二話 お迎えとは?
入学式が終わり、それぞれの部屋に行く。
ありがたいことに、この学園は一般生徒でも個室が与えられているんだ。
広さはお察しくださいなんだけどね。
「うん、家の自室くらいの広さ」
このくらいなら文句はないかな。
原作リーザは文句言って、王子の隣の部屋使っていたっけ。
「どれだけわがままだったんだ」
荷物は少しの私服と、家族の写真ぐらい。
剣と魔法の世界だけど、少し現代要素も混じってるみたい。
「一番は学園に来ないなんだけどさ」
最悪なエンドを回避する一番の方法は、そもそも入学しないこと。
強制ではないのだ。
実際お金がなくて辞退や退学をしている生徒も多くいる。
リーザはその中でも特待生。
授業料免除などの待遇で迎えられている。
その分、雑用や今回の女子生徒代表のサポートもあるんだけどね。
思い出したの入学式開始三十分前だから、回避不可だったけど。
「お父さんとお母さん、喜んでくれていたな」
この学園はこの国有数の名門。
入れば成功を約束されたエリート養成学校。
『お前がどの道を選んでも、この学園の卒業生ならば必ずその道に行けるはずだ』
『冒険者でも、お嫁さんでも、なんでもいい。悪人以外ならあなたの好きに生きていいの。
リーザのやりたいこと、みつかるといいわね』
この言葉を思い出してしまうと、ね。
私はやりたいことや、夢なんてない。
両親の仲がいいから、いつか私にも素敵な人が。とは多少夢に見たけど。
前世でも、そんなことなかったな。
やりたいことも、夢も、私にはなかった。両親との仲も微妙だったし。
「(だからこんなあっさりしているのかな)」
そういえば、迎えっていつ来るんだろう。
というか、誰が?
「確実に女の子の方だよね」
取り巻き男女の女の子の方であるメリッサ。
ゲーム内でもフローラの友人で、一緒に罰を受ける子。
まあ、小説だと意中の人と結ばれてるんだけど。
「これはここで、うん。おしまい」
荷物整理は考えながらでもできるらしい。
それ以前に少なかったからというのもあるんだけどね。
「制服のままがいいよね」
フローラに会うのなら、制服が一番失礼がないだろう。
私服でもいいんだろうけど、迎えがあの二人じゃなくても難色を示されそう。
フローラが気にしなくても、こちらが気にする。
迎えが来るまで、最悪なエンドを回避する方法でも考えていよう。
「中身が私になったからには、寝取る展開はないだろうけど」
それでも、小説でもリーザに運命を感じたって、迫ってるんだもん。リーザもリーザでうなづくな。運命じゃないよ、身近にいないから気になっただけだよ!
フローラとヒーローがくっつくと後悔してたし。
「……恋愛は諦めよう」
リーザは元々は乙女ゲームの主人公。
その辺は変えようがないから、どうあがいても攻略対象と出会ってしまう。
その内の一人である恋愛脳王子アレス。あいつは論外。
さらに、もう一人デニス。ここが小説の世界だとするなら、こいつも論外。リーザに対して嫌悪しかないし、フローラが好き。勝ち目がない。
他にも攻略対象はいるんだけど、どれも論外。
「性格はさておき、中身がなあ」
というか、リーザ万歳! リーザのいうことは正しい! リーザが言えば、カラスも白い!! みたいなノリがダメなんだ。
これが、乙女ゲームの一人一人の別ルートなら面白かったのだろうけど。
「隠れ攻略対象のミカエルもなあ」
この隠れ攻略対象のミカエル。
実は隣の国の王子様。なだけではなく、天使の加護を持ち、魔力も単純な戦力も学園、いや世界一というチートの塊な男。
これと、絶世の美女フローラはさぞかしいい。
最初サイコパス電波かと思ってすいません。
「(まあミカエルはフローラに惚れるし、そもそも私は対象外だろうけどね)」
しばらくすると、コンコンと控えめなノックの音が響いた。
どうやら迎えが来たらしい。
「(とりあえず、失礼がないようにしなければ)い、今行きます!!」
ドアスコープを覗いてるひまなんてない。
椅子から降りてドアノブを回す。
「随分と不用心なのね、あなた」
そこにいたのは、フローラだった。
「えっ、ええええええーーーー!!!??」
「声が大きいわよ。はしたない」
「す、すいません」
「部屋に入れてちょうだい」
「は、はいっ! 喜んで!!」
どうしよう、迎えってフローラ自身だったの!?
「本当なら私の部屋で話すべきなんでしょうけど、少々問題がありましてね。
あなたの部屋でお話することにしましたの」
「すいません、何のお構いもできなくて」
「いいえ、結構よ」
にっこりと笑うフローラさんはかわいい。
かわいいは正義。
「ところで話ってなんですか?」
やっぱりサポートとかの話?
「あなた、『悪役令嬢』って単語、聞き覚えがあるかしら?」
「えっ……」
悪役令嬢。
悪役はあくまで物語上での役。現実の人間に使う呼称ではない。
悪役レスラーはいても、悪役社員とかはいない。
「どうやら、聞き覚えがあるようね」
「な、なんで?」
「とぼけないで、あなたもそう。なんでしょう?」
そうして、フローラは髪留めを取って床にたたきつけた。
これは、まさか、私が暴力を振るったとかいうアレ!?
「(最短最悪エンドとか、聞いてない!!)」