#2 ラムネと花見の誘い
その年、僕たちは春になったら別れが待っていた。高校を卒業し、早い者はもう車の免許を取っていた。僕たちは郊外の森の中に秘密基地を作っていた。ベニヤ板を張っただけの簡素な造りなのだがプレハブ小屋に近い作りになっていた。外側からの鍵と内側からの鍵がついていて外側はダイヤル式の南京錠をかけていた。窓は板をずらして開ける簡素なものだったが、近くの農家のおじさんから貰い受けたネットが張ってあり、蚊の侵入くらは防ぐことができるようにしてある。だが、トイレはない。
今更そんなところで遊ぶような年でもないと思うが、そこらへんは遊ぶには絶好の場所だったと思う。飲み物は買うしか無かったが、以前買ったり、お祭りなどで手に入れた御菓子があり、4、5日は篭城できるようになっている。そんな中で山城和孝は友人の大沢修司と吉田将大と一緒に居た。山城は卒業式が終わって春になる前に自動車免許をとっていて暇をもてあましていた。眼鏡をかけていて色々なことを知っている僕らのリーダーで僕たちは兄弟といっても過言ではないほど仲がよかった。一方の大沢修司は大沢酒造という酒屋の跡取りであり、高校の頃学食で和食しか食べないという奴だった。酒造家のため、納豆を食べないし、食わず嫌いをしていて僕と同じくらい細い体の少年だ。吉田将大は体が大きく185cmを超える高身長でありながら体重も100キロ近くある男である。あだ名はまんま大将。
コンッ! ココンッ! コン! コン!
合図のノックをして僕が秘密基地の中に入ると閂を外す音がして迎えたのは修司の奴だった。カードを配るディーラー役もしているようだ。やっているのは大富豪なので目を離していても問題ない。賭けもしていないようだ。
僕も混ざろうとすると
「悪い。弟、一弥。もうすぐ終わるから待てよ。八切って革命だ!どうだ」
和孝が言う。一弥というのは僕の名前だ。
同じカズという名前から数々コンビ。或いは数々兄弟と言われることがある。勿論血は繋がっていないし義兄弟にもなってはいない。だがいずれは彼らと義兄弟になるのかもしれない。
「悪い革命返しだ。そう簡単に和孝に勝利の女神様に微笑ませるわけにはいきませんな」
言ったのは大将だ。にんまりと笑う。
「ちぃっ!革命されたんで俺が有利だったのに」
修司がため息をつきながら言った。
「修司、お前前半に強いカード出しすぎなんだよ。わるいな。これで俺の上がりだ」
大将が言って一番に上がった。
「あっそれで俺もだな」
と修司が上がった。
「何だよ。チッキショウ。俺の負けか。次だ。兄弟、お前もやるだろう」
「ああ。だけど大富豪ってのもな。どうせならポーカーでもしねぇか」
僕が言うと
「いいぜ。だが、将大の奴も和孝も一弥もイカサマしやがるから今回はしねぇって約束できるか。できるならこれを出してやる」
そう言って修司が出してきたのはよく冷えたラムネだった。大沢酒蔵製のラムネは美味しいと評判で市販品よりも少し高いため、そうおいそれと手が出せない。
それを知っているため、最終兵器に近い。
「それ出してもいいけどアイツが来たらもう一本もう一本って飲むからアイツが来る前に飲んでしまわないとな」
僕が言うと
「アイツは俺よりも体重無いくせにデブの特徴の悪いところ全て持っているからなぁ」
将大が同意する。
「一人一本だというのにそのこと忘れてこの間飲みやがったからなぁ」
コンコンコン!
と激しくノックする音がする。
「ねぇ!開けてよ!」
「「「「そのノック合図と違うが?」」」」
僕たちはユニゾンして言う。
「ごめんまた忘れちゃったんだ。お願いだよ開けて」
「「「「柴田」」」」
柴田健之。身長は俺と同じ位だが体重が倍くらいある小太りの男。お調子者であり。こういうミスをしまくり、先程から噂になっている少年だ。
「じゃぁ、ラムネがあるけど、一人一本だからな」
「えっ!やったぁ。早くいれてよ。飲みたい」
そう言ってきたので仕方なく入れてやった。
ようやく皆定位置に座り僕がカードを切って配り始めると修司がラムネを配る。
「俺は一枚チェンジだ」
兄弟が言って僕が一枚交換する。
「僕は三枚交換したいな。ねぇそれよりそろそろ皆お別れだろう。俺達。そこでだ。最後に花見でもしないか」
早速、ラムネを飲んでニンマリと笑いながら健之が言う。
「「「「いいなぁ。それ」」」」
四人で同意した。
「じゃぁ、先ずはこの勝負「「僕が」」「「「俺が」」」「「「「「「勝つ!」」」」」」
「「フルハウス」」
兄弟と大将が言う。
「ちっ!フォアカードだ」
僕が言う。
「同じく」
と健之がカードを開いた。
「じゃ、今回は俺の勝ちだね。ストレートだ」
修司が言った。