一話 こんなときに思い出す
大変なことを思い出してしまった。
私の名前は、リーザ・フォール。一般庶民なんだけど、幸運なことに王都にある全寮制の学園『ミアレス学園』に通うことになってしまった。
「(本来なら、貴族やお金持ちの商家の子どもじゃなきゃ入れない学校)ま、まさか」
ここって、私が愛読していた『悪役令嬢の華麗なる没落回避~婚約(笑)破棄されてから本気出す~』の世界じゃん!
学園の名前、制服のデザイン。間違いない!
しかも、リーザはゲームのヒロインで、この小説では処罰の対象。
このまま進むと、リーザは王子を寝取る。
無理、むっちゃ無理。
お互い政略結婚とはいえ、婚約者だよ。
その婚約者がいるのに、裏切るとかない。マジでない。
あの時ほど、フローラを励ましたかった。
あんな男よりいい男なんているよ!!
いい男はすぐ現れたけどね。
「これからどうしよう」
フローラのことは好きだから、敵対したくはない。
けど、どうにもあの恋愛脳王子を好きになれないんだよね。
なにより、断罪されたくない。
「本当、どうすればいいんだろう」
リーザのお父さんとお母さんは優しい人たちだった。
ミアレス学園に通うってなったとき、めっちゃ喜んでくれた。
リーザのことはあんまり好きじゃなかったから、わがままを許した甘やかしな両親だと思っていた節もある。
実際は違ったけど。
「入学式の後が怖い」
リーザは入学式後、一般庶生徒の女子代表として二人に会うことになる。
この学園に生徒会という組織はない。
代わりに、男子生徒代表として恋愛脳で時期国王の王子アレス。女子生徒代表としてフローラが学園を牛耳っている。
それが原因で騒動が起こるんだけどね。
入学式は生徒がすし詰め状態。になっているのは、一般の私らだけ、貴族などは向こうの椅子でゆったりしている。
こればっかりはおかしい。
まあ、前の世界での感覚なのかもしれないけど。
「新入生諸君、初めましてアレス・カドエラだ」
「初めまして、フローラ・メル。と申します」
キターー!!
小説の挿絵じゃない、ガチの二人だ。
恋愛脳とはいえ、カッコいいな。絵本に出てくる王子様って感じ。リーザが惚れるだけはある。
フローラはまさに美人。女神が舞い降りたのかと思った。凛とした雰囲気だけど、どこか可愛らしい印象もある。
まあ、その女神にこれから嫌われるんだけどね!
あー、しんどい。
「そこ、そこの!!」
「えっ、わ、私ですか!! はい!!?」
あれ、何故?
入学式はまだ終わってないぞ?
「お前、メル様のお話を聞いてなかったの!」
「ごめんなさい。考え事をしていて……」
「いい度胸ね」
謎の男女に話しかけられたと思ったら、たしかフローラの幼馴染兼取り巻きの幼馴染だ。本来片方の男は攻略対象なんだけど、リーザが言うはずだった台詞を幼少期に言ってそこからフローララブに変っている。
うわぁ、原作通りの展開?
あれ、呼び出しは入学式の後じゃなかった?
「お二人ともお止めなさい。すいません」
「い、いえ」
フローラが目の前に!? しかも、二人の態度を諫めて謝ってる!?
そうか、最初はリーザに処刑されないかビクビクしてたもんね。
ご機嫌とりに来るよね。
「こちらこそ、お話を。すいません」
「謝罪で済む話か」
「デニス、黙りなさい。ここからは私が話します。
リーザ・フォールさん。
あなたを一般女子生徒代表として、私のサポートについていただきたいの」
「えっ?」
これは原作でもあった。
ゲームだと、恋愛脳王子が別に指定するのを先手を取ってサポートとして任命する。
まぁ、結局王子に気に入られて途中交代するんだけど。
「そうね。何のことかさっぱり分からないわよね。
後で私の部屋に来て頂戴。迎えをよこすわ。
説明はそのときにしましょう」
「は、はい」
まさかのフローラの部屋フラグ?
遠い記憶とはいえ、そんなシーンなかったような気がするんだけどなぁ?
「待ってますわ」
「はい!!」
まあいいか!
今は私がリーザなんだし。
とりあえず、最悪なエンドを回避するぞーー!!
あわよくば、友だちになれますように!!
「(でも、迎えって誰なんだろう?)」