会社②
お昼になった。
私はデスクに戻ってお弁当を広げた。
まだミシンの音がする。
『事務は楽でいいわね~』
ミシンのリーダー、川原さんが、事務所を覗き込んでいく。
ミシンのリーダーが休憩室に入って、お弁当を広げた頃に、ミシンのメンバー達が休憩に入る。
みんなが、お昼休憩に入った頃には、すでに12時20分。
賑やかにおしゃべりしている。
おしゃべりの中心は、ミシンのリーダー川原さん。
どんな話でも、自分に持っていく。
『あの…』
ミシンの、なぎさちゃんが、事務所に入ってきた。
なぎさちゃんは26歳。大学を卒業して新卒で入った子。
『何?』
『あの…有休取りたいんですけど』
『有休?』
この会社には、有休は、あっても使えない。使わせてもらえない。
それでも、申請書がある。
全部却下されるんだけどね。
『一応、申請書書いて。工場長に聞いてみるから。有休取れるといいね』
『友達の結婚式なんです。もし、有休取れなかったら、休みの届けを出します』
この会社が、ブラックと言われるのは、有休が取れないことが原因らしい。
まあ、有休あっても、従業員のいじめがひどくて、ブラックの会社もある。
私は、この会社は、まだ一年目。
それまでは、食品加工の会社で事務をしていた。
当時の上司が、仕事は出来る、社員教育が上手、プロ意識ありの、すばらしい人だった。
その人に指導してもらい、上司が定年退職したあとは、私が引き継いだ。
しかし、私より長い人、歳上の人達は、それを快く思わなかった。
すぐに、いじめが始まった。
始めは無視。
次ぎは、あからさまに、私の悪口。
そうして最終的には、嘘の情報が、社内に広がった。
私が、定年退職した上司と不倫していて、今の地位を得たと。
私は、一度も、上司に恋心を感じた事は無い。
ただ、熱心に指導してもらっただけ。
そうして、ある日、工場長に呼ばれた。
『宮沢さん、精神疾患なんだって?
困るな~。そーゆうのは、ちゃんと報告してくれなきゃ。
うちは、精神疾患の人には辞めてもらってるんだよね』
精神疾患?
不倫の噂の次ぎは精神疾患?
この日以来、人間不振になり、本当にウツ気味になった。
残っている有休を使って、会社を辞めた。
だから、有休があるからといって、良い会社とは限らない。
働いている人の人間性も大事になってくる。
私は、なぎさちゃんの有休申請書を工場長に見せた。
工場長は、めんどくさそうに
『うちは人手不足なの。そんなのも分からないの?
なぎさちゃんも、まだ分からないのかな~?
明日の朝礼で話すか。
あ、なぎさちゃんには、有休あげられない。って言っておいて』
人手不足…有休の無い会社には、誰も来たくないよね。
契約書には、有休有り。って書いてあるんだけどな。
私は、なぎさちゃんに伝えようと、休憩室に行った。
『なぎさちゃんいる?』
『なぎさちゃんは、直しが多くて、今直してるわよ』
川原さんが言った。
ミシンのところには、なぎさちゃん、ゆきちゃん、ともみちゃんの、20代がそろって、なぎさちゃんの直しを手伝っていた。
『他の人は手伝ってくれないの?』
思わず口から出る。
すると、いつの間に来たのか、後ろに川原さんが立っていた。
『いつも直しが多くて困ってるのよね~』
川原さんは、手伝う事はせずに、スマホをいじりだした。
私は、なぎさちゃんに、小声で
『ごめん。有休ダメだって』と伝えた。
なぎさちゃんは、分かっていたように、小さくうなずいた。




