三話 悪役令嬢は×××だった!?
「(どうしよう! 髪留め私が壊したことに)」
「これで防音魔法を貼ったから、気兼ねなく話せるな」
あれ?
防音魔法?
「どの部屋も防音はそこそこしっかりしているが、念には念を入れたほうがいいよな」
「えっ、あ、あの?」
「髪留めも大丈夫。壊しても問題ないやつだし。オレたちの服とか乱闘の後に見えないから、髪留めが落ちて壊れただけにしか見えない」
「ち、ちがっ、そうじゃなくて!!」
顔も声もそうなんだけど、違う。
口調だってこんな感じの人じゃない。
「悪かったな。いやあ、久々に気にしなくていいのかって思ったら」
「は、はぁ」
「すまん」
「い、いえ」
フローラの顔と声で謝られた。
いや、どうなってるのこれ?
「自己紹介しとくか。そうしたら、フォールにも多少掴めるだろうし」
「自己紹介?」
「あぁ、フローラ・メル改め、フロード・メル。性別は、男。いや、信じたくないだろうけど」
「フロード・メル? 男?」
「うん、男。ついでに次男」
男、えっ、いやいや。
そんな話、小説で一切出てない。
お兄さんがいることは知ってたけど、えっ、男?
「おどろくのも無理ないか」
「おどろくなって方が無理でしょ!!」
「これにはわけがあるんだ」
男、私の推しが実は男だった。
自分でも何言っているか理解できない。
でも、わけがあるのか。
「ど、どんな理由が?」
「フォールも知ってるかもしれないが、メル家って歴史と伝統がある古い家なんだよ」
「知ってます」
「だからそれなりに狙われたりすんだよ。怨みとかも買いやすいし。後、オレと兄貴で母親違うからその関係もあるんだよね」
「それで、女性に?」
女性であれば、跡継ぎ争いを回避できるから?
そうだよね、母違いとはいえ兄弟で殺し合いとか悲しいもんね。
「いや、奥さんが女の子欲しいって言いだして、魔法の道具で女にされたんだよね」
「さっきまでの話はなんだった!!」
「しかも、その道具。呪いの道具だったみたいでさ、成人するまでに呪いを解かないとずっと女のままなんだよな」
「それと、私の話って関係あるの?」
「ある。オレさ、かわいいじゃん?」
「自分でいうな」
「だから、調子乗った奥さんが王様に掛け合って、オレを王子の婚約者にしちゃったんだよね。
しかも、事後報告。なにしてくれてんのって」
軽い口調で話してるけど、フローラはいやフロードの顔は固い。
こうでもしないと、私に八つ当たりしてしまうから、わざとこんな話し方をしているのか。
「遠方の修道院。そこに呪いを解くことができる僧侶がいると聞いた」
「そこに……いけないか」
「あぁ、そうだ」
フローラは、彼は王子の婚約者。しかも、ただの王子ではなく次期国王。
だましたメル家は相当な仕打ちを受けるだろう。
「クソ親父や奥さんは置いといて、兄貴や使用人はどうにかしたいんだ。めっちゃオレに気を使ってくれてるし」
「それをどうして私に?」
「お前が『ゲームの主人公』だからだよ」
「えっ?」
「お前に、王子を落としてほしいんだ」
「え、えええ!?」
王子を落とす!?
「例え無理でも、オレを婚約者として相応しくないと婚約破棄を仕向けてほしんだ」
「そんなこと」
「頼む! 本当は一人でやればいいんだろうが、一人じゃどうにもなりそうにないんだ!! 兄貴たちをひどい目に遭わせたくない!
王子に話して、それが他の奴にバレて不敬罪とかで処罰される未来も嫌なんだ!!」
そうか、この人も同じなんだ。
私と一緒に最悪なエンドを迎えたくないだけなんだ。
「いいよ」
「……えっ?」
「王子を落とすのは無理かもだけど、ようは婚約破棄させればいいんでしょう」
どっちにしろ、やらなきゃいけないんだ。
「一緒にいい結末を迎えよう!!」
一人じゃない。
私は、彼女、いや彼とハッピーエンドを迎えたい。
「これからよろしくね」
「あぁ、よろしくな!!」
私は、彼と足掻くことを決めた。