中編 其の十二
深夜―
秋川渓谷に到着した二人は…
十二
―4月26日(月)夜11時―
―東京都あきる野市 秋川渓谷 BBQ場駐車場―
秋川渓谷にある駐車場に着くと、既に時間は夜11時を過ぎていた。
深夜を過ぎた駐車場は、日中のBBQ客で賑わう様を想像出来ないほど静かだった。
クリフ「あの…ここまで来て…この後はどこへ向かうんです?」
装備を整えながらクリフが聞いてくる。
黒い男「…オレ達はこれから、川を経由して橋を越え、彼処の山側にある畑を越えた先に在る別荘に向かう」
そう言って顎で行く先を示す。
クリフ「別荘…? 誰のですか?」
全く思いもしない行き先に、頭の中が疑問だらけになった顔をして聞く。
黒い男「所有者は嘉手名貴代子」
そう言いながら銃の弾が薬室内に収まっているかをチェックする。
クリフ「かでな…? …どこかで聞いた様な…?」
その覚えの無い名前に首を傾げながらも、そのクリフの様子を無視して話を続ける。
黒い男「ソイツの別荘に今から向かう」
そう言って、用意が終わったのか、真っ暗な河原に向かって歩き出す。
クリフ「あ! ちょっ…ちょっと待って下さい!」
―4月26日(月)夜11時15分―
―東京都あきる野市 秋川渓谷 秋川河原―
駐車場から河原へと向かう。
クリフ「待って下さい! それって、居なくなった美穂さんとどう関係が…!」
そこまで喋ったところで黒い男が足を止め、左手を横に伸ばしてクリフを静止させる。
クリフ「!」
クリフも何かに気付いたのか、黙って身構える。
その先には誰かがいる様子だった。
生憎の曇り空で、しかもこの灯りの少なさでは夜目に慣れていても視認は難しい。
黒い男「…お前か…竜尾鬼」
そう言うと、目前の影が前に歩いてくる。
竜尾鬼「ええ…お久し振りです」
短髪で大きな玉を付けた首飾りと青いシャツに黒いスラックスのさっぱりした印象の青年は、刀を片手にそう答えた。
クリフ「あの…この方は…?」
クリフがおずおずと訪ねる様に聞いてくるが、
黒い男「半年振りか…? 今日は何の用だ?」
全く無視して会話を続ける。
竜尾鬼「そうですね…半年振りだ…あなたも大分印象が変わってしまった…」
その言葉には哀しみが籠もっていた。
クリフ「え…?」
その言葉の意味が解らず、クリフの頭には???となっている。
黒い男「…そうなる事が在った…」
キッパリと断言したその言葉には、迷いは無く、決意が在った。
竜尾鬼「そうですね… 問いに答えると…今日はあなたを…止めに来ました…!」
そう言いながら、刀を抜いて刃を向ける。
クリフ「え!??」
状況が飲み込めず困惑する。
黒い男「…お前一人で? コッチは二人だぞ? 二対一で勝とうってか? 半年前とは違うぞ?オレぁ」
竜尾鬼「…解ってます でも、あなたの負担は僕が減らします…この事件は僕が解決します…! それに…一人じゃありません」
言いながら向けた刃を下に降ろす。
黒い男「何…?!」
その言葉が終わると同時に、暗闇から影がスッと動いたかと思うと竜尾鬼の横に男が立っていた。
黒い男「!アナタが…?!」
??「…久し振りだな」
そう言って現れた男は、全身黒のタイトなステルススーツに特殊な鉢金を付けた漆黒の頭巾で目許まで隠し、そこから出た襟巻きがマフラーの様に風に靡き、背中には反りのある刀を背負い、腕を組んで立っている。
クリフ「影から?! どんな魔術…??! ??詠唱無しで…?! え??!NINJA…?! 魔法…!??」
風貌より影から現れた方に驚き、聞いてしまう。
??「…違うな "術"ではない "法"でも …これは"技"だ」
クリフ「え!? これだけのことを…?! 技…?! 信じられない…! この方は何者ですか?!」
黒い男「…コッチの世界では有名だ…国家間のイザコザや国の危機に依頼が舞い込むこともある…独自の流れを組む超攻撃的且つ閉鎖的な忍集団の現頭領であり、"超忍"だ…」
クリフ「CHO-NIN…? NINJA… !…法王庁でも聞いた事が…邪神を封じたという東洋の忍の話…それが…!」
気付いた様に超忍を見上げる。
超忍「然り…」
黒い男「何故…? 此処に…?」
慎重を装ってはいるが、内心緊張している。
超忍「…知れた事、お前を止める為よ」
黒い男「…半年以上振りに会ってでそれですか…キッツイな…」
そう冗談交じりに述べながらも視線は外せない。
超忍「当然だ…我が一族は浮世の平定を担う者…然らばお前の私怨…その道を行けば魔神へと至る修羅の道…止めるのは当然の事よ」
静かながらもハッキリとした"お前と敵対する"という意思を打つけられる。
黒い男「! …ですよね… 話して手伝ってくれってのはムリっぽいなァ…」
竜尾鬼「…そういう事です 観念して下さい 連れ込まれた人達の件は僕等が引き継ぎます…アナタは戦わないで…!」
言いつつゆっくりと近付いてくる。
最後の言葉には何をしてでも止めるといった凄味が在った。
不利だな…
そう思ったところだった。
クリフ「待って下さい…!」
そこに割って入ったのはクリフだった。
クリフ「連れ込まれた…人達って…何人もいるんですか…? そこには眼鏡を掛けた癖っ毛の女の子もいたんじゃありませんか…!?」
そう言うと強力な魔力による衝撃波が再び発生する。
黒い男「ぅおっ…!?」
流石に突然で驚く。
と、同時に、案外激情に駆られると短絡的だな、と思う。
大人しいクリフにしては珍しく、連れていかれたと思い込んだか最後の言葉の語気が強めだった。
竜尾鬼「?癖っ毛の…?? いや、見ていた訳では無いからわからないが…」
その言葉の意味が解らず、曖昧に答える。
超忍「…」
クリフ「彼女が連れて行かれたというなら…早く行かなくちゃ…! だから…!」
言いつつ何時の間にか手にしていた金属製の五芒星ペンダントを手に、その目前の地面に光る魔法円が出来ていた。
クリフ「In nomine Patris et Filii et Spiritus Sancti habitant in quattuor elementis, quae mundum, potentiam terrae, involvunt meis verbis!」
竜尾鬼「! 何!?」
突然詠唱をしたクリフに驚き、そちらに視線を向ける。
黒い男「ッ…!」
その隙を狙って、背中の刀を抜いて竜尾鬼に斬り掛かった。
竜尾鬼に襲い掛かる黒い男―
超忍と対峙するクリフは―




