其の十四
8月も終わりになった頃―
二人は三重の山奥へと来ていた―
そこは鈴鹿御前縁の地―…
十四
―8月27日(金)昼過ぎ―
―三重県亀山市関町坂下 片山神社―
昼だというのに周囲は木々に覆われ薄暗く、苔生した石段と併せて、空気がジメジメとしていた。
トシ「―…ここが…鈴鹿権現の祀られている場所―…」
この地に降り立った二人、その男の方が口にする。
スズ「…」
女の方は無言でゆっくりとした足取りで表参道の石段を登る。
トシ「…"鈴鹿流長刀の石碑"… やはり…関係あるんだな…俺達と…」
縦長の石碑を見上げながら呟くも、実感が湧かない。
石碑を後に、スズを追う。
―三重県亀山市関町坂下 片山神社 社殿跡―
階段を上りきると、スズが雑草の生え散らかした台座の上に片手を置き、座り込んでいた。
スズ「…こんな―…何にも残っていないなんて…」
後ろ姿ではあるが、その言葉には哀しみが籠もっていた。
その後ろ姿を直視出来ず、視線を逸らしてしまう。
トシ「…仕方ないさ…この片山神社は、6年前に放火にあって以来…周辺地域の過疎化もあって…再建の目処も立っていない…それに…」
スズ「そういう事を言ってるんじゃないの!」
遮る様に発した大声は、誰も居ない山中に響く。
しかしトシは続ける。
トシ「…田村神社ももう無い…俺達のルーツは…ここには無いんだよ」
その諦観にも似た感覚で紡いだ言葉に、スズは答えなかった。
当然だ。
物事はそう都合良くいかない。
これが現実なのだ。
トシ「―さあ、行こう…他にも"鈴鹿"に関わる神社は幾つも―…」
言いながら屈み込んだスズに眼をやると、僅かに肩が揺れていた。
スズ「俊宗も―…」
トシ「え…?」
そのか細い声に聴き取れず、聞き返してしまう。
スズ「鈴鹿御前も…もうわからない…」
トシ「そんなことはない…! 他にも二人の伝承や記録は…!」
スズ「数が膨大過ぎるッ…! それとも北陸全て回れっていうのッ?! その間にも彼は…ッ」
トシの言葉を遮り、スズの叫びが周囲に響くも、直ぐ蝉の音によって掻き消されていく。
スズ「…京都や伊勢、関西は先に回ったんだよ…なのに…何の収穫も得られなかった…むしろ、私達に関係が在るなんて…これっぽっちも思えなかった…」
絞り出す様に吐露する。
この半月で、関西での坂上田村麻呂と鈴鹿御前の伝説に縁在る、祀った神社、寺に向かい、遺物に触れたりもした。
―しかし、何も起きなかった。
何も感じられず、心さえも動かず、無関係なモノに感じた―
自分に全く関係が無い―
つまりは何も変わらなかったのだ。
京都でお互い単独行動を取った時も…
それは、トシとて同じだったから、尚更何も言えなかった。
スズ「私達は…自分達の運命に囚われてた…それを捨てた時から…戻る事なんて出来ないんだ…だって捨てたんだから…」
あんなに意気込んで彼を救うと嘯いてみせて…
…結局何も出来ない。
なんて無力なのか。
若い時には無限の希望が在った。
可能性も無限に在る。
しかし、大人に成った今は解る。
そんな事は有り得ない。
限界が在る。
正しく合った事をしなければ、答えなどは導かれないのだと。
その果てない数の答え合わせに、心は押し潰されていた。
トシ「…」
トシも、その言葉に黙してしまう。
スズの頬を一筋の涙が伝った。
スズ「もう…私達には…」
涙が一滴、ぽたりと台座に落ちた。
―その瞬間だった。
突如としてその雫から広がる様に地面が光り輝き、その中から一人の女性が現れたのは。
??「お久し振りですねぇ お二人共」
その天女の様な羽衣を纏い、中空に浮遊する巫女装束の格好をした、スズによく似た女神はそう告げた。
眼の前に突如として現れた其の懐かしい女神はスズへと告げる―
"目覚めよ"―と…




