3話
光が晴れ、目を開けるとそこは狭い路地だった。
とりあえずこの路地から抜け出すために光の射す方へと進む。
そして大通りのような場所に出ると、もう夕方になるところだということが分かった。
どこを見ても見たことの無いようなものばかりが目に入ってくる。
不安よりも今は高揚感が勝っていた。
そして俺は街の中を歩き出した。
歩き出してすぐ商店街を見つけた。
八百屋だけでも見たことの無い野菜だらけで三十分位は見ていてられそうだ。
そして前方にある屋台から漂う美味しそうな香りを嗅ぎ、そこで初めてお腹がすいていることに気づいた。
屋台を見てみると野菜と肉の串焼きが売っていた。
「美味そうだな……」
ついよだれが出そうになる。
腹が減ってはなんとやら、俺は買おうと財布を取りだすとそこには……。
「嘘だろ……?」
子供の小遣いくらいの金しか入っていなかった。
思い返してみると俺は普段からあまり金を持ち歩かない人だった。
女神は俺が死ぬ前の手持ち金しか変えなかったのだろう。
にしてもどうしようか……。
宿に泊まれるかどうかすら怪しい。
とりあえず串焼きを買うのはやめて腹持ちのいいものと水を買おう。
そして宿には泊まらず外で一晩過ごそう。
不幸中の幸いかここは元いた世界よりも暖かい。
この先どう生きていこうか不安でいっぱいになった。
だがここに来る前に困っていた目標は決めることが出来た。
目標:生活を安定させる
俺は腹持ちのいいものと水を求めて重い足取りで進むのだった。
よく考えたが、腹持ちのいいものが分からなかったので主食を求めてパン屋に入った。
「んーっと……安くて腹持ちのいいものは……」
シンプルなパンから肉や野菜を挟んだもの、そしてフルーツなどを挟んだお菓子のようなパンまで売っている。
だが夕方でもうすぐ店を閉めるのもあってか、売り切れになっているものも幾つかある。
安くてお腹に溜まって尚且つ腹持ちのいいもの…………やっぱり素直に聞こうかな……。
「あのー、すみません。安くてお腹に溜まりやすいパンってありますか?」
そう店番のおばあさんに聞くと、
「そうねぇ……そうなるとお肉を挟んだやつかねぇ、このチーズと肉のやつとか野菜と肉のやつとか……」
ふむ、どちらもすごく美味しそうだ。
「んーじゃあチーズの方をいただきます」
「はいよ、おまけでこのパンも付けとくね」
そう言うとシンプルな小さいパンを付けてくれた。
「あ、あと飲み水ってどこで売ってますか?」
「普通の水なら基本的には売ってないだろうねぇ……この辺りは水が豊富だし魔法で出せる人もいるからねぇ……良かったら水くらいはあげるけどいるかい?」
「ぜひお願いします!」
俺はパンをよくかみ締めて食べた後、もう一度財布の中を確認する。
元々あった金額の半額以下しか残っていない。
……これは明日中に金を稼ぐ手段を見つけないとな。
もうすっかり日は落ちている。
俺は夜の街を歩き始めた。
恐らく街の人々が寝静まり、外に出歩く人も全くと言っていいほどいなかった。
そんな中、俺が街を歩いていると微かに声が聞こえてきた。
「……い…………にげ………………まれ!」
男の怒気を含んだ声だ。
家に近づいて声を聞いてみても、かなり大きな家で耳の良い俺ですらしっかりとは聞こえなかった。
ただ、男の声だけではなく女の子の声も聞こえて来た。それも焦っているような声だ。
これは推測でしかないが、もしかしたら女の子が男に家に入られているのではないだろうか。
そう考えるといてもたってもいれなくなってきた。
……家に入って女の子を助けよう!
だが助けるにしても勝手に家に入るのはまずい。一応顔だけ隠そう。
俺は上着を脱ぎ、口元を隠した。
そして割れている窓があったのでそこから家に入った。
声のする方へ走っていき、女の子と男を探した。
廊下を走り、階段をのぼりどんどんと進む。
そして進むにつれてどんどん声がはっきりと聞こえてきた。
「クソッ! 待て!」
「だから待てって言って待つ奴はいないって! ……ってうわっ!」
「っはぁ……はぁ……もう逃げれないぞ……」
「っ……!」
俺は声の主がいるだろう部屋の扉を開けた。
「大丈夫か!」
「なんだおま……」
「「なんで裸!?」」
2人は声を合わせて驚いた。
「そんなことはどうでもいい」
「どうでも良くはないだろ……」
「いや、たしかにどうでも良くはなかったな、こうしてお前の隙になったんだから……なっ!」
隙だらけの男の腹に拳を放つ。
そして腕で男の首を絞めた。
「ク……ソ……ふざけん……な…………」
そのまま男は意識を失った。
「大丈夫だったか!」
俺は女の子の方へ近づく。
「ちょ、ちょっとそのまま来ないでよ!」
「とりあえずこの男をどうしようか」
警備員にでも突き出すか?
その時女の子が男に近づいていき小さな玉を口の中に入れた。
その後部屋の引き出しを開けて何かを探している。
目当てのものを見つけたのか赤色の指輪を引き出しから取りだし、腰に付けた鞄に入れた。
そして男と俺を交互に見て、
「ごめん……ちょっとこの人運ぶの手伝って?」
「いいがどこまでだ?」
「隣の部屋」
俺はお姫様抱っこの要領で持った。
「1人で持てるんだ、じゃあこっちついてきて」
素直について行くとそこは寝室だった。あまりに女の子らしいものが無い部屋だ。これだけ広い家なのだから客用の部屋かもしれない。
「そこのベットにおろして」
勝手に入ってきた男ですら寝かせるのか……この世界ではそうなのか?
ベットにおろすと女の子は窓を開け下を見る。
「とりあえずここから離れたとこに行こう」
女の子はそう言い、2階なのにも関わらず窓から飛び降りた。
この世界の常識はわからんなぁ……。
俺も女の子に続いて窓から飛び降りた。