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異聞録:東京異譚  作者: 背負う地区顎と
地の章

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12/229

其の八 ―疑問―

その異常な場所にいたのは、居る筈の無い…

―正午―


―地獄谷"教会"内―

挿絵(By みてみん)



そんな筈はなかった。


絶対に有り得ないことであった。


さしもの自分も焦りと緊張で全身が強張る。


居る筈が無い。


最後に連絡を取り合ったのは1時間前、これから阿古地区に入ると話したはず…では、この目前に居る男は誰なのだ…?!


黒い男「どうしたんだ? 竜尾鬼? そんなところに突っ立って 早く入れよ ココをどうにかしなきゃ」


そのいつも通りの自然な会話の仕方に、余計緊張感が増す。


目を離さず仕草や態度を観察しながらも、警戒は解けない。


ゆっくりと近付いていく。


竜尾鬼「…どうして、先に此処に…?」


先ず当たり前の質問を投げ掛ける。


黒い男「あぁ、なんか気付いたら、此処に居たんだよ だから、先にこの中を探ってた なんか、生きてるみたいで気持ち悪いんだ あ、それと、この下に何かが在るみたいだ だから、この教会を早く破壊しないといけない それには、お前の"力"でする必要があると思うんだ」


…? なんだこの返しは?


それも当然だ。


敵ならば、騙っている存在ならば、そんな邪魔をしに来た相手である自分にこんな返しはしない。


寧ろ嘘を吐いたり、誤った情報を流すだろう。


それなのに当たり前の様に全てを説明し、助力をしようとしている。


なんだこの眼の前に居る男は―?


緊張からか汗が流れる。


珍しい事だった。


幼い頃から先祖譲りの陰陽術と明智―坂本と流れてきた血による剣術の才、北辰一刀流と、東京を護るために鍛えられた自分が、冷や汗をかいている…


竜尾鬼「…あの、持ってた武器では出来なかったんですか?」


カマを掛けた。


そう、眼の前の男(黒い男)は、何も持っていなかった。


全身が"白"の出で立ちで、島に上陸した時とは"反転"した格好。


そして、瞳の色は赤だった。


黒い男「それが…ワケがわからねーんだが、何処にも無いんだよ… 落とした…ってハズ無いんだけどなぁ…」


と、自分の周囲や服を(まさぐ)る様な仕草で、予想外にも困っていたのだ。


それが更に竜尾鬼を困惑させた。


竜尾鬼「え…? どういう…コトですか?」


思わず聞いてしまう。


その相対した男の、余りの自然な何時もと同じ仕草に。


黒い男「だからそれがわからねーんだって」


また当たり前に返してくる。


いつもと全く同じに。


もう、ワケが解らなかった。


今、目前の男が何者で、どうすれば良いのか。


敵として排除すべきなのか、無視をして教会を壊すべきか。


それが判断出来なくなってしまった。


何より、目前のこの男には、いつもと同じ様に親しみが湧く。


黒い男「まぁ! 今どーにか出来るのは、お前しかいねーんだから、やっちまってくれよ! オレもこれが終わらないとスッキリしねぇからさ」


そう肩を掴まれて言われ、我に返る。


竜尾鬼「あ…ええ…!」


取り敢えず、解らないことは後で良い。


そういった、昔は考えなかったことを考え、竜尾鬼は考えるのを止めた。


黒い男「取り敢えず、確認してみた限り、この教会の周りを覆ってる血管みたいな管を切らなきゃいけない

どうやら、この教会が力を増幅してるっぽい 多分ここが"心臓"なんだ お前の"力"ならどうにかこの"心臓"止められるんじゃないか?」


竜尾鬼「そう…ですね」


そう言って、竜尾鬼は入り口付近まで戻ると、意識をこの"教会"に向けた。


竜尾鬼「下がっていて下さい」


言ってはみたものの、どうするのか解らず自分を見ていた黒い男にそう告げる。


黒い男「あ、そうか…ゴメン」


そう言われて素直に、申し訳なさそうに、自分の後ろに下がる黒い男を尻目にする。


その仕草も、何時もと全く同じだった。


竜尾鬼「…これから"力"を解放します…! 巻き込まれないで下さい…!」


黒い男「解った この"ペルガモ"を壊せば、残りはあと一つだ」


竜尾鬼「?…ペルガモ? 何故、知ってるんです?」


気になり聞く。


最初、上陸前に七つの教会を当てはめたが、何処とは判明していなかった。


この男(黒い男)に緊張を向ける。


黒い男「? 何故って…?」


その反応は、純粋に聞かれると思っていなかった返答だった。


黒い男「何故…? 知ってるんだろう…?? …わからねえ」


そう言って、腕を組んで悩み始めてしまった。


その姿に、逆に安心してしまう。


竜尾鬼「…もういいです 気を付けて下さいね ふッ!」


そう言って、竜尾鬼は"力"を解放し、魔人化した。


黒い男「おぉ!」


頭部には二本の角の様なモノが生え、犬歯は牙の様に伸び、体躯は屈強になり、全身が鋼の様な濃い藍色に変化していた。


その姿は、正に"鬼"の様相であった。


黒い男「スゲェな…でもその牙だとモノ食いづらくないか?」


後ろから気の抜けることを言う…


でも、何時もの冗談だった。


竜尾鬼「離れていて下さい…! 一撃で壊しますから…!」


黒い男「おぉ…! 喋れてる…! 練習したんだな…!」


しょーもない事を言う黒い男を無視して、龍玉を"明智拵"の柄に()め込む。


すると二刀の刃となって、"魔人"竜尾鬼の手に顕現した。


竜尾鬼「いきますよ…!」


そう言って正中線上に腰を落とし、重心を後ろ足に乗せ、左手の刀を前に、右手の刀を上段にし、二の字に成る様両手の長刀を構える。


後ろ足を踏ん張り、丹田に氣を集中する。


竜尾鬼を中心に氣が溢れ、地を揺らす。


黒い男「ぅおッ!」


竜尾鬼「離れて!」


黒い男を気に掛けはしたが、もうそれどころではない。


二刀の刃が天の如く輝く。


後は放つだけ。


竜尾鬼「憤ッ!」


その気合いを入れた右手の刀の一突きから出る衝撃が、教会を貫く。


続け様に、左手の輝く刀を左上から斬り下ろし、右手の刀を斬り降ろす。


そして両手の刀を右に思い切り薙ぎ、更に刃を上に切り返し、右後ろ足に力を込め、一歩踏み出すと同時に、両の刃を左上から振り下ろし、更に一歩前に踏み出ると同時に両腕を交差し、×字に斬り割く。


そして最後に両手の刀を逆手に持ちながら大きく振り上げ、教会の床に思い切り突き刺した。


時間差でバラバラに崩れる"教会"とは別に、大量の赤い液体が刀を突き刺した床から吹き出し、地響きが起こる。


苦しんでいるかの様な地揺れは数十秒続き、やがて収まると同時に、壊れた"教会"の破片は消え、"生きた大地"は霧散した。


元の三宅島の大地に戻ったのだ。


竜尾鬼「ふう…」


魔人化を解くと同時に刀も元に戻る。


竜尾鬼は直ぐ後ろを振り返った。


竜尾鬼「終わりましたよ… え…?」


振り向くと誰も居なかった。


正確には、枯れた樹木と御子敷地区を見下ろすその風景以外何も無かった。


黒い男は何処にも居なかった。


それが、竜尾鬼が最後に黒い男と話したと思った記憶になった。


黒い男の向かった地区の方角に視線をやると、火山上空の空から、四色の光が降りてきており、其処に向かう一筋の光が見えた。


恐らく下から四色の光に向かったのはSさんだろう。


自分も早く黒い男のところへ向かわねば。


そう思い、マスクを被った矢先だった。


??「竜尾鬼ッ!」


その聞き覚えのある声に呼び掛けられ、声がした方を向く。


トシ「アイツは何処だ…?!」


息を上げながらそう訪ねる。


後ろにはスズも見えた。


竜尾鬼「解りません…」


教会の在った方向に視線をやりながら、そう答える。


トシ「わかりませんって…一緒じゃないのか?!」


驚いた様に捲し立てる。


気持ちは解るが、そんなに焦っても現状は変えられない。


竜尾鬼「仕方在りません 本人の希望でもありますし …それより、何故あなたが此処に? 協会ではまだこの状況に介入するのに時間が掛かるのでは?」


そうなのだ。


ここ最近協会は色々なルールが増え、後手に回ることが多くなっていた。


それを待っていられないからこそ、黒い男は自分を頼ったのだ。


独立した退魔機関であり、宮内庁及び政府各種機関と坂本家を。


トシ「…ッなら…早くアイツ(黒い男)を見付けないとッ…!」


慣れない山歩き(トレッキング)とガスマスクで息が絶え絶えになっている。


竜尾鬼「落ち着いて下さい 何故急いでいるんです?」


トシ「アイツ(黒い男)は気付いてないんだ…! あの…飛羽惰(とわだ) 愛己(まなみ)は…ッ」


呼吸を落ち着けようとしているが、それよりも重要な事を伝える意志が先行して、息切れを起こしている。


竜尾鬼「…どうかしたのですか?」


何故、今その名前が出てくるか解らない竜尾鬼は聞き返す。


漸く呼吸を整えたのか顔を上げ竜尾鬼に視線をやる。


トシ「彼女は…!」

同時刻―

黒い男は教会の中で対峙していた―

その怪物達と…

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