7. 西の森 ② ドリュアス
ドリュアスの元にたどりつけるか?!
勇者トーマの冒険は続きます!
底なし沼に飲み込まれた俺たちは、気づいたら地下深く木の根がめぐらされた空洞へ来ていた。
「この おく ドリュアス様 いる おんなのこ たち いっぱいいる」
俺は、ピンときた。あの狩人の妹のアルマもいるはずだ。
3人で暗がりの中を進んでいく。
ノームがくれた松明の明かりだけが頼りだ。
ドシンッドシンッと何かが近づいてくる足音がする。
オークだ!
鬼と熊を掛け合わせたような風貌の巨人だ。
棍棒を振り回して、怪力で押しつぶす攻撃を得意としている。
俺は、目をこらして、敵との間合いをはかり、必殺技の九重連斬を放つ。
9回におよぶ波状攻撃にオークは手がでない。
あっさりと俺は倒すことができた。
数十m歩けばモンスターに出くわすような危険地帯だったが、難なくクリアしていく。
俺も強くなったもんだ。
ナンシーが惚れ惚れと俺を見ている。
シーアも何やら妄想を膨らませて、ノートに書いてる。
今に見てろよ! お前らを超えてやるからな!
何十体もの敵の死骸の山を築き上げて、ようやく奥の間までやってきた。
木と一体化した木の精霊ドリュアスが、禍々しい鎖でがんじがらめにされているのが見えた。
また、村や町から迷い込んだ若い娘たちが、檻に入れられ泣いている。
あの中にきっとアルマがいるはずだ。
敵がいない。
俺はあたりを見回したが、どこにもいなかった。
そのとき、ナンシーが叫ぶ!
「上よ!!!! ボスは、蜘蛛のモンスターよ!」
巨大な黒い蜘蛛が、天上から糸を俺たちめがけて吐き出した。
「業火!!」 ナンシーが蜘蛛の巣を焼き払う。
蜘蛛がすーっと糸を垂らして降りてきた。
「馬鹿な人間が、また食われにきたか。まあいい。ちょうど小腹がすいたとこだ。
いただくとしようか」
蜘蛛の不気味な笑いがこだまする。
「あんまり強気な発言はよしたほうがいいぞ。
もうちょっと相手の力量が図れるもんだと思ったがな。ボスくらいにまでなれば」
俺は、LV999の魔法剣士と12体召還できる召還士を背中にして、ちょっとボスが可哀想になってきた。
「何を小癪な! 人間風情が! 簀巻き(すまき)にしてくれるわ」
そういうとまた糸を吐き出した。
「業火!」ナンシーがすかさず燃やし尽くす。
「あのさ・・・さっき、その技うちの剣士が燃やしてダメだってわかったじゃん。
なんでもっかいやってんの? もうちょっと違う攻撃しないとダメだって学習しろよ」
俺が蜘蛛に突っ込む。
「しょ・・・しょうがないでしょうーが! 蜘蛛はね、基本直接攻撃はしないの。
糸でぐるぐる巻きにして、消化液で溶かしながら食べるの!」
「なんだよ、その悠長な攻撃は。もうだめだ。こっちから行くぞ」
「ちょっ・・・ちょっとタンマ。一回だけ待って、考えるから」
「はぁ??」
なんか蜘蛛がモジモジし始めた。なんだこのモンスター?
「お・・・俺は、魔物に憧れた元人間なんだよ・・・。」
「「「ええ?!」」」
「可愛い娘たちを集めて、魔王に捧げればもっと強い魔力もらえるって魔王と約束してんだよ。
いまは、まだ弱いけどっ、てか、お前らが強すぎなんだけど。俺は強い魔物になりてーんだ」
「馬鹿いってんじゃねーよ。本当にアホだな。
自ら魔物になるとか。単純に強くなりたかっただけだろ? 魔物になんてならなくたって、強くなる方法はいくらでもあるぜ」
「俺は、人間のときは弱かったんだよ! 俺をいじめてたやつらを魔物になって食ってやりたかったんだ!」
「んで、復讐はできたの?」
「いや・・・一人で街まで襲撃にいけなくて・・・怖くて」
なに、このモンスター、馬鹿なの、この子馬鹿なのぉ?!
そのとき、木の精霊ドリュアスが、目を覚まし、力ない声で話しかけてきた。
「蜘蛛の魔物よ・・・もう一度人間としてやり直さぬか? 我の力で戻そうぞ」
「ほら、木の精霊様まで、お前に同情してるぞ。
もう、あきらめろ。お前がこれ以上はむかうなら、俺たちも容赦しねーぞ」
蜘蛛のモンスターは、モジモジしながら、最終的に謝ってきた。
「ドリュアス様、どうか俺を人間に戻してください。 もう一度やり直させてください」
蜘蛛は前足をスリスリしながら、ドリュアスを拝んだ。
ドリュアスを縛っていた鎖を蜘蛛が解く。
ドリュアスが一気に息を吹き返す。
枯れ果てていた大樹が生気を取り戻し、枝葉がぶわっと生えてきた。
それと同時に、ドリュアスの周りを暖かな陽の光が包む。
「蜘蛛の魔物よ、こちらへ来なさい」
巨大な体を揺らしながら、よたよたとドリュアスの元へ駆け寄る。
ドリュアスが蜘蛛の頭の部分に両手をかざすと、黄色い光が蜘蛛の身を包む。
その瞬間、強い光で一瞬なにもかもが白くなり、光が消えて目が慣れたころには、一人の痩せた少年が座り込んでいた。
なんだ、子供かよ。
「俺、罪を償います。これから一生償ってきます。人間としてまっとうに生きていきますから」
号泣する少年。それを見てほほ笑むドリュアス。
「ふぅ~~一件落着じゃね??」
俺は、肩の荷が下りた感じがした。
「アルマちゃん、アルマちゃんはいる?」
泣いていた少女たちがこの光景をみて、喜び合っている。
その中で、ひときわ可愛い女の子が手をあげた。
「はい! アルマです! 私がアルマ!」
やべーーまじでかわいい!
赤いワンピースに白いエプロン姿のツインテールの女の子だった。
「助けにきたよ! お兄さんから頼まれてたの! みんな助けるからね!!」
シーアが、そういって、檻を壊して、捕らわれていた女の子たちを救出する。
ドリュアスが、俺に手招きをしている。
「勇者よ、魔物に身をついやした少年を救い、可哀想な少女たちを救い、そして我を救ってくれたことすべてに感謝します。
そなたに、ドリュアスの加護を授けましょう。」
俺の頭にドリュアスが手をかざすとさっきと同じような光に体が包み込まれた。
チャラララチャッチャッチャー♪ 勇者トーマは、土属性魔法 アルテマ を覚えた。
どうやら空から隕石をふらせて攻撃できる強力魔法らしい。
「あら、やだ! トーマったらそれ最高にいい魔法よ!
普通こんな段階じゃ覚えられないのに! アタシは、このあたりで防御魔法ディフェンザぐらいしか覚えられなかったわ」
ナンシーがびっくりしている。
「モンスターを倒さず、救ったからです」ドリュアスがにっこりとほほ笑む。
なるほど、俺はどうやらSSクラスの攻略を自然とやってのけたらしい。
無事、なにもかもを救出して、このクエストは終わった。
さて、どうせ次もどっか行けって言われるんだろうな・・・と思っていた矢先だった。
「勇者よ・・・南の島の楽園に火の精霊サラマンダーが、危機に瀕していると聞いています。
どうか、また助けにいってはくれぬか?」
「はいはい。そうくると思ってました。行きますよ!行きます!」
俺は、ちょっとため息をつきながら、答えた。
「それにしても、なんで魔王は若い娘を集めようとしてるの? エロ爺なのかしら?」
ナンシーが小首をかしげる。
ドリュアスが、困った顔して眉をひそめながらため息をつく。
「どうやら、魔王は女性を大変好む者らしく、世界中の美しい女性を自分の手中におさめようと企んでいるようなのです」
「はぁぁぁぁぁあ?!!!!!」
俺は、その事実を聞いて驚愕した。
なにその、この世の全男子を敵に回すような企み。
全部独り占めしてハーレム作るだと?!!!
しかも美女ばっかり?!
許さん!
まじ、許さん! 魔王ぶっ殺す!!!
俺は、いままでフワフワしてた魔王のイメージが最悪のものとなり、打倒魔王で心が決まった。
「ええええええ、女好きなの~~~?
ちょっとがっかりぃ~~! でも、ノンケの好色男を落とすってのもまた俄然燃える~~~~!!」
ナンシーがまたアホなことほざいてる。
「キャー! 無理やりってやつですね!! ノンケを無理やり・・キャーやばいーーーーー!!」
シーアがものすごい勢いで、ノートになんかまた書いてる。
ドリュアスが、気の毒そうな目で俺をみている。
はい、そうなんです。俺以外、今のところ変態しかいないパーティです。
どうか、神様、お願いですからまともな人をパーティにください。
もうツッコむことに疲れました。
かくして、俺たちはドリュアス救出クエストを完了し、無事アルマも救い出し、大団円を迎えることには成功したのである。
無事オールクリアを成し遂げたトーマ!
次なる目標は、南の島のサラマンダー救出!
そして、魔王のあくどいハーレム計画を打ち砕け!
まだまだ冒険は続きます。