第5話『プライドは捨てよう』
朝食を済ませた後、俺は歯を磨き、寝間着から『戦闘服』に着替えた。普段の私服も一応あるが、外に出るときは絶対に『戦闘服』を着ることが、竜玄との約束だ。
昔からしている約束だか、一度死にかけた時からは、絶対に守るようにしている。
「さて、行きますか」
病院に行くための準備が終わり玄関に立った。普段は、自分で開けることがないドアにドキドキしながら、ドアを開け外に出る。
「いってきます」
この言葉も初めて言った気がする。初めてだらけで、一つ一つが楽しい。
そんな興奮を一旦鎮め、自転車に乗って病院へ進むのだった。
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魔王が倒されてからこの王国は、魔法だけでなく科学も進歩した。町には魔力ではなく電気が通り、街灯がある。道路は土を固めたものではなく、アスファルトで出来ているのだと思う。
つまり、何を言いたいかと言うと、自転車って素晴らしい。
この素晴らしい乗り物を考えた奴、マジでよくやった。空気を切って進むこの感じ、たまらない。乗れるようになるのは大変だったが、それに見合うだけの楽しさがこの自転車にはある。
そんな風に楽しんでいたら、病院に着いてしまった。
よく考えてみたら近くないか?
家からの距離が200メートルぐらいしか、離れていないように見える。自転車をもっと楽しみたいのに、これじゃあ近すぎる。
でもこれからいっぱい乗るわけだし、この楽しみはまだ残しておこう。
自転車を駐輪場へ置き、しっかりと鍵をかけて病院に入った。
入ったのはいいが、どうしよう、何すればいいんだ?
そのまま病室に行けば良いのか?受付に行くのか?
俺は立ち尽くすしかなかった。
そんな俺を見てか、女性の看護師が声をかけてくれた。
「君もしかして、幻生くん?」
「はい、そうですが…」
何故俺の名前を知っているんだ?この人とは初対面のはずだけど、俺の名前を知ってるってことは、アイツが話したのか?
「やっぱりそうなのね。竜玄さんから聞いてるわ。幻生がここまで来れるか不安だからって頼まれたの」
やっぱりそうなのか。少しイラッとくるが、困ってたのは事実なので、何も言えない。
「そうなんですか、助かります」
「うん。ちゃんと付いてきてね」
「はい。お願いします」
ここはとりあえず、プライドは捨てて、頼るとしよう。だって行き方分からんし。病院まで来れたのも偶然だし…。