後編 其の十三
トシの前に佇む仲間だった男は、トシへと敵意を向ける―
その行為に、トシは悩む―
十三
―8月8日(月) 夜11時20分過ぎ―
―千代田区 プルス・アウルトラ本部 メインホール―
目前の男は自分に落胆した様な、侮蔑の眼を向けている。
眼は紅い。
何故だ?
何故仲間にそんな事が出来る?
その疑問が、そんな思いが言葉となって表れる。
トシ「どうしてこんな…!」
黒い男「…ならオレの前に現れなきゃ良い―」
銃の弾倉をサイドバッグから取り出し、取り替えながら興味無さげに答える。
トシ「そっ―!」
その当たり前という排他的な対応に言葉を失う。
アイツと同じ…解り合えないハズはない。
諦めてはダメだ。
自分が諦めてしまっては、彼を助けられない―
彼を助けないと―
それが、今の自分の運命なのだから―
首を振りながら、相対する男に向き直る。
トシ「ダメだ! そんな事するな! お前は間違ってる! この協会が間違っているのは解った! もういいんだ! お前がそんなに汚れ役を買って出なくても! 俺達が証言する! だから」
そこまで喋ると、激しい衝撃音と共に左足大腿に衝撃が走る。
トシ「―え?」
一瞬何が起きたか解らず、激しい痛みが大腿を襲う。
それと共に立っていられず、床に膝を着き、痛みの根源を反射的に掴む。
トシ「!うっ…! ぐっ…うぅぅーッ!!」
黒い男「ウルセぇ」
その様を"興味無さげ"と言った感じで言い放つ。
痛みの正体…それは目前の仲間の右手に持つ"陽"から放たれた弾丸が、自分の大腿に与えた衝撃の様だった。
黒い男「タラタラタラタラ…何言ってんだ? ウルセんだよ… 間違ってる…? 余計なお世話だ 間違ってるのはオマエ等の協会だろ あとオレは、別に憎まれ役をやってんじゃねえ…望んでやってんだ オマエの理想を押し付けんな」
トシ「あ…!」
その当たり前といった否定に、更に言葉を失ってしまう。
黒い男「…そもそも…オマエも"トシ"じゃないだろ?」
吐き捨てる様に言ったその言葉に心臓が跳ね上がる。
トシ「そ…! それ…は…!」
―知られたくない相手に知られた―
黒い男「知らないとでも思ってたか? オレを舐めてるのか? オマエが思ってるオレはそんな事をしないってか?」
蔑む様な眼で吐き捨てる。
黒い男「ハッ バカか あれからどれだけ時間が経ったと思ってるんだ それくらい調べられる」
そんな―
トシ「そんな…!」
汗が止まらない。
彼との思い出は特別だ。
それを彼と同じ彼がそれをしちゃダメだ。
そうしたら彼とは違ってしまう。
それはダメなんだ。
それだけは。
ダメなんだ。
変えないでくれ。
変わらないでくれ。
ダメなんだ。
そうしたら自分は―
彼の代わりとして彼を視ている自分は―
それを知られたら―
どうしたら―
黒い男「本名はし」
よせ―
言い掛けたその時だった。
スズが独鈷鈴を手に、黒い男に飛び掛かったのは。
突如として黒い男へと襲い掛かるスズ―
彼女の真意は…




