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喉に詰まったお餅を掃除機で吸い取るシリーズ

お餅を吸い出せ -3-

姉貴の部屋を出て、階段を降りようとしたところで、弟と妹に出会った。


弟と妹は青白い顔ではあるが、にこにこと楽しそうに笑って僕を見つめていた。


(そうだった。僕にはこんなにも愛らしい妹と弟がいるじゃないか...。この子たちを先に助けてあげるべきだった。)


僕は後悔を胸に、弟を妹を助けるべく一歩前に踏み出した。


ぐいっ。僕は何かを踏んづけた。


足元にワイヤーがピンと張ってある。これを踏んづけてしまったのか。


すると僕の頭上を何かがすごい勢いで飛び去って行った。


後ろを振り返ってみると、ボウガンの矢が壁に突き刺さっていた。


僕は血の気が引いた。


正面を向きなおすと弟と妹が残念そうに、お互いの顔を見つめていた。


「いやいや。これはいたずらの域を超えてません...?」


僕はしょっちゅうこの双子にいたずらをされているが、命の危機を感じたのは今日が初めてだ。


彼らも命の危機に瀕しているため、程度が分からなくなっているのかもしれない。


「...ま、まあ、とりあえずこっちに来なよ。お餅を掃除機で吸い出してあげるからさ」


僕は優しく彼らに話しかけるが、彼らはこちらに近寄ってこない。


寧ろ警戒心を強めた様子で、二人で何やら見つめ合いながら、首を横に振ったり、頷いたりしている。


(この二人は言葉無くても、コミュニケーションが取れるのか...便利だな...)


やがて諦めがついたのか、弟が僕の方へトコトコと近づいてきた。


「おっやっと来てくれたか。さあさあ口を大きく開けて」


弟は僕の前で立ち止まると、天井を指差した。


...天井を見ろってことかな?


僕は天井を見上げた。


特に何も無い。


「別に何もないけ...」


弟が僕の首目がけて、横薙ぎで腕を振りかぶってくるのが見えた。


僕は咄嗟に手に持った掃除機のチューブでその腕を受けた。


頬にちくっと小さな痛みが走った。


見ると弟の手に握られたナイフが僕の頬を突き刺している。


「えええぇぇぇぇぇぇぇ!!?」


弟と掃除機のチューブで鍔迫り合いをしていると、妹が日本刀を振りかざしてこちらに飛び掛かろうとしているのが見えた。


「ちょっとぉぉぉぉ!!やりすぎてると思うんですけどぉぉぉぉぉぉ!!」


僕は全力で叫びながら、弟を足払いで体勢を崩させると後ろに放りなげ、妹の斬撃を白羽取りした。


「!?」


妹が驚きの表情を浮かべている。


そのまま僕は後ろに倒れ込むように妹のお腹を蹴り上げると、柔道の巴投げの要領で、弟の方へ妹も放り投げた。


僕が立ち上がると双子も立ち上がって戦闘態勢に入っていた。


「いや、ちょっと待って。落ち着いて君たち。タンマタンマ。」


僕がそう言っても彼らは戦闘態勢を解く様子はない。


「いや、全然意味が分からないんだけど。...君たちはまずこれが欲しいってことでいいのかな?」


僕は目の前にある掃除機を指差した。


双子はコクコクと首を縦に振る。


「よし、それなら君たちが僕を襲う必要は全くないよ。なぜなら!この掃除機はもう君たちにあげちゃう。」


これ以上攻撃されるのはまっぴらだった。僕は、どうぞどうぞと差し出す仕草を見せた。


しかし、双子は首を横に振った。


「え、何で?」


僕が不思議そうにしてると、妹がどこから持ってきたやら、白い画用紙に黒い油性ペンで何やら書き始めた。


キュッキュッと紙の上をペンが走る音だけが廊下に響いていた。それを見守る僕と弟。


30秒ほど待つと、ようやく妹の作品が完成した。


"それの使い方わかんない"


それの前には"掃除機"と書こうとして漢字が分からずに辞めたらしく、くしゃくしゃと消した後があった。


「なるほど」


僕は腕を組んで、この厄介な双子をどうしたものかと頭を巡らせた。


「それではこういうのはどうかな?今から、僕がこの掃除機の使い方を君たちにレクチャーしてあげよう。なに、大丈夫さ。これ、めちゃくちゃ簡単だから大丈夫よ。」


僕がなるたけ優しい口調で話しかけると、次は弟が画用紙の裏にペンを走らせ始めた。それを見守る僕と妹。


今度は10秒もしないうちに、作品が完成した。


"お兄ちゃんはこわい たおしたほうがはやい"


そう見せつける弟の横で、妹が姉貴の部屋を指差していた。


どうやらあの惨劇を見られていたらしい。


でもあれは、姉貴がやったことで僕は関係ないんだけどな。


僕が全然納得しないままに、双子は再び武器を手に持っていた。


「いや、その君たちあの...」


僕が話し始めるやいなや、双子は僕に飛び掛かってきていた。僕はそれを掃除機を使って受け流す。


「人が話しているときはちゃんと話を...」


双子は華麗なコンビネーションで僕の急所を突こうと必死だ。きっと姉貴にでも習ったんだろう。


「ちゃんと話を...」


飛び交う日本刀とナイフ。そして、掃除機。明らかに掃除機の人が可哀そう。


そして、このあたりで僕の堪忍袋の緒が切れた。


「...っていい加減にしろぉぉぉぉぉ!」


僕は掃除機を床に落とすと、二人の手の軌道を追う。


二人の手首をチョップして、彼らから獲物を落とさせる。


そして僕は両方の手で拳をつくり、二人へと振り落とした――




(それにしても酷い目にあった...)

(まあ、あれだけ元気なら助けなくても大丈夫だろう...)


すっかり僕の鉄拳を食らって延びてしまった双子を後目に、僕は階段を降り始めた。





--お餅を吸い出せ -3- -終-

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