其の二 ―乱れ―
その日は雨だった。
長引いた梅雨のお陰か、その日は昼から雨であり、降ったりやんだりを繰り返している。
それは、これから起きる物事への布石か…
―7月末、夕刻―
―骨董屋DPP―
その日は、梅雨明けが遅れているとはいえ、昼から雨だった。
そんな中、急遽店に呼び出され、集められた自分達には全く理由が解っていなかった。
青い符術師も、金鈴の巫女も、何故か呼び出された坂本竜尾鬼も。
だが、そこに店主の姿は無かった。
それに訝しみつつも口にする。
トシ「なぁ…何か聞いているか? 竜尾鬼?」
竜尾鬼「解りません 僕も急に連絡を貰ったので」
トシ「! お前が…?」
それには驚きを隠せなかった。
帝都を守護する鬼の一族であり、鬼一法眼を祖とし、東京守護にしか興味を示さないこの男が?
スズ「ねぇ…それって、誰から…?」
そう、大事な事が抜けていた。
誰がこの収集を掛けたのか。
竜尾鬼「もう来てますよ」
その言葉と共に、傘も差さずに雨でズブ濡れになった黒い男が、扉を乱暴に開け、ドカドカと入ってくる。
そのまま店奥のコンソールに手を掛け、何かを調べ始める。
と、同時に、
黒い男「彼女が攫われた… 助けてくれ」
トシ「彼女…?」
突然の事で解らず疑問を口にする。
黒い男「先月の大罪の時のだよ…!」
理解の悪さに苛つきながらも答える。
スズ「それって、あの事件に関わってたっていう、飛羽惰さん…?」
黒い男「ッそうだよ…! 愛己さんだ…!」
彼女を加害者みたいに言う…その言い様に更に苛立ち、"鈴"を睨みながら言う。
スズ「…ごめんなさい」
それを察したのか、目を逸らしながら申し訳なさそうに謝る。
黒い男「!ッ… なんだよ…!」
その仕草に、更に自分が悪い様な、そんな感覚になり、吐き捨てる様に言ってコンソールに視線を戻す。
トシ「おいッ! そんな言い方はないだろうッ!」
それに自身の真面目さが出てしまい、我慢出来ずに言ってしまう。
黒い男「助けてくれるのかくれないのか!? ドッチなんだ!? くれないならオレ独りだけでもやる!」
コンソールを叩き付けながら上体を起こし、声を荒げる。
竜尾鬼「僕は行きますよ」
竜尾鬼がその状況を意にも介さず即答する。
迷いも淀みも無く。
黒い男「…ありがとう」
そう言って、まだ返答の無い二人に視線を向ける。
トシ「俺は…彼女は…信じられない…」
黒い男「ッ…!」
その曖昧な"歳"の態度に舌打ちをしてしまう。
スズ「私は… 手伝うよ…」
少し間のあった後、"鈴"がそう口にする。
煮え切らないその態度に苛立ちが増す。
黒い男「もう、いい…!」
作業が終わったのかコンソール前から起き上がり、半端な態度に冷たく言い放ちつつ通り過ぎる。
スズ「…」
その言葉で俯き、黙ってしまう。
トシ「おい!俺だって手伝う! 仲間なんだからそんな言い方はないだろう?!」
そう言って、通り過ぎようとした黒い男の肩を掴む。
その言葉を聴いた途端、溜まってた感情が出てしまう。
―"仲間"―
黒い男「ふざけるなッ!! 何が仲間なんだ?! お前達から誘ってきたのに! 肝心な事は話してくれない!教えてくれない! なんなんだよ?!」
腕を払いのけながら捲し立てる。
これが"ものの弾み"だった。
そして核心を突く。
黒い男「お前等二人、誰を視てるんだよ?! いつもいつも! オレを視ていない! そんなヤツ等に仲間だとか…! ムリだろ!!」
トシ「そ…!」
その通りだった。
"そんな事は無い!"
とは言えなかった。
払いのけられた手を、ゆっくりと下ろし、下を向く。
黒い男「ッ…! 行こう竜尾鬼…! Sさんは既に先に向かってくれている この後どうするか教えてくれるか?」
竜尾鬼「解りました 空路か海路かは、向かいながら話し合いましょう」
黒い男「解った」
そう言って、一瞬哀しみの表情で二人を一瞥すると、出口へ向かい、振り返らず歩み出した。
黒い男「行こう― "三宅島"へ―」
その2時間前―
黒い男は、愛己と曇天の新宿御苑にいた…