10. 南の島 ランカへの船の中
宿屋に戻り、一息ついて、ランカ行への船に乗り込みますが・・・
俺たち4人は、適当に夕飯を済ませて、宿に戻った。
キースは、明日の出発に向けて準備をするとのことでいったん自宅へ帰っていった。
その背中を見ながらナンシーがつぶやく。
「あのキースっていうお爺様。相当強い方のようにお見受けするわ。
100歳とかいってたけど、動きに隙がないもの。
何者なのかしら?」
俺は、キースが元モナーク大海賊団の船長だったことを言うかどうか迷ったけど、ひとまず秘密にしておくことにした。
にしても、さすがナンシー。LV999なだけあって、察しがいい。
キースのなんともしれない余裕というか肝の座った態度に感じるものがあったんだろう。
「あの肩からぶら下げてた鞄な。伝説のアイテムの4次元鞄なんだって。」
「なんですって?!!!!」
ナンシーとシーアの目が輝く。
なんかまた邪なことを考えてる気がする。
「なんでも望むものが出てくると言われてる打ち出の小づちみたいなアイテムよね!
ちょっと、それはスルーできないわ。
キースが帰ってきたら、イケメン君を出してもらうことにする!」
「私は、同人誌!」
「ばかか、お前ら!!! いい加減にしろ!! 変態どもめぇ!!!!」
と俺が、両腕を上げた瞬間、キースからもらった例のあのエロ本がぽろりと二人の目の前に落ちた。
ああああああああああああああああああ
「なにこれ・・・トーマ君・・・こんなのが趣味だったわけ?
ちょっとアタシ以上の変態性を見たわ・・・。この年でただものじゃないわね。」
ナンシーが驚愕の表情でこちらを見ている。
「全身タイツの触手系のドロドロもの・・・ちょっとフェチにもほどがありますね・・・」
シーアが手にとって、あきれている。
俺は、顔から火が出そうだった。
もう色々と説明しても言い訳としかとられなさそうだったので、すっとシーアから本を奪い取り、ゴミ箱につっこんだ。
はぁ・・・、変態属性のおまえらに変態のレッテルを張られるなんて、一生の不覚・・・。
がっくりと肩を落として、「お前らもうねろ」と一言残して、部屋に戻った。
神様、なんでこう物事が裏目にでるんでしょうか?
不運な私を慰めてください。
俺は、大きなため息をつきながら、眠りについた。
翌朝、ランカ行の船着き場で4人で集合して、船の出港を待った。
南の島のランカは、世界の中心に位置するリゾートアイランドだ。
観光客も多く、観光施設も整い、世界中の人が憧れるリゾートだった。
それが、魔物が占拠したことで、一気に危険地域と代わり、人の出入りが極端に減った。
また、火の精霊サラマンダーが魔物に封印されてしまったため、島自体のエネルギーが無くなり、自然が崩壊しているという。
この魔物を倒してほしいとランカの街ではいくつものクエストが乱立していた。
待ってろよ! ランカ!
俺たちが行けば、あっという間に鎮圧してやっからよ。
俺たちが、魔物討伐に闘士を燃やしているとき、ふらりと大男が現れた。
白い長髪に無精ひげを生やし、胸筋が盛り上がったいかにも強そうな男だった。
「よお、キース。昨日はうちの若いのが世話になったな」
「おお、シャーク。久しぶりじゃのぉ。相変わらず派手にやっとるようじゃのぉ」
「そっちは、相変わらずの隠居生活と思ったら、どっか行くのか?」
「ん~ちょっとな。」
「ランカは今危険だぜ。俺たちですら、近寄らねぇ。魔物の侵略が半端ねぇことになってる。
やめたほうが身のためだぜ」
「まあ、ちょっと物見遊山でな」
「忠告はしたからな」
シャークは、背を向けて、どこかへ行ってしまった。
「ねね、あのナイスミドルな色男は何者なの?」ナンシーが興味津々で目を輝かせている。
「ありゃぁ、モナーク大海賊団の今の船長のシャークじゃ。ここまでの大海賊団にした功績者だよ」
俺は、キースの寂しそうな表情をみのがさなかった。
何か彼とは因縁めいたものがあるらしい。
ようやく、ランカ行の船が出る。一日に一本しか出ないので貴重な一本だ。
俺たちは、勇んで船に乗り込んだ。
船の甲板の上に4人で腰かける。
シーアが、モジモジしながらキースに話しかける。なんかいつもより鼻息が荒い。
「あ・・・あのキースさん! そのかばんって伝説の鞄ですよね?
なんでも欲しいものが出てくるんですよね?」
あ・・・もしや・・・昨日言ってた例の同人誌か・・・。
もう、本当に腐ってやがるぜ・・・。
「出すことには出せるが、儂が想像できる範囲のものに限る。
見たことないものや想像できないものは、出せないよ」
「え・・・じゃあ・・・男性同士のラブストーリーとかが掲載された薄い本とか・・・そんなのは・・・」
「ほうほう、それは出せるな」
出せるんかい!!!!!
「お!!!! お願いします!!!」
「乳を揉ませてくれたらな。なんでも代償を払わなければ出せないのじゃ」
シーアが、顔を真っ赤にしながら、何やら悩んでいる。
「おい! いい加減にしろ! 馬鹿かお前ら! シーアも悩むな! そんなことで!
悩む価値もねぇよ! お前は頭の中の妄想だけで十分だろうが!」
「トーマよ、邪魔するでない。シーアの乳が揉めぬからといって、儂に当たるでない」
「ふざけんな!! 揉まなくてていいわ!」
「アタシは、トーマ君の股間を揉みたい」と冷静なナンシー。
「いいかげんにしろ!!」
俺は、吐き捨てて、3人から離れた。
もうやだ。
こんな会話がこれからずっと繰り返されるんだろうな~~。
前途多難すぎるわ。
俺は、船のヘリにきて、海風にあたって頭を冷やす。
大海原が目の前に広がっている。
太陽の光がキラキラと反射して綺麗だ。
なんか今から魔物討伐に向かうなんて想像もできないようなのんびりとした船旅だった。
今時のランカへ向かう人間なんて、ほとんどいないので、船には人気がない。
そんな中、甲板の荷物と荷物の間に目をやると、10歳くらいの少女が膝を抱えて座り込んでいた。
ん? なんでこんなところに女の子一人? 親は?
俺は、ちょっと気になって、声をかけようか迷った。
ちょっとためらって海のほうに目をやって、また少女のほうを見たが、その一瞬で少女の姿は消えていた。
え?! どこいった?
俺は、辺りを見回したが少女らしき人物の姿はどこにもなかった。
俺は、幻でも見たのか?? もしかして・・・幽霊?
俺って、そんなの見える体質だったっけ?
ナンシーがそこにふらりとやってきた。
「どうしたの? そんなハトが豆鉄砲くらったような顔して」
「いや・・・さっき10歳くらいの女の子がそこの荷物の間に座ってたのに、目を離した一瞬でいなくなったんだ」
「珍しいわね。子供がランカ行きの船に乗ってること自体変ね。もしかして、トーマ見えないものが見えてしまった系かもね」
や・・・やめてくれよ・・・いやだよ。現実でも見たくない者にたくさん囲まれてるっつーのに!
ナンシーが兜を脱いで、風に当たっている。
短髪の赤毛が海風にそよぐ。
綺麗に狩り揃えられた髭が男らしさを際立たせる。
黙ってたら、こいつも相当ないい男だろうに。なんでこうなんだろう。
俺は、あまりに残念すぎて、可哀想な気分になってきた。
ナンシーが、いつになく低い声で海を見つめながら話しかけてきた。
「今回の戦い・・・ちょっと厳しいものになるような気がする。
いつもと感じる気配が違うの。
西の森の蜘蛛のようには、いかないわ。
魔王の直下の者が派遣されてる。それを倒せば当然魔王にも知らせがいくわ。
魔王との戦いがより近づくわね」
「俺は、さっさと魔王倒したいんだけど。
お前がいるから大丈夫だろ?
一振りで倒せるんじゃね?」
「どうかしら・・・。いろんな敵と戦ったけど、まだ魔王だけは戦ったことがないの。
私のこの強さが通用するかしら」
「LV999で倒せないやつがいたら、誰も倒せないだろう?」
「それもそうね・・・あんまり深刻にならずに、突き進んでいった方がいいのかもね!」
「ああ、頼りにしてるぜ」
「ま・か・せ・て!」ウィンクして、みんなの元に戻るナンシー。
俺はふと右隣りを見ると、さっきの女の子がいる。
女の子は、じっと俺の目を見つめている。
栗色の目は、何かを訴えているようだ。
何かを言っているようだが、波の音にかき消されて聞こえない。
俺は、耳を口元に近づけた。
少女が言っている言葉に、俺は固まった。
「この船は・・・ランカに・・・行かない・・・難破・・・する・・・・」
俺は、船の行く先の空に目をみはる。
黒い暗雲が立ち込めていた。
この船・・・遭難するのか・・・・
まさかの遭難予告!
ランカへたどりつけるのか?!