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花咲く少女は銃を握る  作者: あるみす
1/3

初めての銃撃戦争

 荒野に立つ、およそ四人の小さな人影がまるで太陽に嘲笑われるかの様にゆらゆら揺れている。

 周りには壊れた飛行機や車、加えては戦車までの残骸が転がり、そこら中から漂う血特有の鉄の匂いが辺り一帯に立ち込めている。


「はぁ、はぁ。」


 四人の年端もいかない少女達は互いに助け合いながら残骸を踏みしめて進む。


「何処まで行けば…良いんだろうね…」


 少女達はその体には不釣り合いな重厚な銃を肩に掛け、だき抱えながら不安を漏らす。

 少女達の血濡れた瞳はまるで死人の様に暗く、どんな人でも躊躇無く殺す様な鋭い視線を持っているが、それでもお互いの存在のみが彼女達に残された唯一の、いや最後の希望だった。


 その時、残骸の山の陰からガサッと物音が聞こえてきた。

 少女達はすぐさま武器を構え、音の出所を静かに、そして素早く探る。


 ババババババ


  隠れていた敵兵は銃を間髪入れずに撃ちまくる。


  少女達は寸での所で銃撃に気づき、物陰に身を隠すが運悪く銃弾が一人の左腕を掠りとる。

  痛々しい傷口からは赤い鮮血が噴き出してくる。


「ミカ!今!」


  怪我をした少女がそう叫ぶとミカと呼ばれた少女がスッと影の中から身を現し、敵兵に肉薄する。


 敵兵はそれに気づき、銃を構えるが。


 「…させない」


  ミカの後方から物静かな少女が小さく呟きつつ、拳銃を一発、乾いた音を立てて発砲した。


  弾丸が敵兵の持つアサルトライフルの銃口に正面から直撃し、鈍い音を立てて銃身をひしゃげる。


 「くっ…」


  敵兵がくぐもった声を上げるが、時すでに遅し。

  懐に潜り込んだミカが血に濡れたナイフを抜き、素早い手つきで敵兵の喉を切りつけた。

 

 「かはっ…はっ…!」


  敵兵は喉を斬られ、声も発せられない状態で流れ出す大量の血液が喉に詰まり窒息。暫くするとピクリとも動かなくなってしまった。




「メアちゃん!大丈夫!?」


  先ほど銃弾が掠り、負傷したメアという少女の元に三人は集まり、衛生兵兼通信士であるノノが素早く手当を施す。


「ありがとノノ。掠っただけだし大丈夫だよ」


 メアは左腕を動かし、大丈夫なことをアピールする。


「でも本当これで何人目よ……キリがないったらありゃしないわ」


「後少し……それでこの戦争が終わる……」


「ルエちゃん…」


  ミカの呟きに対して静かに応えたルエと言う小柄な少女は身長と同じくらいの大きな狙撃銃を背負い、その血濡れた銀髪をなびかせている。


「早く……終わればいいのにね。私、みんなが傷つくのはもう見たくないよ……」


  泣きそうになっているノノを包みこむ様にメアは抱きしめ、優しく声をかける。


「大丈夫。わたしが皆を守るから。絶対誰も傷つけたりなんかさせない」


「メアちゃんっ…」


  ノノも震える手でメアの体を抱きしめ返す。

  二人を見つめるミカやルエの目は優しく、二人は少し笑いながらメアにツッコミを入れる。


「そういうけど、さっきもあたしに助けられてたよね?メア」


「……メアは危なっかしい」


  二人から指摘を受けたメアは頬をむっと膨らました。


「それは言わないお約束でしょー!折角良い雰囲気だったのにぃ」


「あはは!ったく二人だけでいちゃいちゃしてんじゃないわよ!混ぜなさいよね!」


  そう言ってミカとルエも抱きつく、四人で抱き合いながら笑いあっている様はどう考えても戦場とは思えない程に柔らかい空気に包まれており、さながら戦場に咲く四輪の花の様だった。






  四年前


  「はやくはやく!もう時間来ちゃうよ!」


 「ちょ、ちょっと…メアちゃ、速い…」


 「ノノ、荷物貸して!あと少しだから」


 「………メアが道を間違えなければ」


 「あぅ…ルエぇ…それは言わないでぇ〜」


  四者四様の声を上げながら街を全力疾走する四人の姿。


  彼女達の目指す所は軍属の施設である広大な試練場である。今日は一年に一度ある軍主催の入隊試験で、そこで好成績を残せればそのまま軍に配属される事になる。


  戦争時代の現代の政治体制では軍属である証明さえ出来れば国から多額の援助が受けられるので少年少女問わず、軍属を目指して試験を受ける者は多い。


  その女子の部にエントリーしたのは良いものの、メアが一人で突っ走ったせいで道に迷い、結果的に時間がギリギリになってしまったのである。

 

 「あとっ…すっこしー!」


  全力疾走で広場の門を4人同時に潜った直後、ブザーが鳴り響いてガタガタと重い音を鳴らしながら門が閉められた。


 「あっぶねー…」

 

  ミカが閉められた門を見つめながら声を漏らす。

  横では肩で息をしながらその豊満な胸を上下に揺らしているノノが大分グロッキーになっているのでミカが自分とノノの荷物を背負いながらノノの背中を優しくさする。


 「ほらほら!早く受付に行かないと!」


 「ほんと、アンタはどれだけ体力有り余ってんのよ…」


 「バカの一つ覚え…」


  メアの底なしの体力と明るい性格にミカとルエは呆れるが、時間が押している事も確かなのでノノを支えながら受付の場所へと足を向けるのだった。





 「はい、受け付けました。メア・アルメイヤさん、ノノ・アスタシアさん、ミカ・エルマイラさん、ルエ・カリオストさん健闘を祈ります。つきましては準備がありますのであちらに見える建物へ向かってください。」


  なんとか受付を済ませた4人は案内された通りに道を進み、準備室へと辿り着いた。


 中に入ると担当の隊員に戦闘用の迷彩スーツを渡され、更衣室にてそれぞれスーツに着替える。


 「どお?似合ってる?」


  メアがいち早く着替えてミカの前でくるりと回って見せる。


 「まぁ、似合ってるんじゃない?」


  ミカはメアを一瞥すると流すように返事をする。


 「流さないでよ〜」


  頬を膨らますメアの容姿はさながら、元気っ子その物だ。

  太陽の様な明るいオレンジ色のショートカットで後でひと房ポニーアップを作って元気さを更に引き出している。また、年頃の少女の平均位には育った胸や身長は見る人に安心感を与える。


 「メアちゃん、よく似合ってるよ?」


 「ノノ、ありがとー。ノノも似合ってるよー」


 「ありがとう、メアちゃん」


  クリーム色のふわふわとした毛質の髪の毛を束ね、邪魔にならないように後で括っているノノ。おっとりとした性格で優しく、それでいて賢い。加えて、背はメアよりも少し低い位だがとにかく出る所は出ているので、とても十代半ばには見えない容姿をしている。


  そんなノノの背後にそろりと回ったミカが後ろからノノに抱きついた。


 「ひゃっ!?」


 「むむむ…同い年でなんでここまで差が生まれるのかしら…」


  ミカはノノの持つ豊満な胸を揉みしだきだしたのでノノは顔を紅く染めながら振り払うように身をよじる。


 そして当のミカはと言うと、ノノよりも明るい煌めくブロンズの髪の毛を可愛らしくツインテールに纏め、ツリ目がちな碧色の瞳が綺麗に輝く整った顔立ちをしている。


 本人も明るく楽しい事が好きなのだが、主にメアが暴走しがちな事や、体力の無いノノの事も気にかけている面倒見の良い性格のためか三人の保護者の様な立ち位置の子である。


 加えて、悲惨なのがミカは驚く程に育っていないのだ。しかし、背は高くスタイルは抜群にいい為に男と言うより女に人気のある容姿なのがこのミカと言う女の子だ。


 「大丈夫…女の魅力は胸だけじゃない…2割くらい」


  二人の様子を見ていたルエがミカに一言励ましなのか声を掛ける。


 「8割がた胸じゃないのよ!!それにルエだってどっちかって言えばこっち側でしょ!?」


 「大丈夫…それでもミカよりは……ある」


  ミカとは対照的に銀色に輝く髪を短く切りそろえた少女ルエは背こそ小さいく、胸も小さい事に変わりないのだが、ミカよりは育っているのだ。


  言い換えれば『それほどまでに』ミカのは無いのだ。

 

  ミカが綺麗なお姉さんならルエはジト目がちな所や無口な所から小動物の様な愛くるしさを醸し出している。

 

 「うぬぐっ……」


  そして、ルエの言葉にトドメを刺されたミカはそのままノノに体を持たれかかるように体から力が抜け落ちる。


 「み、ミカちゃん。大丈夫?」


 「大丈夫…ちょっと神様を恨んだだけだから…」


 「ミカちゃ……」


  ノノがミカを慰めていた所にドアを開けて女性の隊員が入ってきた。


 「時間が押してますので早くしてもらえますか?」


  如何にも怒っている雰囲気を醸し出しているその女性隊員に圧倒された四人はすぐに荷物をまとめ、部屋の外へと出て試験会場へと走ったのだった。





  試験会場の前に並べられた椅子には100人程の試験志願者が腰掛けており、メア達の到着をずっと待たされていたために、中には四人をキツく睨みつける人もちらほら見受けられる。


 「すみませんー…」


  メア達は小さく謝罪を入れつつ、四人並んで最後尾の椅子に腰掛ける。

 

 「さて、全員集まった様だな!これから試験の内容を説明する。私はカトラス軍所属のアーミラ少佐だ、今日は一日よろしく頼む。」


  志願者の前で大声で話し始めた若いが如何にも厳しそうな女性に全員の視線が集まる。


 「これからお前達には四人一組のフォーマンセルでここの廃墟と化した旧市街地を舞台にバトルロワイヤルを行ってもらう。

  銃弾や爆弾には、塗料が入ってるから被弾した際にその塗料が付着した者は脱落だ。

  ただし、被弾してから塗料が乾く十五分以内に特別な薬品を使って落とせれば脱落にはならない。

  そして、フィールド上にある物は何を使ってもいいし、何をしてもいい。

 それぞれ評価点を随時加算していき、そのトップが晴れて我がカトラス軍に入隊となる。また、一位には大量のポイントが加算されるのでその様に。何か質問はあるか?」


  アーミラ少佐から放たれる威圧で気圧されている中、一人の少女が手を挙げた。


 「そこの、オレンジ色の。言ってみろ」


 「はい!」


  周囲の視線はまさかのメアへと注がれる。いや、驚いているのは間違いなくミカ達三人なのだが…


 「気になったんですが、加点の基準はあるんですか?」


 「ほう、遅れてきた上にこの中で手を上げるとは貴様中々肝が据わってるみたいだな。…いい質問だが答えはノーだ。加点方法は秘密、自分達で考えるんだな!」


  吐き捨てるようにそう答えるとアーミラ少佐は台を降り、部下に続きを任せて建物へと入って行ってしまった。


 「では、参加者の皆さんはここに並べてある武器から好きなのを選んで指示された指定のポイントへ向かってください」


  女性隊員の号令でそれぞれチームを組んでいる人達は一斉に銃を手に入れんと駆け出した。


  未だにその場に残っているのはメア達四人を除いて4チーム。皆、それぞれの出方を伺っているらしいく、ノノも瞬き一つせずに観察していた。


 「ちょっとアンタはどんな度胸してるのよ!」

 

  ミカがメアに近寄り、少し顔を引き攣らせながら先程のメアの行動を問いただす。


 「えー、だって質問しろって言ったのはあの人でしょ〜?」


 「そうだけどっ!あんな状況で声を出せるアンタがおかしいのよ!」


  近寄るミカにメアは少し頬を膨らませながら嫌そうに反論する。


 「でも、得られた情報も大きい…」


  そんな二人を見かねたのかルエがフォローを入れた。

  その情報と言うのも加点方法が秘密だというだけなのだが。


 「それはそうだけど…」


 「ほらほら〜、ミカも私に感謝してくれていいんだよ〜?」


  軽く煽り口調のメアにミカは小声で一言付け加える。


 「……あんまり、無茶なことはしないでよ?誰一人だって失いたくないんだから…」


  ミカの瞳はメアでは無く遠い所を、いや過去を見ているかのような目をしている。


 「大丈夫だよミカちゃん。私達は生き残る為にここに来たんだから」


  一通り観察を終えたノノがミカを抱きしめ、安心させるように囁いた。


 「そうだよ!それに、私がいれば何事も上手くいくって!」

 

 「ふふっ、アンタ…それ根拠ないじゃないの…」


 「為せば成る…短いけどいい言葉」


  誰かが落ち込んだ時は他の三人が慰める。そんな、お互いがお互いの事を常に考えている関係が四人の中には強く根付いているのだ。


 「ほら、早く行かないと強いの無くなっちゃうよ!」


  メアはミカの手を引き、武器の置いてあるテントへと走るので、遅れないようにノノとルエも二人の後を追うのだった。





 「わぁ〜沢山種類があるんだね〜!」


  目の前に並べられた沢山の様々な銃やナイフの数々にメアは目を輝かせる。


 「強くて有名なやつは軒並み取られちゃった見たいね。……どれがいいのかしら」


  取られたあとの武器の名前が書かれたあとのプレートを見てミカが声を漏らす。初心者からするとどれを選べばいいのか検討もつかないのが銃選びの難点だ。


  悩む三人に救いの手を差し伸べたのは他の誰でもないノノだった。


 「だから、少しは知識を入れとかないとって言ったのに…」


 「ノノ、どれを使えばいいか分かるの!?」


 「一応勉強してきたからね」


  ノノはそう笑顔で答えながら事前に勉強した初心者用の武器を探していく。


  余っていた銃の中から二丁探し出し、メアとミカに手渡した。

 

  メアには黒塗りのミカのより少し短めの小銃、ミカのは所々に木製の部分が垣間見える、使いこなされた小銃だった。


 「おっと…結構重いのね」

 

  小銃のずっしりとした重さに目を丸くするミカにノノは言葉を続ける。


 「まずはメアちゃんとミカちゃんに。メアちゃんのはM4って言うアサルトライフルで反動も他のよりは小さいから扱いやすいと思う。次はミカちゃんのだけど、ミカちゃんのはAK47Ⅲという銃で、反動も大きいしメアちゃんのより重いけどミカちゃんなら大丈夫だと思う」


 「なんでメアと同じじゃないの?」


  ミカが不思議に思ったのかノノに尋ねる。


 「えっと…威力の問題かな。ミカちゃんはメアちゃんより力もあるから少し重いのでも大丈夫かなって」


 「そ、そう…考えがあっての事なら言うことは無いわ」


  納得した様子のミカはメアに連れられて他の装備を見に行ったので、次にノノはルエの銃を選ぼうとルエの方に振り返る。


 「ルエちゃん、何か使ってみたいのとかある?」


 「…ん?わたしは狙撃をやる…よ?」


  そう言ってルエはおもむろにある狙撃銃を手に取った。


 「ルエちゃん?その銃って…」


 「……このフォルム、重さ、木や鉄の質感や塗料が禿げた部分といい全てにおいて完璧…!」


  ルエは何時になく目を輝かせてその身長と変わらない大きさの狙撃銃、ドラグノフ狙撃銃を抱き抱えながら目をうっとりとさせている。


 「ルエちゃん、それで行くのね?」


 「…うん、大丈夫!」


 「じゃあ、他の装備も見に行こっか」


 「…りょう、かい」


  ノノはルエの手を引きつつ、メアやミカの居る拳銃や爆弾系の武器が並べられたゾーンに行く。


 「ほら、これとか使いやすそうじゃない?」

 

  メアはイタリア製のベレッタ92FというベレッタM92のロングスライドモデルの拳銃を構えてミカに見せびらかしている。


 「そう?こっちの方がなんかしっくりくる気がするわ」


  ミカが手にしたのはアメリカ製のAMTハードボーラー。ガバメントのスライド部分をステンレス製にしたのが特徴の.45口径銃。


  二丁の拳銃とも使われてきた歴史の長い列記とした名銃である。


 「二人とも拳銃は決まった?」


 「うん!」「もちろんよ」


  ノノの呼びかけにメアとミカは笑顔で直感で決めたそれぞれの拳銃を指さす。


 「ノノ、その重そうな荷物は何?」


  ノノの背中にはメアと同じアサルトライフルと重そうな救命道具が背負われていた。


 「私は衛生兵をやるから。皆そういうの苦手でしょ?」


  今回の特殊ルールにおいて塗料を落とせる薬品を持てるのは衛生兵を担当する者だけという決まりがある。

  薬品だけでなく他にも大量に積まれた医療器具は怪我をした時の為である。


  いくら死なないと言えど銃弾を浴びるので激痛はあるし、最悪骨が折れたりもするからである。


  ノノは笑顔でその理由を話し、他の三人の顔を見回す。


 「ノノ…ごめんね?いつもそういう役回りばかりやらせちゃって…」


  ミカが申し訳なさそうにノノに一言謝るがノノはそれを笑顔で否定した。


 「心配しなくても大丈夫だよ。それに、私はどっちかって言うと皆を治してあげられる方が性に合ってるから」


 「な、何か手伝える事とかあったら言ってね?それに、ノノの事は私達で絶対守るから!」


  ミカは隣にいるメアとルエをグイッと引き寄せる。


 「ミカばっかりカッコイイ台詞持って行ってー、私だってみんなのこと守れるんだから」


  メアが少し頬を膨らませながらミカを見上げて抗議する。

  それに対してミカは不安そうな表情を浮かべるのだった。


 「あんたは一番心配だわ…」


 「えー、なんでさー」


 「……メアはおっちょこちょいでせっかち。一言で言うと危なっかしい」


 「ちょっと、それだと私が落ち着きが無い問題児見たいに聞こえるんだけど!?」


 「そう言ってるのよ!!」


 「あははっ、皆頼りにしてるからね?」


 「任せて!」「任されました♪」「…りょう、かい」



 

 「さてと、いよいよ始まるんだね」


  残りの兵装も整えたメア達四人は指定されたスタート地点へと足を運び、三分を切ったカウントダウンを緊張した面持ちで眺めていた。

 

  無意識にかメアの手は両手で抱えているM4をギュッときつく握りしめた。


『それでは試験を開始します』


  頭上のスピーカーから聞こえてくる試験の開始を合図する号令と共に目の前の鉄の扉がゆっくりと重い音を鳴らしながら開いていく。


 「みんな、ちょっといいかな」


  メアが四人を振り返りながら話しかける。


 「どうしたの?緊張してるなんてあんたらしくないわね」


  ミカも少し心配そうにメアの顔をのぞき込む。


 「ミカ、ノノ、ルエ…うまく言えないけど…やっとここまで来れたんだから悔いの名残らない様に全力で生きよう!!」


  メアの気合の入った声を聞いた三人は一瞬目を丸くするがすぐに頬を緩ませて、三人一緒にメアの頭に手を伸ばした。


 「な、撫でないでよ〜。わたし何も変なこと言ってないじゃん!」


  メアが照れながら身を悶えさせるが三人は撫でるのをやめようとはしなかった。


 「メアの口からそんな言葉が聞ける日が来ようとは思ってなかったのよ」


 「ふふっ、ミカちゃん言い過ぎだよ〜。でも、そうだよね。やっとここまで来れたんだ…絶対、四人で勝とうね」


 「……私達は運命共同体、だから」


  ミカ、ノノ、ルエの言葉にメアは力強く頭を縦に振る。


 「絶対、皆で生き残るよ!!」



  これがメア達が戦争の世に足を踏み入れた原点になる。

  少女達はさながら荒れ果てた荒野に植えられた四つの種の様だった。






  ついに火蓋の切られた入隊試験。

  各々のチームがそれぞれ10キロ四方の壁で囲まれた旧市街地へと入っていく。


  それはメア達も例外ではなく四人はメア、ノノ、ルエ、ミカの順で一列になって周囲を警戒しながら少しずつ足を進めていく。


  周りに広がるのは荒れ果てた少し昔の街並み。使い捨てられた人形や壊れた家屋、加えてはタイヤがパンクし、窓ガラスもすべて割れている車等が片付けもされずにそのままの状態で残されている。


 「酷い…ありさまね」


  あまりの光景にミカが思わず言葉を漏らす。

  さっきまで居た街とは時代こそ変わらねど比べ物にならないくらい荒れ果てている。


 「なんでこんな事に…」


  ミカのつぶやきにノノが答える。


 「確か…3年くらい前にこの街が戦場になったはず…その時のを直さないで置いておいたんだと思う…」


 「そうなんだ…これ見ると戦争ってやっぱり物凄く残酷な物ね」


  ミカは周囲の状態から漂ってくる雰囲気から当時の情景を想像して、思わず唇を噛み締めた。





  しばらく歩き続けた四人は中央に噴水跡がある少し開けた広場に出た。


 「なんか、出そうな雰囲気…」


 「映画の中みたいだよね」


  少し腰が引けるミカにノノが続く。


 「それにしても、あんなに沢山人が居たのにまだ誰とも会わないね」


  メアが噴水の縁に腰掛けながらボヤくようにため息をつく。


 「あんたね…変にフラグ建てないでよね。まだ数が多いうちはあまり戦わないに越したことはないんだから」


  ミカが呆れたようにメアに言葉を投げかけている中、キンッという甲高い金属音が微かに響いた事をルエだけは聞き逃さなかった。


  そして、瞬時にその音の出処を確認したルエはいつに無く焦った表情で大声を張り上げた。


 「伏せて!!!!!」


  ルエの突然の絶叫を聞いた三人はギョッと目を丸くするも、突き動かされた様に地面に伏せて体を丸くした。


  直後。


  耳を破壊するかの如く轟音を鳴り響かせながら何かが爆発した。


  先程の金属音は手榴弾だったのだ。


  いくらペイント剤の物を使用しているとは言え手榴弾は手榴弾。脆くなった噴水を跡形もなく吹き飛ばすくらいの威力は兼ね備えているのだ。


 「皆、大丈夫!?」


  メアが伏せたまま顔を上げて他の三人に目を向け、呼びかける。


 「な、何とか…生きてる」「わ、わたしも…」「……問題ない」


  無事を確認したメアはほっと胸を撫で下ろすが災難が去ったわけでは無い。


  手榴弾が投げ込まれたというのはこの近くに自分達を狙っている敵が居るということに繋がる。


 

  即ち。追撃が襲いかかってくる事になる。



  後を絶たずに投げ込まれる手榴弾の数々に為す術なく四人はその場から動けなくなってしまった。


 「このままじゃいつ直撃してもおかしくないよ!?」


 「だからって何が出来るのよ!」


  メアとミカが言い合う中ノノは真顔のまま頭をフルで回転させていた。


 「ルエちゃん、手榴弾が投げ込まれてる方向って分かる?」


  その質問に聴力が常人離れしているルエがコクリと頷いた。


 「……西、東、南からっ」


 「ありがと。なら北だけが大丈夫なのね…」


  ノノはルエの情報を元に作戦を立てるが依然として険しい表情は崩れない。


  少しして心を決めたのかノノは三人に作戦を説明した。





 「良し!皆やるよ!!」


  メアの掛け声を合図にメア、ミカ、ルエの三人がそれぞれ北以外の方角に向かってスモークグレネードを投げつけた。


 「走れ!!」


  四人は敵の目が眩んでいる隙に北へ向かって全力で駆け出した。






 「そうだ、そうだ。それでいいんだ…くひひっ」


  その様子を逐一見ていたのはメア達と敵対しているチームのスナイパーだった。


  彼女達は噴水広場に入ったメア達を逃がさない様にあえて当たらない距離で手榴弾を投げ続け意図的に北、即ちスナイパーが待ち構えている方角へと誘導したのだ。


 「狙撃はやっぱ…こうでなくっちゃ」


  何故狙撃銃を持ちながら伏せているメア達を撃たなかったのかは彼女のイカれた性癖に関係する。


 「目、目…目を、撃ち…抜くっ…!」


  スコープを覗き込み、ルエの右目に照準を合わせるとゆっくりとトリガーに指をかけるのだった。






  北へと走る四人は死に物狂いで足を動かす。


  しかし、そんな状況下においても冷静に物事を考えられるノノは腑に落ちない敵の作戦に疑問を抱いており、無意識のうちに腰に吊っているフラッシュグレネードに手を伸ばした。


  そして、それが功を奏したのか少し離れたビルの上にキラリと光る物が目に入ったのだ。


(だめだっ…やっぱり罠だった!)


  そう思った時にはピンを抜いてフラッシュグレネードを後方上空へと投げ上げていた。


 「皆!目の前の建物に逃げ込んで!」


  直後ピカッと眩い閃光が辺りを染める中ノノ以外の三人は驚きつつも走り続け、なんとか建物の中へと逃げ込むことが出来た。


 


 「はぁ、はぁ。なんっとか助かった…」


 「死んだかと思った…」


  四人は二階の一室に逃げ込むと肩で息をしながら胸を撫で下ろした。


 「ほんと、ありがとー。ノノが居なかった今頃やられてたよー」


 「ううん、全然そんな事ないよ……それより、ルエちゃん怪我してるじゃない!」

 

  先程からあまり声を出していなかったルエの左腕からはペイントが付着しており、掠っただけのようだがその威力は凄まじい為痛みも尋常ではないのだ。


  ノノは素早く背負っていたバッグを下ろしてルエの治療に当たり、メアとミカはこの後のことを考え始めるのだった。

 

  メア達四人の初戦闘の火蓋はこうやって切られたのだった。






  「ちぃっ…やるな。あの女…」


  狙撃銃で四人を狙っていた少女はスコープ越しにあの閃光を見てしまった為に一時的にだが視力を奪われていた。


  冷や汗をかきながら腰のトランシーバーに手を伸ばし一言だけ呟いた。




 「殺せ」


知り合いの元自衛官の方と雑談をしていた時にふと話に出たアイデアを纏めた作品になります。


戦闘シーンや装備については監修を行ってもらってますので間違いは無いはずです。


1ヶ月1話ペースでの更新を心がけていく所存です。

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