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異聞録:東京異譚  作者: 背負う地区顎と
人の章

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33/230

補足―虚無感―

明けた月曜日―

霧雨の朝―

全校集会の中に真美は居た…

十二




―3月1日(月)午前八時半―


―港区芝、私立御厨(みくりや)中高等学校 講堂内―

挿絵(By みてみん)




その日は寒く、冷たい雨が降り注ぎ、そのせいか、朝一で行う全校集会はグラウンドではなく、全生徒が収容出来る講堂で行われていた。


講堂は、一階一番左側から雨避けの在る長い渡り廊下を渡って、グラウンドを挟んだ校舎の真反対に在った。


講堂は広大で体育館も兼ねており、中高全生徒が収まるほどである。


そこの壇上=ステージの上で、初老の校長が演台のマイクに向けて喋っている。


内容はこうだ。


生徒数名が行方不明になったこと、教師一名が、家庭の都合で急遽地元である地方に転勤しなければならなくなったこと。


この二点だった。


それが淡々と、校長の口から穏やか且つ悲壮に語られるだけだった。


…結局、あれから誰も帰ってこなかった。


皆、居なくなってしまった。


居なくなった者は生徒だけでは無く、警備員含め多数いた様で、昨年起きた売春事件やらと関連付けられ、"皆さんも気を付けて下さい"の一言で纏められた。


アッサリと全校集会が終わり、教室への帰り際も、周囲では"何か事件に巻き込まれた"、"駆け落ちとか?"、"隣人がストーカーだ!"とか…それは最近やってたドラマの内容であり、それと照らし合わせる意見が多かった。


一部は(はしゃ)ぎ、一部は不安がり、そして他人事として、記憶から消え去っていくのだろう…


虚川真美は、そう考えながらも、教室へ向かう渡り廊下を、誰とも話さず、独り歩いた。


雨はそれ程強くないが、吹き付ける風が、冷たかった。


教室に戻り、空いている席が目に付く。


いつもは居た同級生達…


そこにチャイムと共に副担任が教室内に入ってくると、お定まりの号令からの挨拶を行う。


着席を行うと、案の定クラスの失踪者への心配の言葉を述べた。


それを聴きつつ、窓の外へ眼を配る。


三日前にあんな事が在ったのに、校内は綺麗だ。


その痕跡が無い。


血に塗れた後も、警備員の遺体も、エントランスの天窓も。


何も無かったかの様にいつも通りだったのだ。


そのいつもと変わらなさが、更に現実感の無さに拍車を掛けた。


そのいつも通りには何があったのか…


しかし、それを自分は調べる術も無いし、どうしようも出来ない。


自分は中学生の子供なのだ。


漫画や映画、ましてやゲームの主人公じゃあるまいし、世界も、街も、友人だって救えない。


しかし、そこに後悔は無い。


―ああ、こういうものか―


その理解と納得があった。


居なくなった友人、空しくなったクラスと、それも受け入れている。


だって、何も出来なかったのだから。


何も出来ない、一般人だから。


その理解と納得が、真美をその場に居させた。


哀しみ、怒り、塞ぎ込む等といった心の淀みは無く、ただすっぽりと抜けた"日常"の感覚を抱いて。


過ぎてしまい、思いを馳せ、喪失感を味わう。


―楽しかったな―


とだけ。


その喪失感と共に、彼女は中学の卒業を迎える。


たった独りで、進級する。


彼女の中学三年は、幕を閉じる―


一ヶ月後―

黒い男は用務員として高校に赴任する―

新たな魔術師と共に…

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