後編 其の一
遡ること半月前―
その夏は暑かった…
一
―2004年7月20日(火) 夜―
―骨董屋DPP地下―
黒い男「…」
休憩室にて無言でPCを弄っている。
いつもの格好のまま。
上部の入り口が開いたか、足音と共に声がする。
クリフ「ただいまです…」
言いながらいつもの部屋―休憩室に入ると、眼前の椅子に腰掛け、項垂れる。
クリフ「今日も依頼の後に…協会の人に襲われました」
顔を上げながら報告する。
黒い男「…」
カタカタとキーボードの音だけが部屋に響く。
クリフ「…あの、一応依頼は完了しましたが…その…協会の邪魔が凄くて…今日は依頼主に被害が出るところでした…」
何も答えないその様に困窮し、キョドってしまう。
黒い男「ッ!!」
突然デスクを思いきり叩き、その大きな音が室内に響いた。
クリフ「わッ…!」
思わず驚いて身体が反応する。
黒い男「…クソ共が…!」
低く唸る様に罵倒する。
4月の秋川渓谷での事件以来、プルス・アウルトラは、異端者として黒い男を追い続けているのである。
それはもう異常な程に。
協会は一般の依頼そっちのけで追っており、毎夜襲われていた。
その皺寄せが自分達にダイレクトに来ており、怪異の対処や討伐が、エージェントAを介して増えていた。
協会の刺客を対処しつつ怪異を狩る…その二重苦で、苛立ちは限界を超えていた。
そもそも、怪異から人を護る為の組織で在るはずの協会が機能していない。
剰え、只一人の人間を追うだけの組織など、何の意味が在ろうか?
それで困っている人間が増え、常識では助けられない者達が増えている等と、今の協会は常軌を逸しているとしか思えない。
その苛立ちに、我慢の限界を迎えた。
黒い男「あのクソ野郎共ッッ!」
何度もデスクを叩く。
黒い男「邪魔ッ! ばっかッ! しやがってぇッ!!」
何度も何度も。
衣服に符が張ったままの状態だったので、デスクが拉げている。
クリフ「ちょ…!」
その余りの怒りに、引いてしまう。
執拗なまでの…まるで悪魔の様な。
その怒りを止めるかの如く、携帯の着信音が鳴る。
黒い男「!…」
無言で携帯を取り、通話を押すと、拉げたデスクに置く。
黒い男「もしもし」
冷静な声『私だ 早速で申し訳ないが、依頼だ』
黒い男「…了解」
クリフ「…」
先程までの怒りが無いかのように一瞬で冷静に答えるその様は、側で見るクリフに底知れぬ畏怖の念を抱かせた。
しかも、冷静さを見せていても、奥底の怒りは無くなっていない。
それに気付いていたクリフは、何も言えず口を噤んだ。
エージェントA『今回の依頼内容は、協会…退魔機関プルス・アウルトラの壊滅だ』
クリフ「!…」
黒い男の口元が笑みで歪んだ様に視える。
黒い男「…了解…!」
その返答は、仄暗い"ナニカ"を感じさせた。
一週間後―
プルスアウルトラ本部―
ドミニクは苛ついていた…




