空 第五話
マーラとはなんなのか…
LOXとはなんなのか…
黒い男「中之先輩については…ま、あの人は正に煩悩の塊だからな…
とはいえ、そこら辺善悪の分別は以外と在る …でも、煩悩だけで言えばアウトだ 下半身に正直過ぎるから」
雄一「そう…なんですか?」
青い男「まぁ…そうですね」
呆れた様に二人共言う。
黒い男「それが今回の件を引き起こした
黒幕=白の男、実行犯=中之先輩てトコロか
中之先輩の肥大化した煩悩=性欲が、それと同調する繋がりの在った淫行芸能人と共謀した…てのが顛末か
あーでも、思想思惑は違ったみたいだな」
雄一「それって…?」
青い男「どういう事です?」
黒い男「恐らくだが、お互い深い繋がりは無かったんじゃないか?
全員の共通項は"女=SEX"でも、
芸能人=女取っ替え引っ替えSEX
中之=愛を育んだSEX
の違いが在ったからな
結局全員で話し合う事も意見を交わす事も無く、ヤる事だけで団結してたんじゃなかろうか」
雄一「そっか…」
妙に納得出来た。
全員個別に動いていたから。
黒い男「芸能人共は出資と女調達、中之先輩は情報収集と夢の場所提供、コレでお互い動いてたんだと思う」
青い男「! だからあのブサイク妖精状態…!」
あの時のアルプが思い出される。
黒い男「…に、成ってたんじゃないかと思う
そして、その中之先輩の度を超した性欲と煩悩に呼応して、マーラ様を顕現させてた…と」
青い男「あの…そもそも"マーラ"って何者なんですか?」
雄一「あと、あの…LOXっていうのも何か教えて下さい」
黒い男「ああ、先ず"マーラ"ってのは、仏教に措ける煩悩、つまり"魔"そのものであり、本質は"悪"
釈迦の悟りを妨げる為に現れたと言われてる」
青い男「へぇ…」
黒い男「そもそも煩悩の化身であり、悟りを開く事そのものが自身の消滅なワケだから そりゃあ、阻止しようとするだろう
そして、悟りを阻止する為に八つの軍勢と三人の娘を使わせるらしい」
青い男「そこまでは理解出来ました …でも、あの…気色悪い外見とかは…? 何か意味あるんですかね…?」
思い出すだけでも気分が悪くなる不定型なグロい外見を思い出し、身震いする。
黒い男「マーラは本能的に悟りを邪魔する煩悩 …つまり、性的な欲望を象徴しているからだ それに中之先輩の煩悩が加われば、ああも成ろう」
青い男「ああ…だから川母利さんのチ○コが輝いて恍惚としたのか…」
妙に納得してしまった。
性に飢えながらもマトモに成長しなかった本人の本能が、顕現の際に具現化すれば、ああも成るか。
黒い男「その象徴として、コイツの名前が隠語で官能小説や古典で使われているだろう? そして、呼び名がいっぱい在るんだよ コイツは」
溜息吐きながら言う。
青い男「それが…"天魔波旬"…」
黒い男「そうだ 他にも"第六天魔王"とかな…それは後に信長も自称したりしてる…」
非常にメンドくさそうに言う。
黒い男「それは六道における天道に属する、六欲天の"第六天"=他化自在天"に住してるからと言われる
そして、マーラを降す事は、"降魔"と呼ばれる」
青い男「へぇ…そういう意味だったんですね でも、あの、攻撃するのに使った独鈷杵は…?」
雄一「あれは降魔杵で、元は封神演義に出てくる宝貝で…」
受け取り、下調べをしていたからか、喋り出す。
が、
黒い男「雄一…! お前は黙れ…!」
静かな怒声が飛び、途中まで喋った所で、ビクリとして、動きが制止する。
その怒声は静かながらも、非常に強い口調で、喋りを止めるのには十分な気迫だった。
黒い男「…オマエは今回何をしたか解っているのか…? 無事だったから良いものを… 死んだらどうする…?!
…オマエは"力"を持っていない… 何かあったら、他の誰かがその尻拭いをしなけりゃ成らない…」
雄一「でも…俺も何かしたいんです…! それが証明出来たんじゃ…!」
黒い男「無くてもどうにか出来た そもそも、その為の"不動の独鈷杵"だったんだ…!」
必死な訴えも、その一言で全てが無意味であると思わせてしまった。
黒い男「とにかく…オマエは今までと変わらずにサポートに徹しろ…! 意見は貴重だが、実働する事は許可出来ない
そもそも…失敗したら…元も子もない…! オマエには未だ無理なんだ…! いいな? 鈴木さんにも抗議しておく!」
ハッキリと断言する。
雄一「…ハイ」
明らかに不服そうではあった。
だが、死んで貰いたくはない。
それでこそ、死ななければ、生きてチャンスを掴むか、別の道を探すか、選択の幅が拡がるというものだから。
意味を見付けて欲しかった。
自身で自身の人生を切り開くと言う事を。
自分達に合わせる為に闘うのではなく、自らの意思で、選んで闘って欲しいからだ。
雄一には、他人と調和をとるという、悪癖が直っていなかったからだ。
他人に合わせられる。
それは現代社会では有り難いスキルだ。
だが、此処では違う。
各々の護りたい、闘う理由が要るのだ。
それが、唯一無二の自身の"力"として具現化するのだから。
雄一には、それが未だ理解出来ていなかった。
三年経った今でも。
それは、闘いに向いていないという答えでもあった。
だが、本人は未だ気付けていない。
"普通"であり、"個"が薄いという事実に、本人は気付けて居なかった。
それが、視得ない雄一の壁だった。
黒い男「…続けるぞ
降魔杵は、手の上ではとても軽く、手放すと山の様に重くなるという性質が在る それを利用し、マーラを足止めした
そして、先程も言ったが、煩悩には不動明王が効く それで、一番最初に中之先輩に独鈷杵を拾わせようとしたが…断ってきた」
青い男「…え! アレそーゆー意味だったんですか?!」
黒い男「そうだよ」
そのアッサリとした返答に驚きつつも、何も視得ていない自分に落胆する。
黒い男「で、LOXな
LOXてのは、Liquid oxygen explosive=液体酸素爆薬の略で、古くから在る爆薬の事だ」
雄一「へぇ…全然知らなかった…」
自分の知らないその知識を聞き、自分が無知だと感じてしまう。
黒い男「あの工場は化学工場であり、出荷されなかった"液体窒素"が山程在った それを撃ち抜けば当然液体窒素が漏れる
液体窒素が漏れれば、―195.8℃の液体が、周囲の物質を急激に冷却する それは酸素であっても。
酸素が極低温で冷却されると液体に成る それが"液体酸素"
液体酸素は青色の液体で、磁性を持つ だから、オレが投げた小型の磁石に引き寄せられた そしてそれを撃った
幸い、あの周りは有機化合物だらけだし」
青い男「…? つまりどういうことです?」
黒い男「続きが在るんだよ…で、こっからが重要、液体酸素は非常に不安定で、有機化合物に接触するだけで反応を起こす
元々液体酸素は危険で取り扱いが難しく当時も着火剤だけで爆発させる事が可能だったほど …けど」
雄一「…けど?」
黒い男「取り扱いが難しく危険な為に現在ではもう製造されてない」
雄一「…なのに、なんでそんな事知ってるんです?」
当然の疑問だった。
何かの実験に関わったり、そういった事が在ったのだろうか?
黒い男「ネットの実験動画とかYouTubeで観た」
だが、想像とは違い、その返答はアッサリとした、それでいて簡素なモノだった。
雄一「…え?」
青い男「そんだけ!?」
黒い男「うん」
頭を掻きながらてきとーに答える。
その反応に、心底裏切られる。
アレだけの知識を、ネットで掻き集めただけなのかよ!
ツッコんでいた。心の中で。
青い男「そんだけの事は知ってるンスね…」
呆れつつ言う。
黒い男「まあな …ただ」
青い男「?…ただ?」
急な淀みの在る言葉に疑問を感じてしまい、問い返す。
黒い男「白の男の事は、マーラの言葉を聞くまで気付けなかった…」
極僅かに曇る、少し悔やみを抱いた顔。




