6・信頼関係は仲間として大切なことだろ?
噂には聞いていたヨシワラ。
目的の店があるからと、その日のうちに来る事になった。
路地の両側は、時代劇にあるような平屋や二階建ての木造長屋が並んでいる。
永住者となった者は、長屋の一室を、家賃ゼロで与えられるとのことだ。水は豊富でも、電気も水道も作られてない世界だ。俺のアパートよりも住み心地は悪そうだ。
「お兄さん、遊んでいかない?」
「3人で楽しみましょうよ」
ピンク、青の髪の色をした美少女2人が、逆ナンしてきた。
美少女といえるけど、現実ではありえない目の大きさをしており、アニメキャラに整形したような異様さがあった。彼女らを見ると、シャアナは自然な感じがあって、うまくカスタマイズされていた。
「楽しみませんっス!」
お断わりをしたのはセーラだ。
「やっだー、この子、ナビがいるじゃない」
「ナビなんて、早く捨てなさいよ」
「なにおーっ! うちの活躍が分からないなんて、バカバカバカモノっス!」
「セーラ、無視しろ」
俺はほっといて、道案内をするアイリスに付いていく。長屋で出来た迷路のようになっており、一人でうろついていたら確実に迷っていた。
長屋の裏側に大きな通路があった。そこには、果物、ドーナツ、武器、衣服、魔法力の薬やらの、様々な露店が並んでいる。人はまばらだけど、他と比べたら人の往来が多くて賑やかな場所だ。
その分、物騒な場所でもあった。お上りさんのようにキョロキョロとしてたらカモにされる。特に女から、よく声がかかった。
アイリスのように、全てを無視してスタスタと歩いたほうが良さそうだ。
「イブキさん、相手にしちゃダメっすよ。ぜぇぇぇーーったいにダメっスよ!」
「やきもちか?」
「イブキさんのために言ってるっス!」
「興味ないから安心しろ」
女を抱くのを目的に、エムストラーンに来る奴も多そうだ。
「男が来ると、こうなるのね」
横に並ぶと、アイリスは言った。
「おまえが来てもなにもないのか?」
「まさか。何度も襲われてる」
俺以上に危険だった。
「大丈夫なのか?」
万が一のために、いつでも剣を抜けるようにする。
「今のところは。そういう奴らって弱いのしかいないもの。眠らせたり、テレポートしたりして、逃げられる。今日はイブキがいるからかけてないけど、普段は、シュタンブルを使ってるし」
「シュタンブルって?」
「魔法。周りの人たちが、私のことを石ころのように意識しなくなるの。インビジブルと違って透明化はしないから、相手はちゃんとよけてくれる。すっごく便利」
「アイリスさん、ネオジパングでもそれかけてるんじゃないっスか?」
「自衛よ。悪い?」
「単に人間が苦手なだけだろ」
「好きになるつもりもない」
「俺はどうなんだ?」
「あなたはセーラがいるもの」
「いなければ?」
「言うまでもない」
俺の信頼はセーラ抜きには得られないらしい。
「こっちだって、アイリスのことは信用できないけどな」
「なぜ?」
心外だと言わんばかりだ。
「一度裏切られている」
「昔のことを」
「一か月も経ってない。俺には、アイリスが何者で、どこのどいつか知らないんだ。男かもしれない。女なのかもしれない。俺よりも年上なのか、年下なのかもな」
「だいたい、予想できるでしょ?」
「できても確信はないんだ。シャアナは俺の高校時代の後輩だった。だから信頼できたんだ。やっぱり地球での本当の姿を知らないかぎり、信用はできない」
久保さんで尚更確信した。名前も姿も違った人は、ネットの匿名の誰かと相手をするのと変わりない。
「別に私は、イブキに信頼してほしいとは思わないし」
「信頼関係は仲間として大切なことだろ?」
「あなたのことだって。私は知らない」
「浅田一吹。27歳。一年前までは営業マンをやっていた」
「永遠無職じゃないんだ」
「当然だ。コンビニのバイト、塾の講師をやっていたこともある」
「塾って小学生?」
「ああ、訳ありで職を失っただけだ。住所も言おうか、千葉県船橋市……」
俺は自分の住所を口にする。
「それが本当なのか、私には分からないし。その顔だって」
「イブキさん、エムストラーンでも地球でもそのままっスよ。うちが保証するっス」
セーラが嘘をつかないのは分かっている。だからアイリスは黙った。困ったようにしている。
「言いたくなきゃ別に言わなくて良いさ。アイリスは命を助けてくれた。俺に武器を貸してくれたし、それ以上に強い武器を探してくれている。それは助かっている。ただ……」
「一緒にダークドクロを倒すのだから、わたしのことをよく知っておきたい?」
「そうだ。アイリスのことを知っといたほうが、命がけで守ることができる」
「別に守ってほしくないし」
「守るさ。シャアナのようにはさせない」
「それは、こっちのセリフ。守るのはわたしのほう。信頼とかじゃなくて、それが白魔法使いの役割だもの」
アイリスは足を止めた。
「ついたわ」
家はなかった。平屋の間に空き地のようなスペースがあった。その真ん中に、一メートルほどのサイズの平べったい岩が飾られてある。
まるで墓のようだが、刻まれているのは死者の名ではない。
剣や斧の絵が描かれてあった。
武器屋のマークなのだろうか。絵の下には、三の数字と下矢印があった。
アイリスは、手前の地面を杖で3回、コンコンコンと叩いていく。
小さな穴がぽっかりと空いた。
中には階段があった。横幅が60センチほどで、小太りの人なら入れそうにない狭さだ。
「入るわよ」
「話が終わってないぞ」
「いずれ」
話題から逃げるようにアイリスはスタスタと階段を降りていった。




