2話
俺は永い眠りから覚めたかのようにゆっくりと目を開ける。
目に入ってきたのは知らない天井。重い体を起こし辺りを見渡すと神殿のような場所にいた。
俺の知る限りこんな神々しい神殿は存在しなかったはず……。
「……どうやらまだ夢の中らしい、寝よう……」
「夢ではありません、寝ようとしないでください」
ぼんやりとした光に包まれて突如として目の前に現れた女性がいた。
「ラオさん……あなたは死んだのです」
優しく、覚えてますかと言い、女性は首を傾げる。
死……か……。
「死んでるわけないじゃないか、何を言ってるんだ」
「え?」
「自分の身体はあるしどこも痛くない、しかも血すらでてないじゃないか」
「やっぱり覚えてませんか……」
女性は人差し指を立てて説明し始めた。
「一から説明します、まずあなたは親友のサリムさんと立ち上げたギルドのメンバーと一緒に無免許で魔道具を使う貴族の家を改めて調べるために占拠しようとしました」
……思い返せば確かにそんなことがあったような……。
「そこであなたは胸あたりを斬られてしまい、そのあとはゆっくりと息を引き取りました」
胸を斬られ……?
思い出した……はっきりと思い出した……。
俺は胸の斬られた辺りをゆっくりと触り、傷がないこと確認した。
そして俺は震える声で頼んだ。
「すまん……少し時間をくれ……」
「もう、大丈夫ですか?」
あれから数分後だいぶ落ち着いてきた。
俺が頷くと、目の前の女性はにっこりと微笑んだ。
「そうですか、では話を進めますね」
「あ、その前にお前は誰なんだ?」
「私は女神……女神ラシエルです」
……ん?今この人女神って……。
「ぇ……いや……はい……そ、そうですか」
「……あの、もしかして引いてます?」
「……いや、そんなことは……ない……ですよ?」
「ちょ、ちょっと止めてください! 私が痛いヤツみたいになってるじゃないですか!」
「いや、だって女神って……ふっ、女神って……」
「すみません本気で傷つきそうなんでやめてください……!」
とりあえず話を進めることにした。
「今あなたが進める道は二つあります」
2本指を立て一つずつ折り曲げながら説明する。
「一つ目が今のあなたを消滅させ、新しい命としてどこかの世界で生まれさせます」
「二つ目が今のあなたのまま、他の世界へと飛ばします」
どちらがいいですかと女神は首を傾げた。
「二つ目はつまり……異世界に行くと……?」
女神は頷く。
異世界……か、まるでおとぎ話の勇者みたいだ。
「ついでに補足しておくと二つ目の選択肢はサリムさんが作った選択肢ですよ」
サリムが……?
「彼が首にかけているアクセサリー、あれは我々神々に願いを届けるものなのですよ。彼は死んだあなたに対し"ラオにもっと楽しい日々を送らせてやって欲しい"と願ってきました」
「……じゃあ異世界に行けば楽しい日々が送れるのか?」
「分かりません、ですが少なくとも可能性があるのは二つ目の選択肢ですよ」
少しだけ考え込む。
「……俺、異世界に行くよ。あいつがせっかく用意してくれた道なんだ」
そうですかと女神が微笑む。
そう言えばさっきから気になってたことを聞く。
「そう言えば、おとぎ話の勇者みたいに世界の災厄を止めろ……みたいな使命みたいなのってあるのか?」
「いえ、ありませんよ?」
「……全く?」
「はい、全く」
「……俺、異世界で何すればいいんだ」
女神は困った顔をした。
「そんな事言われても知りませんよ……逆に前の世界でも使命を持って生まれたわけじゃないでしょう? どうやって生きてきたんですか」
そう言われればそうなんだが……。
「あ、言葉とかって通じるよな?」
「それに関しては大丈夫です、こちらで調節するので」
「あ、あと金って今持ってるのじゃ使えないよな」
「では異世界のお金に交換しときますよ」
「他に聞きたいことはありませんか?」
「うーむ……絶対にやってはいけない事ってある?」
「場所によってルールは様々ですからね……まぁ、前の世界とほぼ一緒だと思っていいでしょう」
俺がしばらく黙っていると、もうありませんかと女神が聞いてくる。
俺は他の質問を少しの間考えた……が、特に思いつくこともなかった。
「では私から最後にひとつ、ラオさん、あなたは異世界の人間ではありません。自分が異物であることを忘れずに行動してください」
自分の周りに光の玉が回り始める。
「それでは、良い生活を送ってくださいね」
俺は強烈な光に包まれた。
今日中に5話までupします