萩野古参機関士 初指導
真新しい『見習機関士』の腕章をつけ、誇らしげに立つ自分の姿。鏡に写るそれは、何だかまだまだしっくりこない。帽を目深に冠り、外に出る。真新しい仕業服は真っ青で、ごわごわしているけれどもそんなことはどうでもよくなる。それほどにうれしいのだ。そして機関区に出勤する。
ストーブが焚かれた機関士、機関助士の待機所はタバコのヤニのにおいで充満している。やかんがストーブの上にあり、湯気をあげて、中に温かいお茶が入っていることを訴えている。当直の助役さんのところに行って、誰と組むのか聞かないと。
「おい。」
萩野さん?
「お前の指導には俺がつく。解ったな。」
は、はい?だって自分で運転出来なくなるから指導機関士への昇進を蹴ってた萩野さんが?わ、ワケガワカラナイヨ?
「俺に、こんな事させるんだから大したもんだよ、お前は。まあ、飲めや。」
やかんから湯飲みに注がれる熱い茶。それに手を着けて、機関士になることをさらに固く決意する。
「おぅし、とりあえず、覚悟しとけ、俺は甘くねえぞ。」
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テストハンマーを握り、各部を叩きながら点検する。それには慣れが要るけれど、慣らすためにも例え正しい音がわからない状態であろうがやってみている。
「そーじゃない、こうだ。」
あと、入念な注油。油が切れれば発熱や焼損を生じて機関車を壊してしまう。
ペコペコペコペコ…
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「で、今日の乗務の感想は」
やかんからお茶をなみなみと注ぎながら聞く萩野機関士。いや、もうね、なにがなんだか…
「まあ、はじめはそんなもんだな。とりあえず飲めや。」
機関士仕事は妙にお茶が消費される。そんなものだろうか。
「いいか、お前は俺の見立てなら、いい機関士になる。いい機関士ってのはな、運転が上手い機関士でもなければ停止位置目標に正しく止められる機関士でもない。信号を違えず、そして事故があっても冷静な機関士の事だ。」
なれますかねえ?不安で…