6. 西の森 ① ノーム
ヨシュアを失った一行。傷心ながら西の森へと向かいます。
トーマは新たな武器も手に入れて・・・。
難関のオリハルコンクエストを攻略した俺たちは、500万Gという大金を手に入れた。
でも、同時にグレムリンの少年 ヨシュアを失った。
ヨシュアがせっかく俺たちに確実にオリハルコンが手に入る方法を教えてくれたにも関わらず、運だけのウルトラCの大逆転を狙って死なせてしまった。
外道な俺でも、あの素直でかわいかったヨシュアを失ったのはかなり大きなショックだった。
しんみりとした重い空気が、パーティに流れる。
シーアは悲しみにくれて、萌えどころではなくなっていた。
ナンシーが、シーアの肩を抱いて、ずっと励ましている。
「何も失わずに、戦うなんて虫のいい話はないのよ。
死を悼む心は大事。
でもね、それで戦うことを放棄してはダメ。
ヨシュアの魂は私たちに刻まれた。あの子の優しい心をずっと忘れずにいましょう」
ナンシーの言葉が、やけに胸に沁みる。
武器屋のカンザスが、500万G以外に特別な武器を作ってくれるという。
それは、俺のLVに合わせて強くなっていくオリハルコンを素材とする進化形武器だった。
適度に重みのある美しい刀身をもった剣だった。
剣の根元に特別に「ヨシュア」と掘ってもらう。ヨシュアが俺に命をかけてくれたようなものだからだ。
俺は、この相棒と戦ってく。
剣を手に入れ、その足で防具屋に向かい、適当な防具を購入した。
「もう少し、休んでもいいが、どうする? 西の森のドリュアス救出は」
「アタシはOKよ。いつでも出発できるわ。
ちゃんと立ち直ってるから大丈夫! 修羅場くぐってきた数は伊達じゃないわよ。」
ナンシーお前、まじでなんか頼りがいあるな。
もしかして、すげーいい男なんじゃないか?
シーアは、泣きはらして真っ赤な目で俺を見た。
「私も大丈夫です。ちょっとしばらく召喚獣が使えないかもしれないので、サポート魔法でがんばります!」
「おお! 召還以外もできたのか?!」
「はい! 戦闘系ではなくパーティサポート系ですが、なんとか!」
俺たちは、食料と回復薬を購入して、西の森へと出発することになった。
アイテム屋で準備をしていると、俺たちが西の森へ行くと聞きつけた狩人が話しかけてきた。
「西の森は、ノームやエルフたちがいる平和だったころと違って、今は魔物が巣くう恐ろしい森になってる。
下手に足を踏み込むと危険な目にあうぞ」
「ああ、知ってる。俺たちは魔物にとらわれたらしい木の精霊のドリュアスを救出しにいくんだよ」
「おお、なんと! では私からもお願いがあるのです。
私の大事な妹が、あの森に間違って入ってしまって、戻ってこないのです。
何度も探しにいったのですが、そのたびに魔物にやられてしまい・・・。
どうかどうかお助けください! 妹の名は、アルマです。
この羽飾りをみせてください。私からの依頼だとあの子に伝わるはずです」
ドリームキャッチャーのような鳥の羽でできた円形のキーホルダーのようなものを渡された。
「わかった。とりあえず、ボスは倒せば、他の魔物も消えるんじゃないかな。
妹も探すから。見つけたら一緒に連れてかえってくる」
「ありがとうございます!!! 妹を奪還してくださったときは、ささやかなお礼をさせていただきます」
俺たちは、二つの使命を抱えて西の森に挑むことになった。
「まあ、あれだ。俺ももうちょっと今回の件で心を入れなおした。
ナンシーに頼りきりだったけど、少しは自分の力で戦ってみるから、ナンシーはサポートに回ってくれ」
「あら~~~! トーマ成長したわね! お姉さん嬉しい! ちょっと寂しいけど、我慢するわ!
後ろで応援してる! 本当にやばいときはバッサリいっちゃうけどね!」といって、ウィンクをしてくる。
「ああ、頼む」
シーアもようやく笑顔を取り戻し、妹奪還に燃えている。
「がんばりましょう!!! 絶対魔物を倒して、妹さんを助け出しましょう!!」
モンスティーユ町を西の方角へ出て、そのまま突き進む。
はじまりの草原よりやや出てくる敵は強かったが、あの白銀の龍に比べたらなんてことはなかった。
俺のLVは、47から一気に55まで上がっていた。
力と健康にだいぶ能力値を振っているので、攻撃力もHPもずいぶんとあがった。
剣技もスラッシャー以外に、九重連斬という9回にもおよぶ連続技もいつのまにか覚えていた。
ふにゃふにゃしてた自分に一本芯が通ったような感覚だった。
相変わらず一番パーティの中じゃ弱い部類だったけど、俺なりに戦えるようになってた。
5、6回の雑魚との戦闘を経て、西の森の入口へたどり着いた。
禍々しい邪気が森の奥から漂ってくる。
一歩でも踏み入れたら後戻りはできない。
俺は振り返り、二人を見る。二人とも俺の目をしっかりとみてうなずいた。
3人で一気に森へと駆け込む。
走り抜けて進もうとしたのだが、急にシーアがふらついた。
と思ったら、俺もクラクラしてきた。
ナンシーだけがしっかりしていた。
「やばい、やられたわね。どこにいるのよ!」
体がしびれていうことを聞かない。
どうやらマヒ系の毒霧を嗅いでしまったようだ。
さすが、ナンシーはLV999だけあって、耐性が半端ない。
巨大なラフレシアのようなサボテンのような食人植物が姿を現す。
こうして、毒霧を吐いて動けなくして、人を食ってそれを養分にして生きるタイプのモンスターだ。
ナンシーがニヤリと笑う。
「ワタシはね、4大魔法すべて使いこなせるのだけど、特に火の魔法が好きなの。
燃え尽きなさい。業火!!!」
敵の体から大きな炎を立ち上る。
ナンシーの剣技がうなる。大剣を下から上に振り上げただけで、大きな風の刃が出来上がる。
その刃は一直線に敵めがけて進み、体を真っ二つに切り裂いた。
ナンシーが浄化魔法を唱える。
ようやく俺たち二人のマヒが解けた。
「すまねぇナンシー、頼りきりだな」
「いいってことよ! にしも本当になんか魔物が強すぎよね。
なんだかおかしいわ。ここまだ序盤よ?
LV20くらいでくるところなのに。いきなり中ボスクラスが現れるなんて。」
「魔王とやらが、なんかやらかそうとしてんじゃねーか?」
「そうね~。世界征服を加速させてるのかしら」
「魔王って・・・イケメンなのかな・・・」
シーアがちょっとうっとりした顔している。
「えええ、そんなことアタシ考えたこともなかったわぁ~~~!
しょぼくれたジジィ想像してたのにぃ~!
でも、もしイケメンだったらアタシ倒せないかもぉ~~~~!」
「きゃーーー! 厳つい剣士に蹂躙される魔王とか・・・やばい! 萌えてきた!!!
メモしとかないと!!!!」
「アタシも俄然ヤル気でてきた~~!」
お前ら、死んでください。
そんなんで、倒される魔王が可哀想すぎます。
「とりあえず、魔王がイケメンかどうかは置いといて、先を急ごう」
「「承知~~♪」」
ふざけてはいたが、またいつものアホみたいなノリの明るい雰囲気が戻ってきたことはいいことかなと思った。
「・・・にしても・・・森の中を今さまよってるけど、ドリュアスってどこにいるんだろ」
「「え?!」」
俺たちは、情報収集不足だったのかもしれない。
ひとまずけものみちに沿って進んでみたものの、森奥深くまできたところで、その道が消えていた。
そのとき、あの狩人から預かった羽飾りの鈴がチリンとなった。
風にゆられて、チリンチリンと鳴る。
その音につられたのか、一匹のノームが土の中から顔を出した。
「お前ら 何者? なぜ その 羽飾り もってる?」
「俺たち、魔物倒してドリュアス助けにきたんだよ。この羽飾りは狩人からもらった。
そいつの妹もついでに助けるためにな」
「それ、ノームがあげたもの。それノームが作ったもの。それ持ってるやつら仲間」
「まじか! なあ、ドリュアスの捕らわれてるとこを知らないか? 知ってたら教えてくれよ!」
ノームは首を左右にコキコキと振りながら、どうしようかと迷っている。
「ん~~困ったわね。何をそんなに迷ってるのかしら?」
「私たち、信用ならないんですかね?」
「でも、この羽飾り持ってるやつら仲間って言ったぜ」
俺は、羽飾りをもう一度見る。
ノームが口を開く。
「ドリュアス様のとこにいったやつら みんな 死んだ おまえらも しぬ かわいそう」
どうやら、俺たちもやられるんじゃないと思い、教えることを躊躇していたようだ。
「大丈夫だよ。俺たちは強い。魔物にそうそう簡単にやられたりしないから」
ノームは、じっと俺たち3人を見つめ、「わかった」とうなずいた。
「ドリュアス様 いる ばしょ つれてく わるい まもの いっぱい」
ノームがなにかを唱えると、いきなり足元が沼に変わり、ずぶずぶと体が沈みこんでいく。
やべえ、底なし沼じゃねぇか!!
「ノーム 信じる つれてく」
俺たちはジタバタするのをやめて、大きく息を吸い込んだ。
顔まで泥につかって、全身が沈み込んでいった。
底なし沼に飲み込まれた3人!
ドリュアスの元にたどりつけるのか?!