、後で。
せめてメモ回してやれ。
「(その前にそんな文化。ここにあるわけないか)」
「フォールさん、女子生徒代表サポートとしてお願いしたいことがあるの。よろしいかしら?」
「えっ、は、はい!!」
そんなこと考えていたら、フロードに声をかけられた。
「フローラさん! 私は!」
「メリッサさんはちがうでしょう? 一足先にクラブ見学に行かれてはいかがかしら?」
「フォールさんはサポートとはいえ、庶民でしょう? 粗相があっては」
「あなたは、私を信じてくれないの?」
「いえ!! そんなわけでは!」
「なら、待ってて」
背景に百合の花が見えた。
メリッサのあごを持ち上げ、にっこり微笑むフローラ。
中身が男。
「い、行きましょう! メルさん!!」
「では、また後でね」
「ふ、ふぁい」
「(顔が溶けてる!!)」
あれ?
うるさいはずのデニスが声をかけて来ない?
「デニスなら最初に黙らせた」
「他の人が聞くかもよ」
「それは失礼いたしました。ええ、本当にありがとうございます。
気を抜くと元の口調がでるのは不味いですわね」
「いえ、それよりどこにいくんですか?」
フロードは階段に向かった。
「前任の女子生徒代表に挨拶を」