其の十三
霞ヶ関の出来事から1週間後―
トシは京都にいた―…
十三
―8月16日(月)昼12時過ぎ―
―京都府京都市東山区清水 清水寺―
刺す様な陽射しの中、蝉の鳴き声がけたたましく響く。
連日猛暑によるその暑さで、外を歩く人間も疎らだった。
昼だというのに人が少なくなった参道は、何処か普通ではない雰囲気を醸し出していた。
半袖のシャツとスラックスという出立ちのトシは、その暑さの中、奥へと進む。
目指す大講堂の前には、袈裟を羽織った住職が居り、会釈をした。
坂本の手が既に回っているらしく、こちらも軽く会釈し、大講堂へと入っていった。
―8月16日(月)昼12時過ぎ―
―京都府京都市東山区清水 清水寺 多寶閣―
四階分吹き抜けの巨大な空間…そして階下に巨大な仏足石。
普段は立ち入ることの出来ない清廉な場所―…
住職「…こちらが、当寺に残されているものです」
そう言いながら、布に覆われた長物を乗せた手押し車を目前まで持ってくる。
トシ「…こんなところに…? 本堂ではなく? …布は捲ってみても?」
トシの問い掛けに住職は頷きながらも語り出す。
住職「…お話は伺っておりますので…しかし、経年劣化により、本来の形では御座いませぬ…」
布を捲ると、軽い反りの入った、所々朽ちた刀が現れる。
トシ「…触れても?」
住職「…」
無言で頷く住職を橫目で視ると、刀に眼を降ろし、ゆっくりと右手の指先で刀に触れると、瞼を閉じた。
トシ「!…」
カッと眼を見開くと同時に口を開く。
トシ「ッ…何も…ない…! いや、触れたくらいで…何かが起きるワケなんてない…!」
苦悶の表情を浮かべつつ吐き捨てる。
住職「…色々な所を伺った御様子…お悩みが解決されなかったのですか?」
ゆっくりとした口調で聞いた。
トシ「…滋賀…兵庫…そして、ここ京都…」
言葉はそこで止まり、俯く。
住職「そうでしたか…ですが、必ず道は在るものです あなたの行く先に、光明は在りますよ」
物腰の柔らかい笑顔を向ける住職に、愛想笑いを返すことしか出来なかった。
―8月11日(水)昼―
―兵庫県加東市 播州清水寺 本坊―
トシ「太刀以外で関係の在るものは…もう無い…?」
寺務所の入り口でそう問うと、ユックリと頷いた住職は口を開いた。
住職「はい…申し訳御座いません…遠路遙々お越し下さったのに 肝心な太刀は、もう25年前に国へ寄付してもうて…」
それは知っていた。
三振りの刀は国が保有し、上野の国立博物館にあるというのは。
しかし、それ以外の痕跡が在るのではないかと思って来てみたのだが―
トシ「何も…残ってない…?」
住職「物語や逸話以外は…残っとりません」
トシ「そう…ですか …失礼します」
深々と頭を下げ、本坊から離れる。
坂上田村麻呂に縁の深いこの場所へ向かってはみたものの、既に痕跡は無く、其処には"伝説"だけが残されていた。
スズ「どうだった?」
近くの木陰で待っていた、スズが声を掛けてくる。
格好は黒のロングを頭の頭部でお団子に纏め、白のタンクトップキャミソールにデニムと、トシと同じくラフにしている。
トシ「逸話以外は残ってないそうだ…」
スズ「そう…遠くまで来たのに…残念だね」
トシ「仕方ないさ…次は京都…お次は和歌山だ」
そう言って、スズの背中を軽く叩く。
歩き出した二人は追々知る―
己を知る事の永き事を―
8月も終わりの頃となった―
そこはスズ縁の地―…




