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異聞録:東京異譚  作者: 背負う地区顎と
是 編

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202/229

是 第十八話

雄一は町田に来ていた―

黒い男達とは別に―

四十五



―同 5月31日(木)夜10時半―


―町田市 南 廃工場横 裏通り―



雄一「…よし―!」


暗がりの、光も無い道の前に、雄一は立っていた。


黒い男『今回は参加させられない―』


その言葉が頭に残っていた。


途中まで一緒にやっていたのに…此処で最期だけ外されるなんてのは納得がいかなかった。


三年前から成長はしている筈だ…


皆の役に立てる筈だって…!


なのに、最期までは参加させてくれない…


…納得がいかない


自分だって三年間で色々変化したんだ…!


だから、おれだってやれるって…役に立つって見せてやる…!


…だからあの後、独自にここまで辿り着いた


調べる最中、"協会"の()()という方が声をかけてくれた。


彼が言うには、


鈴木『それ程のやる気ならば、手を貸しましょう 今回の事で、貴方にも役立つ道具を送ります』


それが、今回の事件に関する話をした後のコメントだった。


後日、この降魔杵(ごうましょう)が送られてきた。


これで、手助け出来る。


鈴木『さァ、それでは向かって下さい』


今回は鈴木さんが()()()()()()()()()()()()してくれるそうだ。


胸部に仕込んだカメラ付きの小型無線機から声が聞こえる。


雄一「了解です…! それじゃァ…行くぞ…!」


深呼吸をし、様々な荷物を入れたザックを背負(しょ)って自らに気合いを入れ、胸部にライトを付け、その道に足を踏み入れた。


その道は、住宅街に在りながらも草木が生い茂り、街灯も無く真っ暗で、正に"異世界の入り口"と言わんばかりの異界感を漂わせていた。


雄一「異世界転生とか…なろう小説じゃあるまいし…」


流石に吸い込まれそうで躊躇する様な暗さ()に恐怖しつつも、足を踏み入れる。


入り、少し歩くと街灯の灯りが見え始め、多少の安堵感が生まれる。


雄一「アレ(街灯)だけでも、結構安心するモンだな…」


だが、突然地響きが起き、近くに見えた灯りが、急に道が延長するかの如く遠くに離れ、周囲の雰囲気が変化した。


雄一「え…? これ…?!」


安堵感が不安に変わると同時に、この異常現象に思考を巡らす。


雄一「異界化現象…!?」


鈴木『そうですね 今、表の()()も入りました 先程、()()()()()()()()居なくなりましたし』


なるほど…だからか…


矢張りあの元マネージャーの人が元凶で、今起きてるこの異界化にも関係している。


逢魔ヶ刻(おうまがとき)や丑三つ時の様な()()()()()()()()()()、何故なったのかという答えが出た。


…が、


それでも矢張り体験するのは怖い。


肌で感じる違和感と嫌な感じが半端無く凄い。


恐怖で足が(すく)むが、負けてはいられない。


五感以外の第六感も危険を告げる。


暗闇以外にも周囲の植物が蠢いている様だ。


雄一「…早く行こう…!」


足を速めた。



夜11時(およ)そ半―


―町田市 南 廃工場 裏通り 異界―



―凡そ50分は歩いたか。


だが、一向にこの暗闇を抜けない。


明らかに時間が掛かっていた。


雄一「クッソ…!」


鈴木『落ち着いて下さい 一息着くために水分でも取ってみてはどうです? 歩きっぱなしですし、疲労は判断を鈍らせます』


…確かにイラついている…


休み無しで歩いているし、冷静になるために一息着こう。


立ち止まり、ザックから水を取り出す。


飲みながら、何かに気付く。


雄一「…ん?」


右足に違和感を感じ、視てみると、足に(つた)の様な植物が巻き付いていた。


雄一「これ…」


と、口にした瞬間、既に遅かった。


急に足を引っ張られたかと思うと、凄まじい勢いで数メートル荒れた地面を(こす)りながら引き()られた。


雄一「おおぉぉぉおおおぉぉ!?」


鈴木『おぉ! それは南米等で見られる食人木、ヤ=テ=ベオですねぇ!

…何故こんな場所に?』


疑問と感嘆の籠もった声を上げる。


だがそれどころではない。


そんな言葉を聞く余裕もなく舗装が悪い地面を引き摺られ、背中が半端無く痛む。


雄一「いででででで!!」


数メートル引き摺られたかと思うと、急に上に引き上げられた。


雄一「ぉぉおおおぉぉぉぉ?!」


逆さ吊りの状態で宙に上げられると、目前に大きな大木が在る。


周囲には伸びきった草と、その木の枝が蠢いている。


雄一「…え?」


その大きな木の目前が口の様に大きく開き、()()()()()()変わった。


流石にその先を、()()()()()()()()()()()()()()()()()冷や汗が出始める。


雄一「ヤッベ…!」


鈴木『そいつの蔦を切らないと食べられてしまいますよ』


軽く事実だけを告げられる。


喰われる…?!


その危機感からか、背中のザックを取り外し、中に入っている降魔杵を手探りで探す。


雄一「あー!クソッ…!」


暗がりかつ重力に逆らう体勢で無理矢理探すが、中々見付からない。


雄一「…ッ! なんで…!」


焦りと苛立ちの言葉が口から漏れる。


…こういう時は中々取りたい物が取れない。


それが更に自分を焦らせた。


段々と大口が近付く。


ヤバイ


焦りからか色々な物をその植物の口に投げつける。


だが、どれも効かない。


更に焦りが増す。


雄一「えーッ…と! …! あっ…! た!」


鈴木『それを()()蔦に刺して下さい』


雄一「え?!」


鈴木『いいからやって下さい』


雄一「あ! …ハイ…!」


その気迫に押され、降魔杵を刺した途端、急に蔦が下に()り始めた。


雄一「なんで…!?」


鈴木『降魔杵は対象に乗せたり、刺した途端、重くなります アナタも調べたから解っているとは思いますが』


そう言われ、焦っていた思考が冷静になってくる。


そうだ、降魔杵は山の様に重くなるも、普段は草の様に軽い。


地面に下りてきたので、その蔦を切り裂き、着地する。


背負っていたザックのお陰で背中に傷は余り無い。


だが、色々投げてしまって、持って行く予定だった支援道具はほぼ無くなってしまった。


こうなると只邪魔になるだけ。


ザックを背中から下ろし、降魔杵を握りしめる。


考えが在る。


いけるか解らないが、これでなら…


雄一「よし…!」


意思を固め、ヤ=テ=ベオに走り出す。


正面から開いていた口の部分を足場にして樹木の真ん中辺りに降魔杵を思い切り突き刺し、手放す。


途端、刺さった部分から重くなり始めたらしく、その部分から音を立てて重さで(へこ)み始めた。


それと同時にヤ=テ=ベオが重みで倒れ始める。


その降魔杵を再び掴み、力を込めて更に押し込む。


すると、重くなっていた部分に更に自重を加えた為か、メキメキと音を立てて潰れ始めた。


潰れた部分からは赤黒い血液が飛び出し、周囲に拡がる。


雄一「ぅあッ…! こんっ…のやろ…ッ!」


その血を浴びつつも、更に重さを加えて押し潰す様に力を込める。


重さで枝が折れ、大木の幹が波紋状に潰れる。


地面も凹む程の重みになってきたのか、音がして木が地面にめり込む。


そこまで来ると、流石に動かなくなった。


雄一「大丈夫…か?」


(いぶか)しみつつ離れて観察する。


保険の為か、降魔杵はまだ刺したままだった。


全体が潰れた所で、


鈴木『恐らくもう大丈夫でしょう 先に進んで下さい』


と、軽く言われる。


雄一「そう…ですか」


その言葉を余り信じず、降魔杵をゆっくり引き抜くと、樹木全体に音を立ててヒビが入り、バラバラに砕けていった。


それを視て、達成感が込み上げてくる。


雄一「よし… 行こう…!」


自信を持って、工場に向かう。


よく見ると、ヤ=テ=ベオを斃した御陰か、道を覆っていた草木が減り、目的地である、工場の裏口が見えていた。


これなら、あと数十分ほど歩けば着く距離だと判る。


雄一は歩みを進めた。





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