是 第七話
2006年9月―
新宿のカフェで、白の男は黒い男に教授する―
三十四
―2006年9月 夜8時過ぎ―
―新宿御苑近くカフェ―
誰もいなくなったカフェの二階で、煙草を燻らせながら、白の男は語る。
白の男「お前はな、気持ちが足りねんだよ」
黒い男「気持ち…ッスか…」
珍しくマジなトーンで、しかもコーヒーまで奢ってくれるなんて状態で。
何時もは弁当を奢れ煙草買ってこいと言う様なパシらせっぷりだったのに、急に真面目なトーンで店に連れてこられていた。
理由は、真言に関する話での流れ…自分が真言を理解してない=言葉を大事にしてないという事だった。
この人は、"言霊師"としての"力"を使いながらも、その理力の"質"が違い、家族との心の交流を図れなかった事で、実家では孤立していた。
その孤独さが、自分の同じ様な部分と共感が出来、黒い男に興味を持ったとの事だった。
その時の自分にはまだ深くピンとは来なかったが、その言葉は心に残った。
白の男「俺はガキの頃荒れてた けど、俺の"力"を意味を込めて使う事によって、意味が生まれた それは、俺にとって生きる目標なんだ
俺がこの"力"の使い方を覚えた事で、人生が開けた お前もそれは解るハズだし、それがお前のやるべき事なんだよ」
黒い男「そう…なのか…」
その想いを受け、純粋に答えていた。
白の男「まだ解らねぇと思うがな
俺も昔は"力"の使い方が解らなくて誰でもかれでも敵意向けてたし
家一つブッ壊したくらいだし」
黒い男「え?! そんな事して…」
白の男「誤魔化した "力"で」
黒い男「えぇ…そんな…」
流石に引いた。
白の男「ま、そんくれーフラストレーション溜まってたんだよ それに…今の俺は、八極拳と色んな知識を得て変わったし、落ち着いたからな 知識は重要だ
それに、"苦しみ"は考えるし、"孤独"は困難を乗り越えさせる お前もそれを理解しろ」
初めて、そこまで喋ってくれたのを、今も覚えている。
その後、閉店時間近くまで真言のレクチャーをしてくれた。
白の男「オラ、こーやってやるんだよ」
そう言って、九字護身法の印を教えてくれた。
黒い男「…へー…スゲー…! 触媒も無しに…早九字しかしてなかった…」
白の男「で、手で印を結んでいくんだが、それぞれに仏を模している
それは大金剛輪印から始まり…宝瓶印までを結びながら、九種類の印にそれぞれ、毘沙門天・十一面観音・如意輪観音・不動明王・愛染明王・聖観音・阿弥陀如来・弥勒菩薩・文殊菩薩を、仏の意を込めて唱える
但し、密教経典には見られない、日本独自の印の結び方だから、意味を込めて唱えないといけないってトコだな」
黒い男「へぇー…じゃあ」
白の男「真言の時も然りだ ちゃんと意味を込めないと効力は発揮されない 例えお前が三昧耶戒を咒符で誤魔化して効果が発揮している様にしていても同じ事だ」
その言葉に少し驚いた。
黒い男「…そんな事まで知ってるンスね」
白の男「当然だろうが
実際の真言は、潅頂、密教において、頭頂に水を灌ぎ、諸仏や曼荼羅と縁を結び、正しく種々の戒律や資格を授けて正統な継承者になっていないと使えない だから咒符を使ってその部分を補っている
て事は、咒符で使える様に成っていても、威力は最低限だけ…それじゃ独りでやって行くには限界がある
その為に使える真言を増やし、理解し、強力にしないとならない つまり真言にも意味を込めないと、"力"は発揮されねーってこった」
誇らしげに言う。
それには一理あった。
術者が言葉に意味を込めなければ効力は発揮されない―
それは、自分にとって新しかった。
新しい発見だった。
白の男「だから、お前も独りでやっていく為に、その苦しみを背負いながらも研鑽を重ねろってこった お前のその辛さは多分俺と似ているからな 解るし」
黒い男「そうか…解った やってみる」
白の男「おう やってみろや」
…だからか
この人は自分と同等の人を求めているんだ…
孤独だったから
なら自分が少しでもそうなれたら嬉しいだろうな
全てが同じは無理でも、同じくらいの思想は持ち合わせていたい
―そう自分を思わせた
二年前、大罪を封じて、仲間達と分かれて―
また自分一人になって
その時はもう孤独からは離れていたけれど、
その時、新しい仲間が出来た―
―そう思った…
…それが十二年前…
その思想の一部は、未だ自分の中で新しく昇華されて存在している―
自分は、まだまだ変化していく―
その人から自分へ―
自分はその思想の根本を理解し、その人からも離れた、独立した新たな目的―
―独りではない、独りでは出来ない、という事に変わって―




