中編 其の三十 ―クリストファー・ドナヒュー―
クリストファーは膝を付いた―
信仰と共に―
三十
―4月27日(火)夜1時―
―あきる野市 秋川渓谷 嘉手名別邸地下一階 食肉加工室異界―
目前で行われる"行為"は、十五歳のクリストファーの知識を超えた経験となって、本人を打ちのめした。
知ってはいた。
だが、経験は違った。
知識と経験の差…勿論人によってはそれが大丈夫な…受け入れられる人間もいるのだろう。
だが、クリストファーには無理だった。
天才と呼ばれようとも、十五歳の少年、ヘイデン・クリストファー・ドナヒューには、この経験は重過ぎたのだ。
知識は痛みを伴わない。
経験は痛みを伴う。
クリストファーは、目前で行われるその痛みに膝を着いた。
身近な人間を失うという―
極、当然な―
戦うという所業を行う以上、無くす事の出来ない業を―
今、知ってしまったのだ。
十五歳のクリストファーは思考する―
―何故、こうなったのか―?
―彼女を救えなかったから―
―どうして、救えなかったのか―?
―気付けなかったから―
―では、気付けたか―?
―気付けない―そもそも自分が気付ける範疇では無かった―
―だって、理事長が罪人だなんて―予想出来る筈が無い…!
そこで結論が出ていた。
そもそもクリストファーの中には、疑念が足りないのだということを、本人が気付いていない…
それは、クリストファーにとっては、有り得ない行いだったから。
人を疑うという事は、人を信じないという事。
人を信じないという事は、信仰にも関わる。
信仰が失われれば、悪魔に対峙出来ない―
そして、神の子である人間は罪も犯すが解り合えるのだと―
―人を信じろと。
皆から教えられ、優しい自分の周りの人達からも言われ―
そして、それを本人も正しいと感じていた―
―だが、そうではない。
違うのだと知ってしまった。
その仕組みに、クリストファーの立ち向かうべき信念―善悪の価値観は砕かれたのだ。
砕かれた信仰―
折られた信念―
十五歳の聖職者は―…




