第8話『頭の中に聞こえた声』
「幻生…左腕を出せ…ちゃんと…服の…袖を…捲れよ…」
「お、おう」
俺は戸惑いつつも、竜玄に言われた通り袖を捲って左腕を出した。
すると、その腕を掴んで、少し笑った。ちょっと怖い、普段なら絶対突飛ばしてる。というか、突飛ばしたい…。
「よく……育ったな…これなら…大丈夫…そうだ…」
そう言って、竜玄は、かなり安心した顔になった。
しかし、それも一瞬だった。
すぐに真剣な顔になり、空気が変わった。病室内の魔力が通常ではない、異質なものになっている。
その原因は、俺の腕を掴んでるコイツのせいだろうが………。
竜玄から異常な量の魔力を感じる。それに反応し、病室の魔力も異質なものになったって感じかな?
「それじゃ……覚悟は…いいな…」
「ん?何の覚悟?と言うかその前に!その姿どうしたんだよ!?」
竜玄の姿がかなり変わっている。髪の毛が黒から白に、目は、黒から赤になっている。
「……いくぞ…」
少し身構える。
何するんだよ怖ぇぇよ。俺の話聞かないなら最初から質問するなよ。覚悟って何のだよぉ……
「心を…落ち着かせろ…でないと…危ない…からな…」
危ないって何だよおい!そう叫びそうになるのをグッと堪える。
とりあえず落ち着かなきゃ危ない、落ち着かなきゃ危ない、落ち着か……。あれ、どうすれば落ち着くんだ?
「おい…はやく…しろ…」
そう言われても、無理だろ。ヤバい、ヤバい、ヤバい。全然落ち着けない。
ーー"大丈夫だよ、安心して"ーー
突如、頭の中に謎の声が聞こえた。
何故かとても安心する女の人の声。
それに、何処かで聞いたような声だ。この声は確か………
そうだ、あの看護師の声に似ている。俺を此処まで案内してくれて、お礼を言おうとしたら居なくなっていた、あの看護師に……。
だとしたら、俺は二度も助けられたことになる。今度こそしっかり礼を言いたい。ここに居るかは分からないが…、
ーー"ありがとう"ーー
声には、出さない。前に竜玄が居るし、聞かれたら何か、恥ずかしい。
「準備…出来た…みたい…だな…」
そう言うコイツは、良いことを知ったような顔になっている。
あれ、もしかして聞かれてた!?
まぁ、気付けば心は落ち着いている。これなら大丈夫そうだ。
深呼吸をし、覚悟する。
「あぁ、何をするかは知らないがな」
すると、俺の左腕が熱くなった。熱い、熱い、熱い、痛い、痛い。何だこれ……。
「耐えてくれよ幻生。始めるぞ」
まだ始まってなかったの!?
マジか………あれ?、そういえばコイツ、元気になってない?
しかしそれ以上、考えることは出来なかった。竜玄による詠唱の様な何かが始まったからだ。
「我、夏目 竜玄の名において、王との約束以外の俺のすべてを、我が息子、夏目 幻生に与える」
竜玄が短い文を言い終えた瞬間、全身が焼けるように熱を持った。
熱い、熱い………痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い痛い痛い………
「はぁ…はぁ…はぁ……終わった…ぞ……」
その言葉と同時に、さっきの痛みが嘘のように消えた。
「どうゆう、こと、だ?」
「適合した…みたい…だな…」
いったい何をしたんだ?体に目立った変化は無い。適合?もしかして、適合出来なかったらヤバかった?
「あぁ…もし適合…しなかったら…死んでた…からな…」
「し、死ぬ!」
いつの間にか、殺されかけた!?
てか、普通に心読むの、やめてくれません?
「お前、よくそんなこと!」
「まぁ……適合……したか…ら……いい…じゃ……ない…か……」
全然良くないから!それに…、
「あの時、あんなに元気だったのに、何でまたそこまで弱々しくなってるんだ?」
「あれは…ただ…自分の魔力……で…無理矢理……強化……しただけ……だ…。だから……この…通り…、命を…削った…けど…な……」
命を削ったって…ただでさえお前、もう死にかけてんのに……。
「俺が……死んだら……葬式は…しなくて…いいから…。あと…面倒な……書類…は、…すべて……やっておいた…………」
「それだと死んでないのに、死亡届を出したってことになるぞ」
「その…とうり、…俺はもう……書類上…では…とっくに…死んでる…ことに…なってる……だから…お前に…面倒事が……回る…こと…は…な…い……」
そう言うと竜玄は、力尽きたようにベットに横になった。まだ死んではいない。
だが、時間の問題だろう…。今にも死にそうだ。
なのに何故。
何故コイツは笑っているんだ。自分がこれから死ぬって時に、何で笑っていられるんだ。
「そう…だ……。いい…忘れ…て…た…事…が……………」
「何だ?」
そう答えると、竜玄は更にニコッと笑って。
「お……ま……え………の……………………ぶ………き……」
「何だって?」
よく聞こえないな。もっとはっきり言ってくれよ、まったく。
「おい、もっとはっきり……………」
話し掛けようとして、違和感に気付いた。竜玄の呼吸が聞こえない。嫌な予感がする。
「えぇぇ………こうな感じのって、最後まで聞けるもんじゃないの!?」
そんな俺の叫びが病室に響いたこの時、魔王であり、俺の唯一の肉親である夏目 竜玄は、俺の前で最後まで笑顔を消さず、安らかに息を引き取った。