会社①
職場までは、好きなジャズのCDをガンガンかけて行く。
これが、私の気持ちの入れ替え方法。
会社は、従業員15人の、小さなアパレル会社。
…と、おしゃれに言ってみたが、実際は婦人服の縫製工場。
一応、ブランド物の婦人服を縫製している。
私は、ここで事務をしている。
『おはようございます』
そう言いながら『宮沢愛』と書かれたタイムカードを手に取る。
そう、私は『宮沢愛』42歳と1日。
『おはよう』
工場長と、事務の先輩が、顔を上げる。
工場長は、メーカーとの交渉や、生産行程、全て一人で行う。
そのせいか、いつも社内を走っている。
事務の先輩は、50代。
おしゃべりで、私の小さなミスも、その日のうちに、社内に知れわたる。
彼女の仕事は、電話に出て、伝言するだけ。
あとは、用もなく社内を徘徊しては、従業員のあら探し。
先日も、ミシンで間違えて縫ったのを彼女に見られた、若い子がいた。
自分のデスクに座ると、目の前にプルーンが3粒。
プルーン?何故朝からここに?
驚いてると、先輩…いや内川目さんが
『頂き物だけど美味しいわよ。鉄分も取れるし。それ食べて、1日頑張ろ‼』
と、満面の笑み。
プルーン、嫌いじゃないから食べました。
でも、お昼のデザートの方が良かったな~
『美味しいです。ありがとうございます』
そう言って振り向くと、内川目さんは、工場長にプルーンをすすめていた。
工場長は
『俺、プルーン苦手なんだけど~』と言ってるが、内川目さんの耳には聞こえていない。
『美味しいですよ。ぜひ食べてみて下さい』
2人のやり取りに巻き込まれないよう、私はパソコンを開いた。
8時半。
朝礼が始まる。
朝礼は工場で行うので、私たち事務も工場に入る。
たくさんのミシン。
裁断機。アイロン台。仕上げ台。壁の棚には、たくさんの糸。
『今日は、〇〇の出荷があります。仕上げの人は、出荷時間に間に合うようにしてください。
縫いの方は、今日から、新しいメーカーの**です。縫い間違えの無いように、ちゃんと確認して進めて下さい』
工場長が話終えると、縫製のリーダーさんが、ひとりひとりに指示を出す。
『ゆきちゃんは、アイロンね。昨日話した通り。
なぎさちゃんは裏地のダーツを縫って、ともみちゃんは衿。道子さんは表地。中村さんは裾。
村田さんはスカートのタック。鈴木さんは、ポケットつけ』
リーダーさんは、私より一歳年上。
結婚するまで、ブランド婦人服の縫製専門に歩いてきた人。
厳しいけど、仕事は完璧で、プロ意識を感じる。
裁断のリーダーも指示を出している。
工場は、事務所と、工場(裁断、縫製、仕上げ)、生地置き場がある。
休憩室は、事務所の隣の和室。
ここは、社内で一番風通しが良くて、好きな場所。
ミシンの音が聞こえてきた。
と、同時に電話。
私が出るより一瞬早く、工場長が出たみたい。
工場長が走ってきて
『宮沢さん、今日、仕上げを手伝って‼
兼田さん休みだって!』
仕上げ部署のリーダーも兼ねてる工場長。
仕上げに、人手が足りなくなると、私が手伝う。
先輩の内川目さんは、私の仕事を代わりにやってくれないだろうから…今日は残業かなぁ?
兼田さんは、パート。
2才の子供のママさん。
保育園に入れたとたんに、風邪やら手足口病やら、色々もらってきては、休む。
ま、子供が小さなうちは仕方ないよね。
アイロンがかけられて、綺麗に仕上がったワンピースをハンガーにかけて、ハンガー用の袋に入れる。
出荷用の箱も、ハンガー用の箱。
ハンガー用の箱を初めて見た時は驚くと同時に、世の中の進化を感じた。大袈裟だけど。




