其の十三 ―真実―
明かされる真実―
凄絶な真実―
歪んだ答え…
―正午過ぎ―
―坪田高濃度地区 地獄谷―
竜尾鬼「その情報は何処で?」
トシ「俺が独自で調べてた お前達二人が店から出て行った後だ 協会から連絡があった …コイツは止めといた方が良いって言ってたがな…」
視線をスズに向け顎で指した。
スズ「私はね…それはちょっと…やり過ぎだって…」
バツが悪そうに述べる。
トシ「…必要だったろ…!」
静かに反論する。
竜尾鬼「今はそういう時じゃないでしょう」
進まない会話に割って入る。
トシ「…そうだな 兎に角彼女は人を殺している 自分の父親をな」
竜尾鬼「そうなのですか? 6月の大罪一度しか見ていませんが、そんな風には…」
服装は今風だったが、大人しそうだった…そういう印象しか無い。
スズ「見た目は… 実際に彼女は6月の事件以前は大人しく勤勉で、高校時代もそれ以前も特にそれらしい事は無かった でも…」
最後の言葉を渋る。
竜尾鬼「でも?」
その渋り様に、解らず聞き返す。
トシ「6月の事件が発覚する以前に強姦されていた」
竜尾鬼「!…」
どう答えて良いか解らず、黙ってしまう。
トシ「彼女はその後も何回も犯されていた でも…」
竜尾鬼「…? でも…?」
トシ「彼女は後半になると、その行為を楽しみ始めた」
スズ「ッ…!」
顔を横に背け、押し黙る。
竜尾鬼「…そうですか」
竜尾鬼でさえ、嫌悪感で顔が歪む。
トシ「それだけじゃない…」
スズ「彼女は快楽に任せ、スーペル・リーベルタスが無くなった後も、歌舞伎町や新大久保の裏通りで…肉体関係を迫る事をしていたらしいの…」
その言葉をとても躊躇して述べる。
竜尾鬼「何故そんな…」
トシ「そこからなんだ 彼女の父親は真面目で、そのせいで母親は着いていけず離婚している それを愛己は気にしていなかったが、父の言いつけは正しいと真面目に生きていた 疑問も抱いていなかったんだ だが、強姦事件に巻き込まれてから全てが変わった」
竜尾鬼「全て…? 疑問は抱かなかったのでは?」
竜尾鬼は自分と同じ様に考えていた。
辛い事があったとしても、使命や目的を理解していれば、厳しさや困難に向かっても、乗り越えるしか無いと。
トシ「いや、父親に助けを求めたが、父親はそんな娘を詰った」
竜尾鬼「な??!」
竜尾鬼には想像の外だった。
自分だったら、そんな親の詰りに振り回さず、法的に正しい行動を取り、勤勉に生きるだろう。だが、違った。
トシ「その時初めて、拒絶され、味方がいないと感じた飛羽惰愛己は、必死に父に助けを請うた だが、真面目故に世間体を気にする父親は、居なくなった母親に娘を重ね、責めたんだ」
竜尾鬼「警察に頼れば…!」
スズ「それはムリよ竜尾鬼君…女性にとって、強姦なんて耐えられる事じゃない…!」
痛々しい表情で竜尾鬼にそう告げる。
竜尾鬼「そんな…!」
その言葉には、多少の女性としての批難が込められていた。
竜尾鬼には理解出来ない事柄だった。何かのせいにするなど、意味が無い、竜尾鬼には考えられない事であり、女性の思考を想像するという事も、竜尾鬼の思考には無かった。
他人の立場に立つという思考そのものが無かったのだ。
トシ「そして何日も詰られ、何日も強姦され、理解してくれない父親に対する辛さと、犯されながらも快楽を感じてしまっている背徳的な自分に罪を感じていた そして何日も続いたその"行為"は彼女の精神を磨り減らし、最後には、全てが"反転"した」
竜尾鬼「反転…?」
トシ「快楽を受け入れ、批判する父を煩わしいと殺害した」
竜尾鬼「!」
全く考えなかった事だった。
スズ「そして、彼女は、快楽主義者として、それ以外を捨てたの…」
納得は行く…だから拘りが余り無いのか…あの人はそう言っていた。
トシ「彼女の実家にあった手帳の日記部分はそこで締めくくられていた …恐らく、その"反転"した時に"大罪"に憑かれたんだろう…」
合点はいった。
しかし、一つ疑問が浮かんだ。
竜尾鬼「何故それを…あの人に伝えなかったんです…?!」
静かながらも、ハッキリと怒りを込める。
当然だ。
そうすれば、あの人はこんなに辛い結果を知らずに済んだのに。
スズ「それは…」
そう言って、申し訳なさそうに俯く。
トシ「俺達だって、…知らなかったんだ…! そう言っただろう」
だが、その言葉には惑いがある。
そこに怒りが湧いた。
竜尾鬼「それでも言うべきでした」
ハッキリと言う。
断言したその物言いに、トシも俯く。
これ以上同じ言い訳は聞きたくなかった。
背を向けて、あの人が向かったであろう場所に視線を向ける。
視線を向けて探っていたところ、薄木・粟辺地区の空が、大きな地揺れと共に元の空に戻っていった。
トシ「な…?!」
竜尾鬼「何か起きたようです! 行きましょう!」
辿り着いた七島展望台に黒い男はいなかった―
其処に残されていたのは…




