会社③
夕方、事務所にいた工場長(社長も兼ねてる)の所に、裁断のリーダーがやって来た。
『生地の入りが遅れていて、もしかしたら、縫いがストップしてしまうかもしれません』
『えっ?マジで?ヤバいんじゃないの?』
工場長は、53歳。
年齢の割には、子供っぽい言い方をする。
『どうしたものかと、相談に来たんです』
工場長と同級生の、裁断のリーダーが落ち着いて話す。
『まだ先の納期のやつを、2型裁断してあるんですが、それを入れてもいいでしょうか?
ただ、枚数が、2型で150枚しかなくて、入れたとしても、安心は出来ませんが』
『ん~~仕方ない。入れて。で、生地が入ったら、すぐに、裁断して。
2型のは、途中でも止めるから』
『ありがとうございます』
生地が入らないと仕事にならない。
生地の他にも、型紙、付属のブランドネーム(ブランドの名前の入ったやつ)、リボンテープ、ボタン、スナップ…これらが全部揃わないと商品が出来上がらない。
事務所から出ようとした、裁断のリーダーが振り返った。
『あと…父を介護しなければいけなくなりました。
妹と2人で交代でしますが、休みや早退、遅刻が増えるかもしれません。
会社への迷惑は最小限にしたいと思っているので、よろしくお願いします』
『あぁ?じゅんこ(裁断のリーダー)、お前、何言ってんだ?
そんなんで休むってか?』
工場長は、すごく不機嫌な顔になった。
『工場長の高齢のお母さんは、工場長の奥さんが介護するでしょうが、私のとこは、母が亡くなってるんです。
親を介護するのは、私と妹だけなんです。
確か、介護休暇ありましたよね』
本当に冷静な、裁断のリーダー。
工場長は、顔を真っ赤にして
『バカか?介護休暇なんて、今まで誰も使ってないんだよ!』
『使わせてない…ですよね。
介護休暇もらえないなら、休みで結構』
裁断のリーダーの勝ちだな。
工場長は、何やらぶつぶつ言っている。
災難が降りかかる前に帰らなきゃ。
内川目さんは…
早っ!もういない!
完ぺき定時退社!
私も、そそくさと退社した。
会社を出て車に乗るとホッとする。
エンジンかけて、大音量のCD。
今日は、ちょっと遠回りして、街の夜景が見える所まで行ってみよう。




