四話 婚約破棄同盟
「そういえば、メルさんも転生してきたの?」
「フロードでいいよ。転生といえばそうなんだろうけどな」
「なにか違うの?」
「あー。記憶があるというより、記録を知ってるみたいな感じ。感情としての記憶がないっていうか。あれだ。他人の日記を読んでいるようなって感じ」
「私は少しだけだな。後はこの世界の多少の知識だけ」
「その、真面目な話、女子生徒代表のサポートも頼む。これでも男だからわからないことも多いだろうし」
そうだった。身体がいくら女性でも、中身は男性なんだ。齟齬くらいでる。
「任せて。っていいたいけど、自信ないな」
「おいおい、しっかりしてくれ」
「あはは……。それより、本当に私で良かったの?」
「協力者のことか?」
「そう」
いくらゲームの主人公とはいえ、私自身は一般庶民。幼馴染のデニスたちには言えなかったのだろうか?
「あー、まあなに言いたいかは分かる」
「どうしてっていうか、一応私たち敵同士みたいじゃない? 敵対するつもりはないけど」
「デニスは女のオレが好きなんだ。見てわからないほど鈍くはない。しかも結構こじれてる。幼馴染やれてんのが不思議だ」
「そ、そうなの? デニスってフローラ大好きで、リーザにはツンケンしてるから特にそんな意識はなかったような?」
「オレが聖女候補つーのも関係あるんだろうな」
聖女。
ある種この手の小説ではお約束のものなんだけど、記憶をたどっても聖女がどういう存在なのか思い出せない。
国の繁栄を約束するとか、そんなふわふわした感じしか思い出せない。
「お前自身も聖女候補になってる。フローラが処罰を受けるのは、聖女に害を与えると判断されたからだし」
「そうなんだ」
「聖女候補はオレとお前だけ。まあフォールだと思うけどな。オレ自身は男だし」
「そうなのかな?」
「聖女についてはオレもわからない部分が多いから。
でも、聖女って結構神聖視されるから、候補ってだけでもデニスからしたら妄信するのに十分なんだよな」
「妄信。たしかにそんな感じはあるね」
デニスは助けにならない。どころか邪魔してくる可能性が高いのか。男だと聖女っていわないもんね。
「メリッサは?」
「あいつもダメ。奥さん側の親戚だし。
この学園に来たのも本人にそんな気はないだろうが、オレの見張りなんだろうな」
「見張り!?」
フローラ大好きなメリッサが!?
「メリッサはオレが男だって知らない。あいつ自身男嫌いなとこがあるし、オレが男だってわかったらどんな行動をとるか」
「そういえばそうだった。執事のあの人と父親以外、嫌悪感が湧くんだって」
「それも、呪いのせいなんだけど」
「えっ?」
フロードは言うと、手を空中にかざした。
「お前にも見えるようにした」
「なにこれ?」
「鑑定魔法。呪いの代償として、こういった魔法が使えんだ。
兄貴が教えてくれたんだけどな」
「お兄さんが?」
「あの魔法の道具は本当に性別を変えるだけなのかってさ。
本来は難易度の高い鑑定魔法を身に着けることができるものだったってわけさ」
鑑定魔法。
モノや人、あらゆるものの真贋や可能性をみることができる魔法。
習得には四十年、最低でもかかるという。
「流石名家、いい趣味しているだろう?
奥さんがこれを知って使ったか、知らずに使ったかは不明だけど」
「鑑定魔法なんて使える人、限られてるもんね」
「そうそう」
「ますます私、要らないような」
「いやいる。重要重要」
本当かな?
「本当だよ。オレには、お前が必要なんだ」
「それ、ミカエルの台詞!!」
「うわあ! 被った!!」
なんだかおかしい。
私としても一人で破滅エンド回避できる自身はなかったから、願ったり叶ったりなんだけどね。