其の一
あの事件から1ヶ月経ち、再び怪異が活発化していた―
ここ雨降りしきる上野で…
―2004年9月24日(金)深夜―
―台東区上野、上野恩賜公園内、不忍池桜並木通り―
その日は雨で、台風が近付いている事もあってか、蒸し暑かった。
軽く霧も出ている中で、深夜に公園を出歩こうという輩は全くいない。
蓮の葉の上に雨がぱたぱたと落ちる音がする以外、都会の喧噪は薄い。
しかもこの霧で、視界も悪い。
一種の隔離された別世界の様に感じる。
勿論、そんな中に紛れ込んでしまう人間もいる。
女「あー…ヤッバイ…近道なんてするんじゃなかったー…」
傘を差し、茶髪にキャミソール、デニムのラフな格好で、CECIL McBEEのカートを引いている。
急いでいるのか、ヒールの音が誰もいない不忍池にカツカツと響いている。
女「マージ最悪…こういう時に限って送迎順番かかるとか…明日大学だっつの」
ぶちぶち文句を垂れ流しつつ歩みを進めるが、突如として蓮池の中から、黒い醜悪な見た目をした長髪毛むくじゃらの3mはありそうな巨漢が飛び出してきた。
女「?!!え!?」
目前に現れた醜悪な巨人に驚き、尻餅を着いて後退る。
手放した傘が、ボサッという音と共に地面に落ちる。
女「あ… あ…!」
訳も解らず恐れ戦き、後退る。
人では有り得ないほどの生え方をした牙と鋭利な爪。
その両方で女に襲い掛かる。
が、その左横っ面に、突如として拳がめり込んだ。
吹き飛んだ大男の前に対峙するは―
黒尽くめの背中に何かを背負った男…




